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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
123/179

Flag9―影―(4)

「その場合は仕方ないわ。強制する訳にはいかないし。だから、太股が好きとか太股を凄く見ているとか、胸は太股の次に見ている……みたいな感じの噂が流れるだけよ」


 何それ。強制だろ……。けど、そんな事を知ってるって事は……。


「ティアナ会長は最初からそのつもりだったんですか……?」


「あら、人聞きが悪いわね。一体何の事かしら?」


 白々しい。しかもそれを、そんな風に思われているのがわかっていて言っているのだから余計に質が悪い。意地が悪そうに笑っているのもその証拠だ。


「……わかりましたよ。誰にも言いませんから教えてください」


「しょうがないわね。貴方がそこまでして教えて欲しいと、何としてでも知りたいと言うのならば、私もその期待に応えて差し上げましょう」


 どうでも良いから早く言ってくれないかな。態度とやれやれって表情がすげぇ腹立つ。


 だが、さっきまでのふざけた振る舞いは何処へやら。ティアナ会長がふざけたのはその一瞬だけで、直ぐに先程少しだけ垣間見せたものと同様の真面目な顔付きになった。


「私が知りたいのは……この学院の学園長のルイス=エバイン及び彼女と同世代の教師達の企みよ」


「企みって……あの人達が何か物騒な事を企てていたりするって言うんですか?」


「さあね。私としてはクーデターみたいなことでも企てていると思うのだけれど、実際はどうかはわからないわね。でも、彼女達が国に何らかの不満を抱いているのは確かよ」


「……ですけど、学院の教師をしているような人達がクーデターは無さそうですけど……」


「あくまで思う、よ。けど、貴方も不審に思わない? ルイス=エバインと親い教師達の出張が多いことに。現に貴方の担任も明日出張でしょう?」


「……えっ、そうなの?」


「は……? あ、貴方の担任の事でしょう?!」


「ほ、ほら……うちのクラスって朝からわちゃわちゃしていますし……ネアン先生もボケたりして騒がしいから……」


 ……けど、言われてみると確かにネアン先生の出張は多かった……気がする。


「はぁ……想像はつくわね。けど貴方も連絡事項は確りと聞いておくべきよ……」


 ティアナ会長の呆れの混じる言葉を否定仕切れず何も言えない……。しかし、苦し紛れの言い訳に聞こえてしまうが、これとそれとはまた別だ。


 俺は「善処します……」とティアナ会長の目は見ずに呟くが、直ぐに確りと目を合わせて、自分の考えを述べた。


「ティアナ会長の言う通り、ネアン先生の出張が変に多いとは俺も思います……でも、だからと言ってそれだけで何かを企んでいるとは判断出来ません」


 不審ではある。けど只それだけ。それだけで何かを企てていると判断するには早計すぎる。


「……そう。それは何の心当たりも無いと言う意味も含まれているのかしら?」


「申し訳無いですけど、そうなりますね……」


「わかったわ。なら、何かわかったりでもしたら教えてくれる? ……どうしたの? そんな呆けて」


「……いや、意外とあっさりしているなって……」


「あら? 嘗められたものね。私だって頭が悪いわけでもないの。これだけでわかって貰おうとは思ってなんていないわ。当然でしょう?」


 ティアナ会長はそう言い、涼しげな微笑みを俺に向けてきた。しかし直ぐ様「けどね」と言い、されど否定のその言葉とは裏腹に自信の満ちた笑顔で言葉を続ける。


「もし、貴方にとってあの人達が信じられなくなったら私の所に来なさい。快く迎え入れてあげるわ」


 ティアナ会長は何を知っているのか? その言葉には微塵の揺らぎも無い。そのせいか、何処か部屋の空気が張り詰めた様な気がした。


 気付けばお互い無言でまるで時が止まったかのよう……しかし、それは案外長くは続かず、それを作り出した人によって再び時は動きだした。


「……さて、それじゃあ少し明るい話題に戻しましょうか」


「ティアナ会長」


「何かしらツカサ君?」


「……どうして俺に?」


 話を聞くだけではなく、何の事を言っているのかわからないが……いやいや、それは不適切。どう言葉にしようか。言葉にするには抽象的過ぎて、だから『どうして』何て言葉でしか問い掛けることが出来なかった。


