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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
111/179

Flag8―魔導―(19)

 全力全開で踏み出した足だが、今度は通り過ぎることなくクソジジイの元へと移動出来た。


 そして直ぐ様手を伸ばす。無駄に威厳を感じるその白い髭に掴み掛かる。


 しかし先程炎の塊を吹き飛ばした時と同じ様な、杖を軽く地面に打ち付けた様な、そんな音が聞こえたと思うと、俺は老人の姿を見失った。


「なっ……」


 直ぐ様周囲を見渡し、老人の姿を探すと、少し離れた所に老人の姿を見つけた。


 逆戻り。いや、距離を空けられた分むしろ悪化している。


 だが、もう一度クソジジイの元へ走り出し、そして同じ様にお同じ様な動作で掴み掛かる。


 すると同じ様な軽い音。しかし今度は杖を地面に打ち付ける動作を確認出来た。


 つまりタネはあの杖で、打ち付ける動作に秘密があると見て問題ないだろう。


 なら……。


 もう一度同じ様に空けられた距離を詰める。


 そしてさっき掴み掛かった時よりも早いテンポで《暦巡》を薙いだ。


 クソジジイは地面に打ち付けようとしていた杖を止めて、その杖で《暦巡》を受け止める。


 よし、掛かった!


「捕まえ――なっ!?」


 しかしクソジジイが杖の持ち手部分を空いていた左手で軽く叩くと、嘲笑うかの様に姿が消えてしまった。


「ふぉっふぉっ、惜しかったのう」


「馬鹿にしやがって……」


 俺から離れた場所で笑うクソジジイはまだまだ余裕があるようで、魔力も消費し、少し息が上がりつつある俺とは真逆だ。


「杖を狙ったのは良い判断じゃったがまだまだじゃの……仕掛けが気になるか? 気になるなら教えてやらんこともないぞよ。そのええケツを揉ませてくれたらじゃがの!」


「く、クソジジイ……叩き斬ってやる……」


 俺は全力でクソジジイの目の前に行き、斬りかかる。


 別に全て失敗して為す術がなくなったわけじゃない。それでも確かに本気でやっていたのを意図も簡単にあしらわれたのは悔しいのは事実だが、それで得たこともある。


 クソジジイは相変わらず直ぐに消える。


 しかし直ぐ様姿を見つけて斬りかかり、杖を抑え、魔法を発動する。


「〝ウォート・プリズン〟!」


 淡く青白く光り宙に映るペンタグラムから逃れるように、クソジジイは後ろに下がろうとするが、俺が杖を掴んだ為、蹈鞴を踏む。


 迫り来る水の牢から逃れるため、仕方なくクソジジイは杖を手放す。


 するとクソジジイは初めて余裕の表情を崩しながら後ろに下がり、その直後、水の牢は杖だけを捕らえた。


「こりゃちょっと予想外じゃの……」


 杖を眺める。見た限り魔導具ではない様だ。 魔導具なら何らかのスイッチが取り付けられたりしている筈だが見当たらない。その上、質感も普通の杖と変わりない所を見ると契約武器と判断して良いだろう。


「俺は予想通りだ。中々やりにくい契約武器の能力だったけど完璧なわけじゃなかった。現に移動を連続で使うことは出来ていない」


「ふむ、中々悪くはない。そこを突かれるとは思わなんだ。じゃがの、正解ではない」


 クソジジイはそう言うと徐に右手に雷の属性強化を施し、呟く。


「――〝転移(トランスファー)〟」


「えっ――」


 クソジジイの足下に浮かび上がるのは青白い六芒星の魔法陣。それは見間違いではなく、言葉を発している途中に衝撃が走り、俺の体の自由は奪われた。


 それによって手元から零れ落ちた杖をクソジジイは拾い上げ、楽しげに笑う


「残念ながら儂の武器の能力は魔法の発動を置き換える能力じゃ。ちなみに条件は杖を叩くなり地面に打ち付けるなりして音を出すこと。〝転移〟を発動するまで時間が掛かるのは純粋にそれが難しいからじゃよ。惜しかったのう」


