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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
122/179

Flag9―影―(3)

「構わないわ。今は私が管理しているもの」


「てことはやっぱり……」


「ええ、貴方の思っている通り私はこの教室の関係者よ。詳しく言うなら生徒会長って役職ね。本当は座ってからにでもしようと思っていたのだけど、この際だから今、自己紹介も済ましてしまいましょう」


 女子生徒はそう言うと、自分の胸元に左手を添える。


「私はご存じの通り、王都魔術学院で生徒会長をしているティアナ=ハーケンベルグよ。よろしくお願いするわ」


 女子生徒……ティアナ会長は何処か気取っている様にも見えるポーズをとっているものの、全く臭さの感じられない、むしろ気品が感じられる、そんな違和感のない優美な振る舞いで俺に右手を手を差し出してきた。


「俺は一年のツカサ=ホーリーツリーです。よろしくお願いします」


 こんな感じで良いだろうか。俺は無難な自己紹介を済まし、差し出されているティアナ会長の手を握る。


「それじゃあ、座ってお話しでもしましょうか。折角お茶も用意したんだもの、冷めてしまうと勿体無いわ」


 ティアナ会長は俺の手を軽く握り返すとそのままそう言い、俺を部屋の奥のソファの前まで引っりながら連れて行った。とてもスベスベしてて柔らかかったです。


「ツカサ君、何か良いことでもあった? 気のせいか機嫌が良さそうに見えるけど」


「いえ、気のせいです」


 そんなやり取りをしながら俺達はソファに対面に座る。


「そう。じゃあ、早速お話ししましょうか。ああ、でも別にそんな畏まらなくても良いわ。さっきも言った様にゆっくお茶でも飲みながら聞いて頂戴」


 そう言われ俺は「はい」と返事を返して、一応コップを手に取り、お茶を少しだけ口に含んでテーブルの上に戻した。


「簡潔に言わせてもらうとね。私が貴方をここに呼んだのは問題を解決する為なの」


「問題、ですか……?」


「ええ、貴方が魔闘祭の時に変な発言をしてくれたおかけで少し学院がごたごたしているじゃない? そこで私が生徒会長としてそのごたごたを解決しなければいけないの……」


「成る程、本当の事なのかどうか確かめたりする為ですか……」


 無理もない。一般的には知られていない事だろうし、疑うのは当たり前だろう。


 それに、安易に俺が口走った事で引き起こしてしまった事だ。俺も解決するために何かしなければいけないのも最もだ。


「……って言うのは建前なんだけれどね」


「建前かよ!? それで良いのか生徒会長!?」


「良いのよ。けど別にどうでも良いってわけじゃないわ。むしろ由々しき問題ね。だけどね、それよりも優先度が高いものがあるのよ……私にとって」


「その優先度が高いのが今回の目的ですか……」


「ええ、何度もそうと言っているじゃない。貴方はそんなことも理解出来ないの?」


「どうしてだろう? とても心が痛い」


「あら失礼。少々本音が洩れてしまったわ。気にしないで頂戴」


「手遅れです」


 俺の中の生徒会長のイメージが大きく崩れ去った。まあ、そのイメージが出来たのも数分前の出来事だけど。


「なら別に良いわ。どうせ今から言うことも問題発言だろうし一緒よ」


「一体何を言うんですか……」


「それじゃあ、話を戻すわね。実のところ、私は別に貴方がどうなろうが、どんな扱いをされようが構わないのよ。単に生徒会長として問題を解決しなければならないってだけで貴方への興味なんてこれっぽっちもないわ……って聞いているかしら?」


 ……あれ? 何気にこれ俺の悪口じゃね……?


「……はい、聞いています……」


「そう。続けるわね。ああ、でもその前に、貴方への興味が無いって言ったけど訂正するわ。よく知らない生徒への興味なんて無い、ね。そんなものでしょ? ……まあ、そんな風に珍しいってだけでよく知らない生徒ってカテゴリに貴方も分類されていたのだけど、そうはいかない理由が出来たのよ」


「それはティアナ会長自身が俺に接触しなければならない程のことなんですか?」


 先程初めて合った時にティアナ会長は俺の名前や噂、成績を知っている様な口振りだったが、名前や噂はともかく、成績なんて普通知り得る筈がない。何処かからそんな情報が洩れた、なんて事も普通は無いのだ。


 にも拘わらず、ティアナ会長は成績を比較する様な言い方をした。もし、成績なんて知らずに実力が無いことだけを知っているのならば、そんな言い方はしない……と言うか出来ない筈。


 その上、この部屋の状態を見れば推測はつくが、恐らくこの生徒会はティアナ会長一人で運営している。


 つまり何が言いたいのかと言うと、最低でも生徒一人の成績を調べられる且つ生徒会と言う組織を一人で運営出来る程の能力を持っている様な人がわざわざ個人に接触すると言うことは、それだけ重要な何かがあると言うことなのだ。


「ええ、貴方に自覚はないでしょうけどね」


「……何を聞きたいんですか?」


 ティアナ会長の言う通り、俺は重要な情報を持っている自覚なんてない。だが果たして、俺自身に自覚のない情報が本当に重要な情報なのだろうか?




「そうね、言うなれば国家転覆みたいな話よ」




「国家転覆!?」


「有り得ない、かしら?」


「流石にそんな話は……」


「それもそうね、言い方が悪かったわ。国家転覆みたいな話ではなく国家転覆みたいなのに繋がりそうな話、直接的にではなくて間接的にとでも言うべきかしら」


 どちらにしろない様な…………いや、ある……のか?


「ティアナ会長」


「何?」


「ティアナ会長は《リアトラの影》って知っていますか?」


「ええ、知っているわ。貴方がこっちに来て直ぐに演習場で巻き込まれたことも、王宮にそれらしきものが襲撃してきたことも知っているわ。それで、その《リアトラの影》がどうかしたのかしら?」


「……いえ、何もないです」


「言っておくけど今の私は貴方の事に関しての情報は殆ど知っているわ。部屋の番号は勿論、どっちの足から部屋に入る事が多いかとか、学食で頼む事が多いメニューとか。ちなみに貴方自身自覚があるのかはわからないけれど、ハンバーグとかオムライスとかスパゲティとか、子供っぽいものが多いみたいね」


「うん、ティアナ会長が立派なストーカーだということがよくわかりました」


「後は女の子と会ったら最初に何処を見るかとかね。まず出会い頭に太股をこそっとバレないように見て、別れ際にまた太股を見ているのよね」


 おい、頼むから誰か早くこの人の口を塞いでくれ。切実に。


 どうだ見たか、とでも言いたげに俺にしたり顔を向けてくるティアナ会長は、まだ言い足りないのか追加で口を開こうとするが、俺がそれよりも先に口を開いて話題を逸らす。いや、戻す。


「じゃあ、本当は何を知りたいんですか?」


「はぁ……」


 溜め息をつかれた。どうして?


 ティアナ会長はそんな風に、仕方なさそうに息を吐くと、「じゃあ」と言い、俺の目を見た。


「……他の人には秘密にしてもらえるかしら?」


 そして、直ぐに目を逸らしてどこか遠くを見る。そこまでしてティアナ会長は何を知りたいのか。目を逸らした先には何があるのだろうか。


「……ここで俺が断ったらどうするんですか?」

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