Flag9―影―(6)
「ティアナ会長はあくまでもの自分の目的が一番重要なんですね……」
この人は学院を悪い意味で賑わしてしまっているからと言うよりも、利用価値あるから、その価値が損なわれないようにするために俺を助けているのであろう。
「ええ。私が言ったこと、忘れないでね」
ティアナ会長は良くできましたと微笑みを浮かべて俺に念を押す。
……だが、こうして話をする限り、ティアナ会長が人を価値無価値で判断する人の様には感じない。むしろ言い回しの割に受ける印象が逆に感じる。
だからだろうか、矛盾しているというか……今一、考えていることが見えない人だ。……まあ、かと言って人の事情には深入りするべきではないのだろうけど。
「わかったのならさっさと帰りなさい」
「帰ってほしいんですか……」
「ええ。今日はもう貴方に用は無いもの。邪魔以外の何物でもないわ」
何かもうあれだね。こうはっきりと言われると最早清々しい。その上、『今日は』と来た。きっとまた呼ばれて、用が終わると「邪魔だわ」とか言われるんだろうな……。
「何かしら……? そんな恨めしそうな目で見て……まさか今から私を襲おうってつもり……?」
「……失礼しました」
このままだときっと体力が持たない……。俺はティアナ会長に一応挨拶をして、素直に生徒会室を後にした。
その後は、一年C組の教室に戻り、今行われている授業が終わるまで、ティアナ会長に借りた本でも読もうと思ったが、目的地の扉を眼前にして気付く。
……閉まっている……。
俺は結局、授業が終わり、皆が戻ってくるまで教室の前で待つこととなった。
‡ ‡ ‡
「良いですか? 司さん。授業に出なかったのは構いません。ですが、どうして前もって言ってくれなかったんですか?」
「アハハ……ルーナ、もうやめたげようよ……。ほら、ごはんも冷めちゃうしさ……。それに、ツカサ君だって前もって言えたら言っていた筈だよ……?」
時間は経過し、お昼時。 俺がサボタージュした授業が終わってから二限後。おおよそ百分後。場所はお洒落なカフェみたいな学院の食堂の、ほぼ定位置となった端の方。
初めてここに来た時の丁度二倍という、行動するにしてはやや大所帯となったメンバーでテーブルを取り囲む。
「それでも、今は何かと物騒ですし……」
「まあ、いいじゃん? ツカサ君はぴんぴんしてるし、遅刻しちゃってサボりたくなる事は誰にだってあるしさ。それに、流石に死んじゃったりはしない……よね?」
そしてこの状況はというと、授業をサボった……というより何も言わなかった事を俺はルーナに咎められ、レディがそれをフォローしてくれているのである。発言に自信がないのは別として。
ちなみに、俺が生徒会室に居たとは言わず……いや、言えず、図書館に行っていたという事にしている。
「そうだぜ、落ち着こうぜルーナちゃん。別にツカサが授業サボって女の子と二人っきりの時間を過ごしていた訳じゃねぇんだからよ」
「ブフォッ!?」
例え話が恐ろしく事実を捉えている気がするのが気のせいではないのがコーチのフォロー。時々こいつは無自覚で爆弾を放り込んでくる気がするのは気のせいだと信じたい。
「なあヴァル! ヴァル! ツカサが水を吹いたぞ! 見たか!? 凄く綺麗に自分の顔にかかってるぞ!」
今のを面白がって笑う幼女……いや、同い年の少女と、何かに気付いた様子の凄く年上に見えるその従者。
俺はその従者の方に、水も滴る良い男を目指した冷静な素振りで顔を拭いながら、必死に視線を送る。その際に水も滴る良い男感が損なわれいるのは仕方ない。“目指した”のであって、その物ではないのだから。
「そうですねぇ……。しかしツカサ様もお気の毒ですね。このタイミングで咳が出るなんて」
流石ヴァル。どこぞの変態な紳士とは違う。尊敬する。ありがとう。本物の紳士は君しかいない。水も滴る良い男という言葉は君の為に存在するのかもしれない。
「……本当に咳だったのか――」
「尻」
「「ブフォッ!?」」
「凄いぞヴァル! 今度はユーリとコーチが綺麗に水を吹いて顔がびしょびしょだぞ! というかツカサ! シリって何だ? まさか魔法か? 魔法なのか?」
「……まあ、そんなとこだ」
「凄いぞツカサ! そんな魔法があるのか! 初めて知ったぞ!」
簡単に騙されるエルが少し心配になったのはまた別として、疑いの言葉を投げ掛けようとしてきて水を浴びる結果になり、恨めしそうに俺を睨む緑髪に俺は黙れと目線で促す。
「ツカサ、テメェいきなり何を言いやがんだ……」
あー……忘れていた。“尻”に反応するもう一人。茶髪に赤く鋭い目付きの変態。正常では無い方の状態のやつ。