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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
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ユヌブリーズの休日(5)

 その途中で少年は僕に気付いくと、フードを上げ、キョウカの言っていた通りの容姿をした顔を見せながらそう言った。


「どうも。君がキョウカの捜していた人であっているよね?」


「えーっと……この節はキョウカさんがお世話になりました……」


「君も苦労していそうだね……」


「てことはやっぱり……」


 何故だろう。年も離れ、初対面なのにも拘わらず、相手の気持ちが凄くよくわかる。


 ごく自然と握手を交わしていた僕らを見て、キョウカは疑頭の上に問符を浮かべて首を傾げている。


「何か失礼な事を考えてない?」


 ……いや、そんなことはないらしい。


「何はともあれ合流出来て良かったじゃないか。じゃあ、僕は行くよ」


 僕はキョウカの物言いたげな目を躱し、二人に軽く手を振りながら踵をかえす。


 二人は「あっ……」とまだ何か言いたそうではあったが、追いかけては来なかった。


 来た道を戻り、さっきも通った十字路を左へと曲がる。その道中男が一人伸びていたが、ここら辺では割と良く見る光景の為、特に気にも留めない。


 そうして、この街でも中々な大きさを誇る建物の中へと足を踏み入れた。


 人気の感じられない建物の中に広がる砂道を進むと、人が一人。僕はその人に話し掛ける。


「珍しいね。君がこんなところに居るなんて」


「珍しいってことはないと思うけどな……。お前は良く来るのか?」


「学院は全寮制ってわけじゃあないし、僕は寮は使っていないからね。学院に行くよりもこっちの演習場の方が近いからよく利用するのさ」


「ふーん……貴族様ってやつは大変なんだな」


「それはどういう意味だい? まさかスチュアート家やイニエスタ家について言っているんじゃないだろうね?」


「そんなじゃねぇよ……。お前だって貴族だろ」


「同情かい?」


「お前に同情なんかしてたまるか。少なくとも今はまだ無理だ」


「だろうね。けれど、『今はまだ』って部分には喜ぶべきかい?」


「勝手にしろ」


 彼はそう言い放ち、そっぽを向く。……そりゃそうか。酷いことを言った僕をツカサ君が許してくれたからと言って、他の人が僕を許すとは限らない。許せるとは限らないから。


「そうかい。ならそうさせてもらうよ。……ところでコーチ君」


 それでも名前で呼んでも何も言わないのは、随分と彼は人が良いと思う。けれど、僕にとっては、見てきた世界が違うからなのか、知り合いの中で彼が一番よくわからない。


「なんだ? 貴族様」


「今は君は一人かい?」


「今は一人だ」


「おや、誰かと待ち合わせかい?」


「いや、予想だ。学院の演習場は使えないから多分、ツカサが来る」


「なるほど、凄い自信だけど、果たしてどうだろうね……」


「別に。それほどでもねぇよ。それで要件はなんだ? 何か言いたいことでもあるんだろ?」


「よくわかったね、そうだよ。ねぇコーチ君、君が良ければなんだけど、僕と手合わせしてみないかい?」


「何だよ、いきなり」


「別段深い意味があるわけではないんだけれど、強いて言うなら少し気になったからかな」


「俺相手に何が気になるんだよ。お前と仲良く本選一回で負けた身だぜ?」


 それならもう一回ツカサと戦えばいいだろ。そんな意味で、戯けて言っている割には切れ長の赤い瞳をギラつかせている。


「君は、〝救いの手(ソーテーリアー)〟は使えるかい?」


 そんなコーチ君の期待を明らさまに裏切る様に、僕は疑問を投げ掛けた。


「いや、使えねぇよ。そもそも俺は能力自体使えねぇ。どうだ? 気になる事ってのはそんだけか?」


 面白くなさそうに、退屈そうに言うコーチ君に、僕は否定し、彼が待ちわびていた言葉を投げ入れる。


「いいや、勿論実力も、だよ」


 すると待ってましたとばかりに彼の唇は弧を描き、「仕方がない」と、思ってなんていないであろう言葉を呟いた。


「それじゃあ、始めよっか」


 僕はそう言い、コーチ君と視線を交わすと共に、僕らは其々後ろに下がる。そして同時に己が得物を呼び出した。


「「我求めしは契約の象、〝サピーナ〟」」


 僕は白銀で装飾の施されたレイピアを、コーチ君は同じく白銀で装飾の施された槍を、空中に浮かび上がった青白い七芒星の描かれた魔法陣から掴み取る。



「〝風鎧〟」


「〝光鎧〟!」


 更に繰り返す様にほぼ同じタイミングで僕は風の鎧を、コーチ君は光の鎧を纏った。


 僕は地を蹴り、しっかりと目を凝らして目標を見失わない様に見定めながら真っ直ぐ向かって行く。


 風属性と光属性、それと雷属性の三属性は七つの属性の中でも速度に優れる。


 そして今までコーチ君が戦っていた所を見た限り、彼が〝光鎧〟を纏っていた時の速度は僕とほぼ同じだった。


 それは恐らく彼も僕が戦っている所を見たことがあるから理解しているだろう。


 僕らの間に明確な速度の差はないとなると、強引に速度での戦いはコーチ君もしてこない筈。


 なら……。


「〝風よ(ヴァン)〟」


 僕は走りながら《宣告のフルール=アッティア》を横に薙ぎ、地面と平行に風の刃を飛ばす。


「うぉっと!」


 コーチ君はそんな声を出し、風の刃を躱すが、空中で姿勢を崩していた。


 僕はそこへ左腕を振り、風の刃を打ち出す。そのせいで左腕の属性強化は無くなってしまったが彼の元へ向かう足は止めない。


「チッ! 〝ビロウ・リット〟!」


 コーチ君は空中で姿勢を崩した状態から光の中級魔法を発動し、僕の放った風と相殺させる。


 そして何とか着地したところへ僕はレイピアを突き出す。


 しかし。


「〝スぺリア・リット〟」


 ――早い!?


「っ……! 〝吹き飛ばせ(ラファル)〟!」


 襲い掛かってくる光の上級魔法に対して、僕は契約武器の能力を強引に発動させて防いだ。


 防ぎきれなかった光は僕の肩を少し掠ったが、それと同時に僕の放った風はコーチ君を吹き飛ばした。


「いってぇ……。お前今マジだっただろ……」


 その時に尻餅をついたらしく、彼は臀部をりながら立ち上がる。


「あの発動速度は予想外だったんだ。仕方がないだろう?」


「だからってあそこまでのはしなくても良んじゃねぇのか……?」


「それに、君は僕の動きを読んでいたんだろ? 僕は君が光属性の特性を利用する為に真っ向から来ずに、何らか陽動を入れてくると予想したけれど、まんまとそれを君に予想されていた……なら、それくらいも予想出来るだろうし仕方ないよね」


「お前、実は結構負けず嫌いだろ……」


「いや、そんなことないよ」


「この状況でがっつり武器を構えているのはどう言った心境だ」


「何を言っているのか全くわからない」


 僕は鍛練として手合わせをしたいだけであって、別に一泡吹かせたいだとか、ぎゃふんと言わせたいだとか、荒肝を抜かしたいだとか思っているわけではない。決して。

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