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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
110/179

Flag8―魔導―(18)

「先程は我々が貴方を危険に巻き込むような事をしてしまって申し訳無い」


 そしてそう言い頭を軽く下げると、老人はにこやかな表情で応える。


「ここにいる時点で流れ弾が飛んでくる事があるのはわかっておる。その上でここに居るのじゃから悪いのは儂であってでお主らではない。……それに、あまり甘く見ないで欲しいのう。儂じゃって……まだ、現役じゃ……」


 何処かの二人を連想させる様な口調で話す老人は、地面に杖を突き、されど杖を携えている割には軽快な足取りで立ち上がる。


「えっ……?」


 ……そして気付けば、ユーリの背後に立っていた。


 何をした? 全く……見えなかった。


 それはユーリとコーチも同じらしく、ユーリは珍しく動揺した素振りを見せ、コーチは間抜けにも口をぽかんと開いている。


「のう?」


 そして老人は優しげにユーリに微笑みかけた。


「……無礼を働いてしまい本当に申し訳無い。出来れば何をしたのか愚かな僕らに教えては貰えないだろうか」


 謝っている様に見せ掛けてしれっと無礼を働くユーリ。そして『愚かな僕ら』に俺達が入っているのは納得いかない。現在過去未来全てにおいて無礼を働いているのはユーリだけである。……まあ、確かに何をしたのかは気になるけど……。


「それは出来ぬ。儂らは手の内をあまり見せる物ではないじゃろう?」


「そこをどうにか頼みたい。貴方の言う通り僕らは手の内を見せるものではない。しかし手の内を見て良いところを学ぶのもまた僕らだろう?」


 お互いに笑みを浮かべて言葉を交わすユーリと老人。その後、少しの間無言で二人は見合うと、老人は声を出して笑った。……どんな意図でのやり取りなのか俺には何のこっちゃ。


「……ふむ、面白い若者じゃのう。良い意味でも悪い意味でも育ちが良いと見た。良かろう、但し交換条件じゃ。良いじゃろ?」


「その交換条件の内容を教えて貰わないと何とも言えないね」


 しかしそれでもユーリが尻込みもせずに老人と対等に言葉を交わしているのはわかる。図々しいのか大物なのか……うん、多分図々しいだけだな。


 ……睨まれた。


『何故睨む……』


『今何か失礼な事を考えていただろう?』


『き、気のせいだ……』


『君って意外に単純だね』


『お前、意外でもないけど図々しいよな』


『どうやら魔闘祭での雪辱を果たす時が来たようだ』


 俺とユーリがそんな無言の攻防をしていると老人は漸く口を開き、ポツリと呟く。


「……しり……じゃ……」


「しり……? すまない、よく聞き取れなかった。もう一度言って貰っても良いだろうか?」


 俺もユーリと同意見だったので老人の次の言葉に耳を傾ける。


「わからぬかのう? 尻じゃ、臀部じゃ、ケツじゃ。若いおなごのケツを触らせてくれたら良かろう」


 何を真顔で言い出すんだ、この老人は。


「肉付きが良く柔らかいのも良い、しかし程よい筋肉があり弾力があるのもまた然りじゃ……良いか? おなごのケツと言うのはな……」


 その上何か語りだしたし……。


「ユーリ……」


「僕に言わないでくれ……僕もどうしたら良いのか困っているんだ……」


 頭を抱えるユーリにクレームを送りつつ、そう言えばと思い、放置していたコーチに目を移す。


「じーさん! あんたすげぇよ! あんた程の手練れは久々だ。……だがな、あんたは一つ勘違いをしている……」


「勘違い? ……ふむ、聞かせて貰おうかの……」


「まず、魅力的なのは尻だけじゃねぇ……人によって差異はあれど、魅力的なのは尻も! 胸も! 手も! 太股も! それらを含めて全てだ! 魅力的じゃないパーツなんて存在しない! 全て等しく素晴らしい! じーさん! あんたの尻への愛はすげぇ伝わる……けどな、今のあんたは尻意外に排他的になって、そんな初歩的な事を忘れてる……何故尻が美しい? そこから伸びる足とのコントラストを忘れたか? 単体だけの尻が尻の全てか? どうなんだじーさん!!」


「何……じゃと……!? くぅっ……儂は……儂は……何と言う過ちを……」


「じーさん……そう落ち込むなって、過ちって自覚しているなら繰り返さない様にすれば良い。それにじーさんの尻への愛はここで終わるようなもんなのか? 俺はじーさんの尻への想い……もっと聞きたいぜ?」


「……お主、名は何と言う?」


「コーチ……コーチ=クロックだ」


「そうか……コーチ、儂はお主の様な若人に出逢えた事を喜ばしく思う」


「俺もだぜ、じーさん……」


 ……ねぇ、何なの? 何なのこの人達。俺じゃもうどうにも出来ないよ。手に負えないよ。対応できるキャパシティ越えちゃってるよ。


「ユーリ」


「君が出来ないなら僕にも出来ない」


 ユーリが匙を投げるなんて珍しい。いつもなら意地を張るのに。……そりゃそうか、これだもの。


 俺とユーリが溜め息をついていると、コーチが何かを伝えたそうに、笑顔でこちらを見ていた。


 今度は何かと、呆れた目で見ていると、コーチは満面の、とても素晴らしい笑みで握った拳を前に出し、親指だけ空へと突きだす。


 グッジョブ。


「何処がだよ!?」


「ツカサ! お前にはじーさんの愛がわからなかったのか!?」


「そうじゃなくて何処をどう見て――」


 言葉を口にしている最中に気がつく。さっきまでコーチの側に居た老人が見当たらない。


 一体何処に……。


「――後ろか!」


 何故俺の後ろに回ったのかはわからないが、寒気を感じたので直ぐに振り返って老人と向き合おうとする。


「甘いの……」


 ……が、僅かに遅く……老人は嗤う。妖しく、ニタリとでも聞こえて来そうな、そんな顔で。そして俺は……。


「なっ!?」



 尻を揉まれた。



「……ふむ、中々に締まりの良い、ケツじゃった。良かろう、約束通りさっきの種を教えようぞ」


 老人はそう言い、嬉々とした表情で「久々に良いケツに出逢ったのぅ……」と呟く。


 何だろう。凄く苛々する。


「そ、その前にクソジジイ……どうして俺の尻を揉んだ……?」


 しかし一応、そんな感情を押し付けて質問してみた。


「そこにおなごがおったからじゃ」


 アハハ。


「ああ、そう」


 よし、殺そう。


 俺は既に召喚していた《暦巡》能力で、雷と風と光をの三属性混ぜて全身に纏う。


 それは魔力量とかを踏まえて今の限界。だがそんなもの構うものか。限界なんて超えるもの。今超えなくなくていつ超える。


「あいつ……本気だ……」


 コーチは一体何を言っているのだろうか? そんなの当たり前だろ?


 俺はクソジジイに向けて足を踏み出す。


 七つの属性の中で速い三属性を混ぜ合わせただけあって移動速度は格段にが上がっており、直ぐにクソジジイの元まで移動出来たが勢い余って通り過ぎてしまった。


「チッ……」


 もう一度クソジジイに向けて動き出す。


「……ツカサの奴マジの舌打ちしてんじゃん……どうするユーリ?」


「今のツカサ君と一度手合わせしてみたいね……」


「お前人の話聞いてねぇだろ……」


 視界の端にコーチは何故か溜め息をつき、ユーリは目を輝かしているのが入ったが、今それはどうでも良い。余計なものは判断を鈍らせるだけ、必要ない。今はクソジジイだ。

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