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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
129/179

Flag9―影―(10)

 コーチの説明で全員が納得したであろう所で俺達は、作戦を遂行すると、無言で頷くことで合図を送り合い、目的の排気口や見遣る。


「ふへへぇ……良い体しているわね……憎らしいけど、そこもまた良いのよねぇ……じゅるっ」


 おい、誰だ。こんな大人を野放しにしているのは。


「何しているんですか……レイラ女史……」


「何って……覗きよ。何か問題ある?」


「問題しかないですね」


「けれど、あなた達も同じよね?」


「くっ……」


 そう言われてしまうと、不本意ではあるが、何も言い返すことが出来ない。この人と同類だと認めたくはないが。


 しかしそこで動じないのが、発案者であるコーチ。「なら話は早い」と、ここはお互いに協力しようと提案を述べた。


「嫌よ。言ったでしょう? このクラスの女子は私のものと……。絶対にあなた達には渡さないわ。だから勿論! 彼女達の裸も! それを被う衣服も! 彼女達の全て! 性格も! 容姿も! 生活さえも! 全部私のものなんだから! だから私以外の誰かに見られるなんてもっての他よ! そもそも、ここの排気口を最初に壊したのは私よ! 壊し続けているのも私! 経費の無駄だから直すのをやめようと進言したのも私! 故に! ここを使う権利は私にある筈なの! 私だけにある筈なのよ! 理解出来た!?」


 ドン引きである。普段からコーチと言う変態と接してきている俺達、いや、その変態を含めた俺達四人ともドン引きである。


 誰だ、こんな不審者を学校にのさばらせているのは。


 ……と言うか、そもそも、ここでそんなに騒ぐと――


「ちょっと何なのよ……って……アンタ達何やってんの……?」


 嗚呼、手遅れだったか……女王様が出た。


 桜色の髪をはためかせた女王様が出た。


 鬼も逃げ出すであろう……と言うか、俺が鬼でもきっと逃げ出す女王様が出た……。


「ちょっと男同士の会談を……」


 コーチ、流石にそれは無理がある。強ち間違っちゃいないけど、色んな意味で無理がある。間違っていないから、その答えは間違っている。


「僕はツカサ君とコーチ君によくわからないまま無理矢理連れてこられたからね。むしろ僕の方が何をしているのか知りたい位だよ」


 ユーリの野郎……! こいつ逃げやがった……! 俺とコーチを犠牲にして……。さっき顔には出さなかったけど、ノリノリだったじゃねぇか……。


「……さあ? 俺もお二人に連れて来られたので……何が何だか……」


 ヴァルぅぅぅううう!? まさかヴァルまで……いや、確かにヴァルは明言はしていないから嘘はついていないけど……。何故か今のヴァルはどこぞのルーナさんみたいに黒く見えるんだ……。


「ふぅん……それで?」


 アンタはどうなの? と、カーミリアさんが、その金色の強い眼差しを俺に向ける。一応何かは言わせて貰えるらしい。


「カーミリアさん」


「何?」


「その白い下着、凄く似合っているZEッ!」


「なっ、な、な、な、な、な……」


 俺の言葉で漸く自分の状態に気付いたカーミリアさんは、顔を真っ赤に染め上げて行く。


「コーチ、逃げよう」


「ラジャ」


「あっ、カーミリアさん」


「ぬぁっ、ぬっ、なぁにいよ!?」


「ごちそうさまでした」


「……っ! 息の根、止めてやる!!」


 体をしゃがみこみながら隠し、赤鬼も真っ青な赤で耳まで染め、俺達を睨む女王様は叫ぶ。


 これは困った……。どうしてこんなことになっているのか……しかし今は女王様と、直ぐに来るであろう教師や生徒たちの体勢が整う前に逃げなくては。


 俺とコーチは目立たないように心掛けながら〝光鎧〟纏い、とにかく走る。


 そうして辿り着いたのは、中等部の校舎の屋上だった。


「はぁ……はぁ……生きているか? コーチ」


「だ、大丈夫……だ……」


「よく逃げ切れたな……俺達……」


「ああ……カーミリアさんが下着姿じゃなかったら、確実に俺達は消し炭に……なってた……けど、ツカサ……」


「……どうし……た?」


「何だ、あの捨て台詞。あれのせいできっと俺達の生存率、下がったぞ……」


「ごめん……何か言わなきゃと思って……」


 さっき、その場の雰囲気であんなことを言ってしまったけれど、お世辞のつもりで言ったわけではない。ついつい本音が洩れた形だ。まあ、お世辞でも、お世辞じゃなくても、きっとカーミリアさんは怒っているんだろうけどさ……。


「それはともかく、コーチ」


「お前、あの発言を“それはともかく”で無かったことにすんのな」


「それだけ思い出したくないんだよ」


「その思いきりは男らしいとか思ったけど、無かったことにしたい発言も男らしいっちゃ男らしかったから、やっぱお前男らしいかどうかわかんねぇわ」


「回りくどい言い方だな。要はプラマイゼロで、俺は男らしいって事だろ?」


「……いや、まあ、うん。どうでも良いや」


「コーチが投げ出すなんて珍しいな。何かあったのか?」


「疲れたんだよ……俺も……つーか誰のせいだよ……」


「ははっ。……そういや、これからどうするかってのも考えないと駄目なんだよな……」


「酷く雑な流し方だな。……どうするかつっても、案外ここに居とけば大丈夫だったりするんじゃないか?」


「何が大丈夫……?」


「はぁ? ちゃんと話聞いとけよな。だから……さ……?」


「どうしたんだ? ノスリ」


「むぅ……ツカサの反応が薄い……」


 何食わぬ顔で登場したノスリに対して、えっ? 何で? と金魚のように口をパクパクするというコーチの反応にノスリは満足そうな素振りを少し見せるも、俺の反応に膨らます。


 反応が薄いと言われても、流石に毎度毎度、しれっと何食わぬ顔で何の脈絡もなく登場されては、誰だっていい加減馴れると言うものだ。


「ノスリちゃん……心臓に悪い……つーか、どうしてここに……?」


 そう言えば、コーチはこれを体験するのは初めてなのか。俺も初めは心臓が止まるかと思ったな……。


「ここ、中等部の校舎……」


「あー……そうだったな。ノスリちゃんからしたら、俺達がここに居る方が不自然だよな」


「それで、何が大丈夫……? コーチ」


「っ!! ツカサ! ツカサ!」


「何だ?」


「ノスリちゃんが! 初めて! 俺の名前を! 呼んでくれたぞ!」


 一体それの何が嬉しいんだか等と思ってしまったが、言われてみると、確かにノスリがまともにコーチの名前を呼んだのは初めてな気がする。


「良かったなー。おめでとう。けど、とりあえずさっさとわかりやすく答えてやれ、ノスリがもう一生名前を呼んでくれなくなるぞ」


 俺は誤魔化すのを忘れるなと言う視線を交えてコーチに言う。流石に覗きで逃げてきたなんて言えない。


「そうだった、そうだった。嬉しすぎて思わずトリップしちまう所だったぜ」


 コーチは俺の言葉に対して、本当にわかっているのかわからないが、わかっていると自信たっぷりな表情を、ノスリには見えないよう、一瞬俺に向けた後にそう言った。果たして一体何処にトリップするのか。いや、そもそも既に、とっくの昔にトリップ済みだったりするのではなかろうか?

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