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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
109/179

Flag8―魔導―(17)

「そっか……残念な様な気もするけどちょっとほっとしたよ。もしこっちでもそんなのが出来るようになっちゃったら商売上がったりだし……。けど何か凄いね」


「凄いって何がだ?」


「意外とツカサ君の居た世界とここって似ているんだなって。ほら、料理名とか言っても伝わるみたいだし、コーヒーとかも有るでしょ?」


 言われていみると確かにそうなのかもしれない。文化自体は一応違うが、やはりその範疇は“一応”であり、似ていないわけではない。そう考えると、魔導と言う俺の居た世界の視点から見て異質なものがあるにも関わらず順応出来ているのはそのお陰なのかもしれない。


 最初にこっちに来た時だって向こうとの違いは殆どなくて、仮説を立てて予想はしていたが、俺自身心底肯定していたわけではない。魔法を見て漸く、ここは本当に違う世界なのだと納得した。


 けれども結局、文化や料理の発想に関しては人間には変わりないのだろう。


 ここに住む人達は俺とは何ら変わりな――本当に、そうだろうか?


 本当に何も変わらないのだろうか?


 確かに、レディの境遇は結果的に俺と似た境遇、いや、心境をもたらした。しかし、ここに至るまでは確実に違うのだ。


 中身や考え方が似ていたとしても、果たしてそれは俺と同じと言えるのだろうか?


 俺が変わらないと思っていても、こっちの人達からしたら、俺は完全な異分子だ。


 なら……。


「ツカサ君!!」


「えっ? どうしたんだ……?」


「何さ、ボクがずっと呼び掛けてたのに神妙な顔で考え込んじゃって」


「いや、何でもないよ」


「はぁ……ツカサ君、それ本気で言ってる? ツカサ君は自分が思っているよりも隠し事が下手くそなんだよ? 今言えとは言わないけどさ、悩みがあるならいつでもボク達に相談しなよ」


 前も言われたが、そんなに俺はわかりやすいのだろうか……。


 けど……俺は一体何を悩んでいたのだろうか。馬鹿馬鹿しくて少し笑えてくる。自分に呆れて溜め息まで出た。嫌な予感がしないわけではない。しかし、俺が異分子であっても、異分子だと知っても、それを信じて、これまでと変わらずこんな風に言ってくれる人が居るのだから今悩むのはその人達に失礼だ。


「よし……ありがとレディ」


「ん? 解決したの?」


「一応かな?」


「一応、か……まあ、解決したのなら何よりだけど、何かあったら相談してね。ボクが力になれるかはわからないけど、気持ちは少し軽くなるかもだからさ」


「ああ、その時はまた頼む。それじゃあそろそろ行くよ」


 俺はそう言い、きちんとお金を払ってレディの「毎度ありー!」と言う元気な声を聞きながら店を後にした。少し軽くなった足取りで通りを真っ直ぐ歩き、寄り道などせずに演習場に向かう。


 演習場に着き、中に入ると、平日のせいか人は殆ど見受けられず、三人しか居なかった。


 少し失礼かもしれないが、一人はここには似つかわしくない様な、髪はなく、白い髭を長く伸ばし、古びた杖を突いた老人が端っこにあるベンチに座っている。


 そして残り二人はその老人の視線の先、激しく音を立てながら戦っていた。


 一人は緑色の癖毛を風に靡かせて、黄色い瞳を少し細めて涼しそうな表情で。


 もう一人は対極的に茶髪を激しく揺らして、赤い瞳で射貫き睨み付ける様な荒々しい表情で。


 その二人は見たことがある顔で、と言うか、ユーリとコーチだった。


 珍しい組み合わせだと思っていると、二人は俺に気付いた様で戦いを中断して俺に駆け寄ってきた。


「ようツカサ、来ると思ってたぜ」


「君の言う通り本当に来るとはね……」


「俺の勝ち越しだな」


「それは勝ち負けに含まれていない筈だよ」


「はんっ、『果たしてどうだろうね……ふっ……』とか言ってすかしてた野郎にゃ言われたかねぇな」


「そもそも僕らは純粋に戦いで勝敗を決めようとしていた筈だよ」


「ぷっ、言い訳お疲れ様です」


「言い訳だと?」


「言い訳じゃねぇか。どうであれお前は俺に負けたのには変わりねぇだろ?」


「ほぅ……つまり僕が程度の低い屁理屈を言う馬鹿に身をもってどれだけ愚かな事をしているのか教えれば良いんだね?」


「はっ……ははっ、おもしれぇ冗談じゃねぇか……負けを認めないクソ貴族様よぉ……」


 そんなやり取りを経て、武器を構え合うユーリとコーチ。……あれ? 俺は無視ですか……? 何この中途半端な取り残され方……居づらい。俺にどうしろと?


 そうしてさっきまでと同じ様に攻撃を弾き弾かれ繰り返す二人。


「〝風よ(ヴァン)〟」


「チィッ! 〝ビロウ・リット〟!」


 その二人の間では風と光がぶつかり、爆ぜ、巻き上げられた砂によって二人の姿は隠れる。


 その砂は予想以上に広がり、俺まで呑まれそうになったので俺は届かない地点にまで下がり、再び二人の様子を伺う。


 ……うん、砂煙で全く見えないけど、中からは金属が擦れ合う様な高い音とか爆発音みたいなのが聞こえてくるってことはあれだね。真面目にやってるね、これ。


 こいつら冗談であのやり取りしてた訳じゃないのかよ……。油断すると俺まで砂煙以前に撃ち合っている魔法に巻き込まれてしまいそうだし。


 そんなことを思っていると、砂煙の中からどちらかが撃ったと思われる炎の塊が、端っこでのんびりと座っていた老人の居る所へ向かって飛び出して行ったのが見えた。


「――ッ!」


 一瞬魔法で相殺させようかと思ったものの、リスクが大きいので却下。


 即《暦巡》を召喚し、その能力で雷と水を混ぜた属性強化を発動し、老人の元まで駆けて行く。


 くそっ……間に合うか?


 身に纏っていた属性強化と同様の属性強化を《暦巡》にも纏わせて飛び込むように《暦巡》を掴んでいる右手を伸ばす。


 しかしその剣先は老人に向かっていた炎の塊に掠るだけで、防ぐ事は出来なかった。


 そのまま炎の塊は老人へと一直線に飛んで行き、襲い掛かる……筈だった。


 老人は向かってくる炎の塊をただ見据えてゆっくりと、自身の持っていた杖の先を一度だけ地面に打ち付ける。


 ――カツン、と。そんな小さな軽い音がやけに響いて聞こえた。


 すると瞬間、打ち付ける様な突風が巻き起こり、炎の塊はユーリとコーチの戦闘により生み出された砂煙諸共一瞬で消し飛んでしまった。


 手合わせしていた二人もその事に気付き、戦闘を中止してこちらに顔を向ける。


「今のはツカサ君、君がやったのか?」


 珍しく少し動揺した様な表情で問い掛けてくるユーリに対して首を横に振り、答える。


「そもそも何があったんだ?」


 一方、能天気にも馬鹿な口調で馬鹿な事を抜かしやがる馬鹿。


「何だその可哀想な物を見るような目は……」


「いや、気のせいだろ。別にこうなった原因の一人が何も呑み込めてなくて、くたばればいいのにとか思った訳じゃないから」


「いや、思ってるよな!? 思ってる口調だろそれ!!」


 取り合えず馬鹿は放置しておこう。説明する時間ももったいない。その内理解出来るようになるだろう。……多分。


 事態を呑み込んでいるであろうユーリはベンチに腰掛けている老人の元へ歩み寄る。

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