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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
127/179

Flag9―影―(8)

「司さん」


「ヒィッ!?」


 そんな時、ルーナに話し掛けられ、思わず情けない声を洩らしてしまった。


「どうして怯えるんですか……失礼ですよ?」


 そう言い、頬を膨らませるルーナ。その仕草は可愛らしく、とても魅力的である筈なのだが、今の俺にはそう感じる事が出来なかった。理由は俺が情けない声を洩らした理由と同じである。


「ご、ゴメンナサイ……」


「謝るのなら私の話を聞こうとしてください」


「わ、わかりました……」


「まだ少し気になりますが……それで、司さんも行きますよね?」


「えっと……何が……?」


 行きますよね? ……イキますよね? …………逝きますよね?!


「ヒィィィイイイイ! お命だけは! お命だけはぁ!!」


 というか、『司さんも』って、“も”って俺以外の皆も道連れってするってことか!?


「そう言えば司さんは知らなかったんでしたね……すみません。えっと……日曜日にお祭りみたいなのがあるんですよ。そこへ司さんも一緒にどうですか? って言っているんですけど……それで、司さんは一体何を……?」


「……あっ、祭りね。うん。今のは気にしないで。ちょっとシャイニングリーゼントの副作用が今来ちゃっただけだから」


「そうですか……?」


 ルーナは怪訝な顔でそう言った。……引き気味というおまけ付きで。……ルーナの視線が心に突き刺さって痛い。


「シャイニングリーゼントに副作用何てあるのか!? ツカサ! 一体シャイニングリーゼントとはどんな魔法なのだ!? まさか魔術か!?」


 エル、お前はもう少し人を疑った方が良いよ……。いや、別にエルにそんな目で見られたい訳じゃないし、そんな趣味なんてないけどさ。


 そんなことはさておき、日曜日にある祭りと言うのは、正式には“魔飽祭”と呼ぶらしい。魔法でなく魔飽、魔力が飽和するということで魔飽。


 一年という周期の中で存在魔力の量というのは小刻みに変化しているらしいのだが、その変化の中でも三月の満月になる時が一番魔力の量が多く、その時の事を魔飽と呼ぶらしい。


 そしてその時に祭りが行われるので魔飽祭。


 なんでも、魔飽に思いを伝えると、その思いが届きやすいんだとか。実にロマンチックである。


 そして何故こんな時期に盛大な祭りが行われるのかというと、魔飽と言う、ロマンチックな言い伝えと、春先に行われていた収穫祭がいつの間にか混ざり、現在の魔飽祭になったらしい。


「それで、私はレディちゃんに賛成なのですが、司さんは行きますか? 魔飽祭」


 ルーナは微笑みを浮かべ、俺に問う。これはもしや、さっきまでの事をすっかり忘れていたり?


 そう考えると、さっきとは違って、こんな話が少し楽しく感じるけれど、もうこんな時期。祭りがあって少ししたら学年が変わって、ティアナ会長と話をした使い魔召喚。


 焦っては駄目だと自分でもわかる。だけど、月日の流れと言うものを意識してしまうと、どうしても、このままで良いのか、なんて意識が生まれてしまう。


 こんなことを一人で悩んでいたって、何かが解決するわけではないのに……。


「ツカサ……」


 そんな俺の内心を知ってか知らずか、俺の脳裏に浮かぶ少女に似た銀髪の彼女は、俺の名前を呼ぶ。


「私も行く……」


 そしてそう言うと、俺の目を真っ直ぐ見つめた。……これは、私も行くからお前も来いと言う意思表示だろうか。


 ルーナの向ける笑みに加えてこれは、益々俺に有無を言う権利が奪われて行っている気がする。まあ、そもそも今回は有無を言う気なんて無いんだけど。


 日曜日と言うと、今日は水曜日だから四日後か……。一応予定はあったかなんて考えてみるが、念のため、なんてものは不必要だった。


 俺も行くと言う趣旨を皆に伝えると、直ぐに集合場所と時間が決まり、同時に話も弾んだせいか、気付くと昼休みは終了していた。





   ‡  ‡  ‡





「おはようツカサ……って大丈夫か……?」


「コーチ……これが大丈夫に見えるか……? というか腕とか脚は付いているよな……?」


「大丈夫だ。付いているから、お前の見ている景色は幻じゃねぇから」


 コーチにそう言われ、少し安心し、俺は机に突っ伏する。


 もう、身体中が痛い。節と言う節が悲鳴を上げている様な気がする。こんなのカーミリアさんに扱かれた時以来の感覚だ……。まさか、同じ様な感覚を再び体験することになるとは……。


 こうなった原因は昨日。結局忘れてなんかいなかったルーナとの追いかけっこが原因だ。


 追いかけっこと言うと、とてもポップで懐かしく、無邪気で楽しげなイメージを与えるが、実際の内容は、スプラッタになり得る、楽しさの欠片もないものである。


 そこで何があったのかと言うと、三回目のトラウマが刻まれた。としか言いたくない。思い出したくもない。


「あっ、おはようございます。司さん。コーチさんもおはようございます」


 噂をすればなんとやら。追いかけっこの鬼様のご登校である。


「お、オハヨウ……ルーナ……」


「おう、ルーナちゃん、おはよう」


「あれ? 司さん、どうかなさったんですか?」


 不思議そうに俺を見るルーナ。何この子、自覚がないとか超怖い。


 というか、どうしてこんなにピンピンしてんの? 俺は《暦巡》の能力も使って全力で逃げていたのに。


「ちょっとな……気にするほどじゃないよ」


 俺がそう言うと、ルーナは「この国の冬は厳しいですから体調管理には気を付けてくださいね」と言い、俺達の前から離れ、自分の机の元まで歩いて行った。


「ツカサ……」


「何だ? コーチ」


「死ぬなよ」


「いや、そこは助けてくれよ……」


「無理」


「ですよねー……」


 そんな傍から見るとくだらないやり取りを、お互いに神妙な顔で交わしていると、チャイムが鳴る少し前の時間にも関わらず、黒板に近い方の扉が開き、一人の教師が入ってきた。


 しかし、その教師はいつもの見慣れた教師ではなく……。


「おはよう皆さん。今日はネアンの馬鹿が出張で休みだから私が臨時で、A組と兼任だけど担任を務めさせてもらうわ」


 紺色の髪に黒い瞳、美人という言葉がぴったりな人。そう、A組の担任のレイラ女史だった。


 そう言えば今日はネアン先生は出張でいなかったんだなと、今更思い出す。昨日の追いかけっこのせいですっかり忘れていた。


「「「「ウォォォォォオオオオオオオオオオオ!!」」」」


 そんな俺とは対極に突如として雄叫びを上げる男達と一部の女子達。無理もない。これまでネアン先生の代わりに来ていた人は少々頭のてっぺんが乏しい教師や、ヨボヨボのお爺ちゃん教師だったのだから。


「ヒャッホォォォォウ! キタキタキタァ!!」


「ふふふふふふふふっ……メガネですから……」


 落ち着けコーチ。そしてお前もかメガネ。つーか、メガネ関係ねぇじゃねぇか。お前はまともだと…………いや、そんなことはなかった。


「静まりなさい!」

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