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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
130/179

Flag9―影―(11)

 コーチは一度咳払いをし、仕切り直し。ノスリからすれば漸く待ちに待った発表。どうしてそこまで気になるのかは、わからないが、多分俺達が面白い事をしているとでも思ったのだろう。


 しかし期待してくれている所、ノスリには悪いが、本当の事を教える訳にはいかない。何故ならこれは男のロマンだから。


「実はなノスリちゃん。俺達は今――」


『ぴんぽんぱんぽーん! えー……只今高等部の女子更衣室に覗きが入った。繰り返す、只今高等部の女子更衣室に覗きが入った。犯人は三人。一人は目付きの悪い、覗きをしていても不思議では無い茶髪』


 ノスリに虚構を植え付けようとした矢先、校内放送が学院中に響き渡り、コーチは「オー……」と情けない声を溢す。


 その上、無情にも校内放送たまだ終わらない。故に当然、学園長がチャイムの音を自分で、ノリノリで言っていた事なんて今は気にしていられない。


『もう一人は男子の制服を着た女みたいな男。いずれも高等部一年』


 ……今から学園長室に攻め入りたい。きっと捕まるだろうけど、気が収まらない。


『そして、最後は紺色の髪をした若い女教師……というかレイラだ。犯人は以上の三人。学院生徒、中等部、高等部、教師全員に告ぐ。授業関係無く、何としてでも捕まえろ。実戦の授業だと考えてくれて良い。捕まえた者には何らかの褒美をやる。尚、方法は殺さなければ問わない。好きなように遊んでも良い、辱しめても構わない。好きにしろ』


 レイラ女史……覗きの犯人として名前を挙げられるなんて……教師として良いのか……?


 ……いやいや、何を呆れているんだ。冷静に考えろ。教師に呆れる以前に現状を。学園長に喧嘩を売りに行きたいという気持ちには変わりはないが、学園長だけならともかく、俺、コーチ、レイラ女史以外の全員が教師生徒関係無く追い掛けてくるわけで……。


 俺はその懸念の材料の一つであるノスリに目を向ける。すると案の定、相変わらず薄いものの、少し楽しげな表情を浮かべていた。


「……犯人は……ツカサとコーチとレイラ……?」


 そんな問いを発してきたノスリに対して、コーチは「そ、そそそそんなわけある筈ねぇだろ?!」と誤魔化しにならない誤魔化しを行う。……が、恐らくと言うか、確実に、ノスリを誤魔化すのは不可能だろう。なんと言うか……既にそわそわしているし、例え犯人が俺達じゃなくても追い掛けて来そうだし……うん、やっぱ無理。


「コーチ! 逃げるぞ!」


 俺は一応コーチにそう呼び掛け、《暦巡》を召喚し、風、光、雷の三属性を纏い、走り出す。


 魔力の消費が激しいとしても、〝転移〟が使えるノスリを撒くには迅速に見えない所へ逃げなければならないので、こればかりはやむを得ない。


 そして逃げる準備なんてしていなかったコーチは当然「あっ、ちょっ!」と声を洩らすが、俺は振り返らない。


 俺は中等部の校舎の屋上から飛び降り、さっきまで居たところからは確認しにくい、木々が生い茂る中庭をとにかく走り、人気の無い高等部の校舎に近い木の影へと辿り着いた。


 ……さっき屋上から思いきり飛び降りてしまったが、身体は何ともない。その場の勢いで行ってしまった為、飛び降りた時はどうしようかと死を覚悟したが骨折どころか掠り傷さえもない。……魔法って凄い。


 そんな風に一息ついた所で考える。コーチはどうなったのだろうか……? もう捕まっていても可笑しくはない。


「コーチ……お前の犠牲は忘れないからな……」


「勝手に犠牲にすんな」


 俺の呟きにそう返しながら、俺が来た方角からにゅるっと現れたのは目付きの悪い茶髪オールバック。流石しぶとい。


「おー、生きてたか」


「死にゃあしねぇよ」


「それで、ノスリから逃げ切れたのか?」


「ああ、必死にお前を追い掛けて走ったら撒けてた……つーより、追い掛けて来なかったんだよな」


 危なかったわー、等と緊張感の欠片もなくコーチは言っているが、追い掛けて来なかったと言うのは不自然に感じる。


 だが、今はそれを考えても、わからないものはわからないので、別の問題へと頭を切り換える。


「コーチ」


「何だ? ノスリちゃんは知らねぇぞ?」


「いや、そっちじゃない。これからどうするかの話だ。わからないものはわからないだろうし」


「それもそうだな。それで? 何か考えでもあんのか?」


「考えって言うほどのものかはわからないけどさ、レイラ女史を探そうかなって」


「ツカサ……正気か……? あの人が普通の行動を取るとは思わないんだが……」


「それでもきっと腕は立つだろうから、生存率は上がると思う」


「生存率って……物騒な言い方だな……」


「いや、追い掛けてくる相手によっては下手すりゃ死ぬだろ……」


 カーミリアさんとかカーミリアさんとかカーミリアさんとか。


「……ああ……確かに。……けどよ、やっぱりレイラ女史と行動するのも中々にスリルがあると思うんだが……ほら、何か色々追われる理由増やしていそうだし……」


「なら、一度レイラ女史の様子を見てから合流するかどうか決めよう。どうだ?」


 俺の問い掛けに、コーチは「それならまあ……」と答える。少し間を空けた後にそう言ったあたり、完全に賛成と言うわけではないらしい。


「安心しろ。無理そうだったら諦めるし、最悪の場合の方法は考えてる」


「最悪の場合とか考えたくねぇな……。方法ってのは予想つくけど……」


「必ずしもそうなるとは限らないけどさ、それでも備えておくだけ損じゃないだろ? まあ、レイラ女史だし……」


「確かに。それもそうだな……レイラ女史だし……」


「じゃあ、まずは隠れながら校舎の外を探そう。校舎の中は見付かる危険も高いだろうから後回しだ。良いか?」


「「オー」」


 返事を確認したところで、俺は歩き出す。出来るだけ見付からないよう周囲に意識を張り巡らしながら…………あれ? さっき何かおかしかった。何処がと問われれば、主に声の数。


「…………またかノスリ……」


 その正体はやっぱりと言うか、ここで来たかと言うか、何を考えているのか今一読めない中等部の生徒。


「いえーい……」


「誉めてはないから……それで、何をしに来たんだ? 捕まえに来たのか? そんな風には見えないけど」


「違う……」


「じゃあ、何しに来たんだ? ま、まさかノスリちゃん……遂に俺のハーレムに加入したくなったのか……!?」


「……っ、……追いかけるのは面白くない……」


 不愉快だったのか、ノスリは若干眉間に皺を寄せた後、コーチのふざけた予想は無視して話を進める。本人としてはきっと「どうしてだと思う……?」とでも言いたかったのだろうが、コーチが居たので話を進めたようだ。流石コーチ。お陰で話がスムーズに進む。君の犠牲は忘れない。

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