「どうして……? それはどうして仲間に引き込むのかということかしら?」


 けれどそんな大雑把な質問であったのにも関わらず、ティアナ会長は俺の言いたかった事を上手く汲み取り言葉を返してくれた。


「はい。わざわざ話を蒸し返してしまってすみません」


「単に利用価値があるからじゃ駄目かしら?」


「それって情報源としてだけ……では無いんですよね……?」


 質問に対して質問で返して、また質問で。最早会話の成り立ちとしては歪な形のやり取りを経て、その先でティアナ会長が見せた言葉の色は呆れだった。


「……貴方は少し自分を過小評価し過ぎではないかしら?」


 過小評価……? いや、そんな事は無いと思う。何故なら俺は弱い。模擬戦だって勝つことは殆どない。その殆どだってまぐればかりで、その勝った相手にはそれ以降一勝だってしたこともない。


 その上、俺が原因で現在学院で起こってしまっている事態はどうだ。回数を経すぎて慣れ、落ち着きは出てきたが、誰かが助けてくれないと俺には何も出来なかった。


 さっき絡まれた時は偶然解放されたがやはり偶然。結局、俺が今この場所にいるのは、この位置に立っていられるのは偶然ばかりの積み重ねで、最初からいつ死んでもおかしくない状況があったのに、そんな一片ばかりの一つを偶々崩さず積み重ねれただけで、俺にそんな価値は、きっと――


「――痛っ!?」


 弾ける様な音を伴って額に広がる鈍い痛み。目の前ではティアナ会長が右手の中指を俺に解放した状態で、いわゆるデコピンした状態で、先程よりも呆れを積み重ねた表情を俺に向けていた。


「不愉快よ。人が折角誉めているのだから、もう少し素直に受け止めなさい」


「は、はい……すみません……」


「そもそも貴方は十分に不思議生物よ。喜んで良いの」


 いや、それは誉めているのか……喜んで良いのか複雑だ……。


 そうは思っても、当然口には出来ない。……というか、ティアナ会長は俺に口を開く暇なんて与えてくれなかった。


「まず、あれだけルイス=エバイン達に気に入られているのはおかしいの。そもそもルイス=エバインは生徒の前には姿を現す事だって珍しいのに、貴方とはよく会話をしているじゃない」


 学園長に至ってはよくサボっているからでは……? ……いや、流石にこれは言えない……。


「次に貴方の周りの生徒よ。……ねぇ、貴方達の学年が何て言われているか知っている?」


「……いや、知らないです」


 そもそも何かしらの呼び名があるなんてこと自体初耳だ。


「八期前の再臨だとか、八期前や二十七期前以上の才能だとか言われているわ。それに来年、いや、来年度ね。中等部……と言うよりノスリ=アビエスが高等部に上がってきたら、王都魔術学院始まって以来の黄金期だとか言われているわ」


 ……そうなの? あの馬鹿とか変態とか、その両方染みた人達ってそんな呼ばれ方しているの? 何それ怖い。


 というか、二十七期前って今俺が抱えている本を持ってきた人の事だろうか? 強い人って変わった人が多いの……?


「……何を考えているのかわからないけど、貴方は友人達に謝るべきだと思うわ」


「ご、ごめんなさい……」


 どうして俺の考えがわかるんだ……。一応これでも表情に出ないように気を付けているのに……。


「……とにかく、その黄金期の中心……貴族だけではなく英雄の血筋、更に学院屈指の実力者を口説き落としているのは貴方だけなのよ」


 口説き落としているって……言い方は少し人聞きが悪い気もするが、確かにティアナ会長の言う通りノスリやカーミリアさん、ケトル、エルにユーリといった皆とは仲良くして貰っている。……けど、それって俺自身の力ではないと思うんだよな……。


「それも運が良かったとしか思えません」


 ルーナやコーチが居たからこうしていられる……というか、その二人が居なかったら俺は多分ここには居なかった。


 その他にもレディやヴァルだって、俺がこっちの世界の人間じゃないと言うことを信じて、それでも尚変わらずに接してくれている。クラスの皆だってそうだ。


「……なら、どうして運が良かっただけの貴方が、それだけの貴方が教師達の気を引いているのよ?」


 ぽつりと、そう呟いたティアナ会長の言葉には微かな怒気を孕んでいるようで焦ってしまう。


「ティアナ会長……?」


「さっきから不愉快と言っているでしょう? 人が言った言葉は正直に受け止めなさい! 傲れろとは言わないけど、そんな風に自分を過小評価して自分は違うって素知らぬ顔をしているのが一番苛々するのよ! わかった!?」


 そして捲し立てる様にそう言われた俺はたじろぎ「は、はい……」と呟くような小さな声で返してしまった。はっきりとしない返事だったためか軽く睨まれたが、次にティアナ会長が発した言葉は意外にも柔らかかった。


「悪かったわね……私も少し感情的になりすぎたわ」


「い、いえ……」


 悪いのは俺ですし……などと続けそうになり、咄嗟に言葉を呑み込む。少し不審に思われたかもしれないが気付かれた気配はないので良いだろう。

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