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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
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Flag8―魔導―(16)

 そしてレディによると、八年前の事の起こりはリアトラの北部、リアトラの中心部からは馬車で半日ほどかかる、丁度リアトラ南部にあるカタルパの家とは対称的な場所に位置する一つの街からだったそうだ。


 その街は何の変鉄も無く、昼には子供たちが元気に遊び、夜には温かい家庭灯りの光が窓の外に溢れ出る、旅人が来ても笑顔で迎え入れる、そんな街だったらしい。


 しかし、そんな街は八年前のある日、突如、一晩にして瓦礫と死体ばかりが広がる荒野となった。


 生き残ったのはたった二人の少年少女。


 国はその少年少女に事情を訊くと、どうやら街の人々が突如殺し合いを始めたらしい。


 最初は一人男が、無表情で。淡々と、然れど正確に、的確に命を摘み取って行った。


 何人もの街の人々がその男を止めに入ったが全く見向きもせず、止めに入った人々を帰らぬ人としたため、街の人々は已む無くその男を殺した。


 普通ならそこで話は終わるが、今度は別の男が一人目の男の様に人を殺し、人々がそれに狼狽えていると、まるで伝染したかの様に女が二人の男達の様に人を殺した。


 そこからはまた一人、また一人と街の人々が誰かを殺し始め、遂には疑心暗鬼に陥った街の人々同士で殺し合いを始めてしまった。


 それが事の始まり。


 当初、国はこの国に良い感情を抱かない者達が疑心暗鬼を招いて起こした事件として調査を開始し、同時に再発を防ぐために兵を派遣したりもしたそうだ。


 ……しかし、悲劇は繰り返された。


 今度は一つ目の街から五キロほど北東へ行った街で。


 その次はそのまま少し東に行った所にある街へ。


 国は犯人集団を見つける為、更に悲劇を防ぐ為に七英雄の一人、ロイドが率いる騎士団を派遣した。


 騎士団が最後に事件が起きたリアトラ東部に到着した時、そこよりも東の、ハルバティリス王国最東部にある海に面した街で事件が起きたと聞き、騎士団は現地へ向かったが、そこは死体と瓦礫だけが転がる荒野になってしまっていた。


 また人が死んだ。防げなかった。と騎士団に動揺が広がったそうなのだが、騎士団は諦めずにその周辺に犯人集団が潜んでいると考え、犯人を探した。


 だが、事件が起きた半日後。


 今度はリアトラ西部の街で人々が殺し合う事件が起きた。


 そこで事件の調査は白紙に戻ってしまった。


 無理もない。リアトラを跨いで正反対の位置に向かうには馬車でも一日はかかる。物理的に不可能だ。犯人が集団ならば尚更だ。


 そこで、何らかの魔導の類いではないかと推測されたが、国という広い範囲の中でピンポイントで街を、それも様々な場所で人々が殺し合う様になるようなものなど聞いたことがなかった為、その説は否定された。


 しかし物理的にも魔導を使用しても不可能だとなると、どの様にして事件を起こしたのかほぼ全く予想出来ないのである。


 唯一可能性があるとすれば、新しい魔導を造り出せる様な優秀な魔法師或いは魔術師なのだが、残念ながら事件当時にそれにあたる人は居なかったらしい。


 原因不明に理解不明な不気味な事件の噂が広まるのは遅くはなかった。


 国としては混乱を避けるために一応情報規制はしていたらしいのだが、噂というものはどこからか流れ出るらしく瞬く間に国中に広がり、人々の恐怖心を煽った。


 次の日には自分の住む所で起こるかもしれない。そんな恐怖を民に植え付けた。


 だが、意外にもリアトラ西部での一件からは一日過ぎれど、一週間過ぎれど、一ヶ月が過ぎれど、そして現在に至るまで全く事件は起きなかった。


 それでも国は調査を続けたが結局何もわからなかったらしい。


 死傷者数約一万二千人。その内生存者は十人に満たないと言われている。


 レディから聞いた話を要約すると大体こんな感じ。こうして、気味の悪い後味を、拭いようのない不安を残して事件の幕は閉じたそうだ。


「……こう、微妙な気分にさせられるな……」


「うん……八年前の出来事とは言っても解決したとは言い難い事件だからね……」


 空っぽになったコーヒーカップの底には乾いた茶色い模様が描かれ、ケーキの装われていた皿には生クリームがうっすらと残ったらフォークが置かれている。


「……何か変な空気にして悪い、コーヒーのおかわり頼んで良いか?」


「いやいや気にしないで、それにボクとしては毎度ありだからさ」


 ちゃっかりしているというか何と言うか……まあ、場を明るくするための冗談だろうけど。


「あっ、コーヒー以外にも何かいる? ボクとしては色々頼んでくれた方が嬉しいな。あっ、ランチプレートとかどうかな? 育ち盛りだろうから四つは食べれるよね」


「いや、コーヒーだけで良いから」


 つーか四つは食えねぇよ……。


「ちぇー……残念……それじゃあコーヒーだね、ちょっと待ってて」


 空っぽのコーヒーカップを回収しながらレディはカウンター奥の扉へと消え、少しすると湯気が立っているコーヒーの入った新しいカップを持って戻ってきた。


「はい、どーぞ」


「ありがとう」


 レディに御礼を言い、カップの中身を少し口に含む。


「どうかな……?」


「ん? 俺はコーヒーに詳しい訳じゃないけど美味しいと思うぞ?」


「そっか……良かった……」


「どうしたんだ?」


「えーっとね……ツカサ君には申し訳無いんだけど、いつもは姉さんがコーヒーを淹れててボクはいわゆる修行中ってやつだから美味しくないかなー……なんて」


「いや、そんなことないと思うけど……?」


「ふふっ、ありがと、優しいね」


「でも俺だって本格的なコーヒーを飲んだのは初めてだからアテにはしない方が良いかも」


 正確には最初の一杯とこれで二杯目であるが結果としては変わらないだろう。


 その一杯目もレディが淹れたと予想出来、個人的には、その時に感想を訊ねてこなかったのが一瞬疑問に思ったが、それは恐らくビューネさんが居ると率直な感想を訊きにくい……というか、聞けないからだろう。


 ……多分、美味しいと言う言葉に準ずる言葉以外を口にすると大変な事になる……。


「本格的……? 確かに豆を煎るのも店でしているけど……珍しい事じゃないと思うよ……?」


「あー……こっちではそれが普通なのか……」


「こっちでは……? つまりツカサ君の方の世界だったら違うの……?」


「ああ、こっちの世界だったら既に出来ていて長期保存出来るのが売ってたり、粉末を溶かすだけで作ったり出来るんだよ」


「へぇー……一々手間をかけなくても良いなんて、ツカサ君の世界は便利だねぇ……」


「確かに便利かもしれない……けど、そこまで良いものでもないと思う」


「そう? だってツカサ君の居た世界だと手軽に出来るものはきっとコーヒーだけじゃないんでしょ?」


「そうだけど、あっちの世界にもやっぱり問題はあるんだよ。それに、手軽にコーヒーが作れるって言ってもやっぱり本格的に作ったやつと比べると劣るからレディやこっちの人達がそれを飲もうにも不味くて飲めないかもしれないぞ?」


  俺の主観ではあるが、ここで飲んだコーヒーはインスタントコーヒーや缶コーヒーと比べると嫌な苦味や酸味が無くて飲みやすい気がする。

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