「どうして教えるんだよ……」


 俺は痺れが広がる体で辛うじて声を捻りだし問う。


「そりゃ最初にケツを揉ませて貰ったからの」


 ……どうにか動かねぇかな、この体。今すぐにでもクソジジイの髭を引きちぎりたい。


「無理はしなさんな。少しの間痺れて体が動かんだけじゃ、害はない」


 クソジジイの言う通りにするのは少し癪だが、動かないものは動かないので仕様がないので諦める。


 ……しかしこうして少し落ち着いてみると、やはり手加減されてたのだと実感する。


「何溜め息をついておる。さっきも言ったが悪くはないんじゃ。只、もう少しイメージははっきりさせた方が良いかの」


「イメージ……」


「そうじゃ。聞き分けは良いみたいじゃの」


「聞き分けはそうするしかないからだ……動けないからって尻を触るなクソジジイ」


「別に減るもんじゃなかろう。お主の契約武器の能力は属性強化の補助の様じゃが、そもそもの属性強化が荒い、もう少し具体的なイメージを作るべきじゃ」


「俺の寿命がストレスで減りそうなんだよ。具体的なイメージねぇ……鎧とかか……」


「ふぉっふぉっ、儂の寿命は増えそうじゃがのぅ。別にイメージしやすければ何でも良いんじゃよ」


「はっはっはっ、そうか。助言ありがとなクソジジイ」


「礼には及ばんよ。良いケツのおなごに出会えたのじゃ」


「はっはっはっ」


「ふぉっふぉっふぉっ」


「〝ウォート・プリズン〟! くたばれクソジジイ!!」


「ふん! そんなものに引っ掛かるものか!」


 すっかり忘れていた。魔法は少し難しくなるが遠隔で発動出来ると言うことを。


「チッ、そろそろ楽になれよ! 〝ガング・ブライズ〟!」


「はぁっ! まだまだ若いもんには負けぬわ!」


 クソジジイは相変わらずの見た目にあわない体さばきで雷の槍を避け、時には杖の軽い音を鬱陶しく響かせながら防ぐ。


 全て避けるもしくは防がれはしたが、その間に少しずつ体が動く様になった。


 折角なので、皮肉ではあるがクソジジイに言われた通り、具体的なイメージを持って先程と同様の三属性の属性強化を施し、全身に纏う。


 イメージは王宮で見かけた騎士の風貌。


 全身を甲冑で守り、国を護る銀色の騎士。


 騎士の出で立ちに刀と言う何ともミスマッチな組み合わせだが、恐らくそう感じるのは俺だけ。ここはあっちの世界の文化を知らない異世界なのだから。


 それに見た目なんて今はどうでも良い。今の問題はクソジジイだ。


 走り出す。魔力も体力もある程度消費してしまっているのにも関わらずさっきよりも身軽に。


 辿り着く。単調な動きだったにも関わらずさっきよりも早い時間で。


 手を伸ばす。無駄なく停滞する紫の雷が風巻き煌めくその腕を。


 こここまで変わるとは。この目の前で憎たらしく、嬉しそうに笑う老人は一体何者なのだろうか。


 そして腕は……空を切った。


「勝ち逃げかよ……」


 クソジジイは〝転移〟を使ったものの、別の所へと移動したらしく姿は全く見当たらない。


 隠れて俺が油断した隙に尻を揉みに来るなんて事もありそうだが、クソジジイと俺の実力の差を鑑みるにクソジジイならきっと不意を突かなくても俺の尻を揉む事くらい出来るだろう。


 なんて真面目に物事を考えてみるが何故だろう、クソジジイが関わっているせいか緊張感なんてものありゃしない。


 こればかりはどうしようもない。仕方ない。次会ったときは絶対に最低でも一発は殴ってやると心に誓い、されど少し笑みを溢してしまいながらも気持ちを切り換えて、ずっと傍観に徹していた学友に非難の視線を送る。


「楽しそうだな、お前ら」


「ぷぷっ、大変だったなツカサ……ぷぷっ……」


「ふふっ……だ、駄目だよコーチ君、笑うのは。ツカサ君が可哀想じゃないか……ふふっ……」


「良いケツしたおなご……」


「ぶはっ! ……ひ、卑怯じゃないかコーチ君。さ、流石にそれは……ふふっ、あはははははは!」


 ……本当に仲良いなお前ら。


「落ち着けツカサ、別に良いじゃねぇか、助言貰えたんだしさ……ぶほぉっ!」


「お前らに笑われている時点で良くねぇよ……」


 つーか、ユーリがこんな風に笑ってるの初めて見たぞ……。


「そ、そうだよ。落ち着きなよ。尻を……ふふっ……触られただけで……ひひっ……強くなれたんだ……ふふっ……ふはっ……だからさ……ふふ」


「おおっと手が滑って《暦巡》が大切な友人達の元へー! 更に手が滑って属性強化までしちゃったー! うわー能力で《暦巡》にまで属性強化出来ちゃったー!」


「うっわ、わざとらし!」


「良いね。面白い、受けて立とう!」


 コーチとユーリ、二人の契約武器を呼ぶ声で俺のやけくそで非常に馬鹿馬鹿しい戦いは始まりを告げる。


 勿論この後直ぐにこてんぱんにされ、魔力切れで倒れたのは言うまでもない。

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