表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TWINE TALE  作者: 緑茶猫
120/179

Flag9―影―(1)

 魔闘祭後の休日も少し前に明け、二月も終わってしまったのだから、もうそろそろ暖かくなっても良いのにだなんて思う今日この頃。


 授業や学校の風景もすっかりいつも通りに戻り――一ヶ月以上居るといつも通りと思うくらいになるのか。……いや、そんなことはともかく、これは一体どうしたものか。


 気付けば時々飛んでくる様になった不特定の物物に、これまた時々飛んでくる様になった罵詈雑言。一体全体俺が何をしたと言うのだろう。


 ……とか思ったところで誰も明確な答えなんて与えちゃくれないだろうし、そもそも言う暇なんてくれないだろうけれど、それがこっちの世界に居る時間の殆どを捧げている学院で起こっているのだから気が滅入る。


 それはそれで別として、一応同じ線上の出来事ではあるがこれはこれ。閑話休題。


 兎にも角にも、今現在の状況を自己分析するならば、ピンチと言うやつである。……しかしまあ、正直なところ危機感よりも倦怠感の方が強いのだが。


 今回の発端は移動教室の移動のため、時々魔法らしきものが飛んでくるようになった廊下を通り、学院のはしっこの方の階段を遅刻回避を目指して駆け降りていた時のこと。


 丁度踊り場に差し掛ると共に急にドスのきいた声で「おい」と話し掛けられて、何だろうかと立ち止まると、壁側に追いやられ囲まれた。


 無惨にも鳴り響くチャイムの音。


  俺の魔法戦闘の実技の貴重な出席点が颯爽と走り去って行く鐘の音。


 そして現在に至るのである。


 気持ちの悪い笑みを浮かべて取り囲むのは男子生徒三人。ネクタイの色から三年生だとわかった。


「よう、久しぶりだな。ちょっと面貸せよ」


 三人の内のガタイの良い生徒が俺に向けてそう言ってくる。……久しぶり? はて? 何処かであったことがあるだろうか?


「てめぇ忘れたとは言わせねぇぞ」


 困惑している俺にそう言ったのは三人の内のほっそりとした生徒。……駄目だ、さっぱりだ。


「グフェ……グフェ……」


 そして三人の内のガタイが良くともほっほりともしていない生徒は笑う。……ん? この笑い方……。


「ああっ! あの時ノスリに絡んでた世紀末三人組!」


 すっかり忘れていたが思い出した。一ヶ月って意外と長いのかもしれない。ちなみに、世紀末っぽい見た目をしているのは笑い方が変な一人だけである。


「どんなおぼえ方だコラ!」


「何だよ世紀末って!」


「……グフフ」


 三人は同時に捲し立ててくる。息ぴったり。……いや、けど世紀末っぽいのは捲し立ててはないな……むしろ頬染めて満更でもなさそう……。


「そんなこと言われても……」


 一人のインパクトが強すぎる。


「つーか、絡んでた訳じゃねぇよ!」


「純粋にお茶に誘ってたんだよ!」


「グフェ……」


「その問題まだ引きずってたのな」


「当たり前だ! 俺たちゃそんなチャラチャラしてねぇよ!」


「健全なお付き合いから始めるタイプなんだよ!」


「グヒ、グヒッ」


 純情だな、お前ら。


「俺だって……俺達だって付き合いてぇよ……」


「けど……全然できねぇんだよぉ……」


「グヒィ……」


 何か語り出したんだけど。いや、確かに可哀想だとは思うけどさ……果しなくどうでも良い。ねえ、帰って良い?


「好きな子が出来たってよぉ……話し掛けられずにずっと眺めているだけの青春時代……」


「唯一交わした会話は『あっ……ペン……』って言うと『ど、どうも……ありがとうございます……』って敬語で、しかも若干引き気味で返されるだけ……」


「グフ……」


「そして気が付いたらもうすぐ卒業……」


「このままじゃ大した思い出もない青春時代になっちまう……」


「グ……フィ……」


「こんな虚しい日々で良いのか!?」


「なあ! お前はこんな思い出だけで良いのか!?」


「グフェ!?」


 いや、知らねぇよ。


「だが、お前が絡んでたって言ったんだからきっとそう見えていたんだろうな……」


「卒業したらイメチェンでもするか……」


「グヘ……」


「あんたら本当に何しに絡んできたんだよ……」


 こっちはただでさえ成績が悪い魔法戦闘の実技の出席点奪われているのに……。


「いやぁ、何か卒業前に鬱憤でも晴らそうかなって思ってたらな」


「そんな気分じゃなくなったって言うか、成長したっていうのか? ハハッ」


「グヒッ」


「張っ倒すぞ」


 何だこのとても無駄な時間の過ごし方。溜め息を洩らしながら、今から授業に行ったら出席点くれるだろうかなんて甘い考えを自分で否定すると、自然と追加で溜め息が量産される。


 三人組は何故かとても良い笑顔で俺に「じゃあな」と手を振って何処かへ去って行く。本当の本当に何をしに絡んできたのか。


 しかし、いい加減、誰かに絡まれるのは飽きた。


 実は今のように、こんな風に絡まれたのは休日が明けてから初めてではない。今のを含めてかれこれ二桁には達している。


 初めの内はどうしようか焦っていたところをコーチやケトルを筆頭としたC組の皆や、A組のエル達に助けてもらっていた。


 しかし、絡まれた時に必ずしも誰かが助けてくれるとは限らないのだが、不幸中の幸いと言うやつか、その時にはすっかり絡まれる事に慣れていた為、今のところ大事には至っていない。


 さて、そこで何故こんなことになっているのかと言う問題になるのだが、発端は俺が魔闘祭で異世界云々を口走ったことらしい。


 ユーリが言っていたあの昔話は、何だかんだでこちらの人々の思想の根底に染み込んでいるらしく、その結果、廊下を歩いていると物や魔法が飛んでくると言う事態を招いたのである。


 ちなみに、それを最初に挑発と言えど言ったのはユーリだが、休日明けの現状を目の当たりした結果、頭を地面に擦り付ける程謝られ、また、ヴァルから聞いたことだが、A組で俺に嫌がらせをしようとしていた人達全員を黙らせたらしい。……一体何をしたのやら。


 しかし、そんなこともあって、ユーリの事を生け簀かないと気にしていたコーチ達からも一応の信頼は得ることが出来た。


 だが、根本的な問題であり、向こうの世界でも問題視されている差別と言うやつが解決した訳ではないし、あまり皆に迷惑を掛けるのは好ましくない。


 俺はどうすれば解決できるだろうかと思考を巡らせながら階段を上り、魔法戦闘の実技の授業と言う眼前の問題を諦めて我らが一年C組の教室まで向かっていると、「ねぇ」と急に後ろから声を掛けられた。


 またか……と言いたい心情を、相手を刺激しない様に呆れを隠しながら振り向いて対応する。


「何でしょうか?」


 当たり障りのない笑顔を浮かべながら相手の体貌を確認すると、珍しいことに絡んできそうな身なりではなかった。


 緑のリボンを携えた制服をきっちりと着こなしている彼女は綺麗な長い白髪をしており、綺麗に切り揃えられた前髪の下では意思の強そうな大きく深い緑色をした瞳が煌々と輝いている。


「……聞きたいことは色々あるのだけれど、どうして後退りしているのかしら?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