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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
107/179

Flag8―魔導―(15)

「じゃあ、俺がさっき店に入る前に飛んでってた人って……」


「テメェの言う『さっき』ってやつがいつなのかはわからねぇけど、野郎がぶっ飛びながらこの店から出てきたとこを見たのなら、それはテメェの言う通り私の仕業だな」


「……そんな自慢気に言われても困るんですけど……」


「ここの名物だからな」


「酷い名物だな……」


 そんな風にビューネさんに振り回されながら会話をしていると、仕事が一段落したのか、レディがカウンターを挟んだ向こう側に座った。


「おお、レディごくろー」


「出来れば行動で感謝を示してくれたら嬉しいなー」


「いやいや、私だって可愛い妹が働いているなら手伝いたいさ、けど如何せん今日は用事が…………あー……ツカサのせいだわー……ツカサと会話してたせいですっかり忘れてたわー……責任とれ」


「絶対に俺のせいじゃない」


「冗談に決まってんだろ? 私がそんなこと言うわけないだろうが」


「いや、ビューネさんだから言いそうなんですよ。つーか、冗談言ってる暇あるなら今からでも行ったらどうですか……」


「いや、行くんだけどなー……お姉さん寂しい」


 頬を膨らまし、その頬に自身の右手の人差しを添え、何だか星でも出そうな感じにウィンクをするビューネさん。


「凄まじく似合わないですね、それ」


「よーし、喜べテメェら今日は名物が二回見られるぞ」


「ごめんなさい、許してください」


「あははー、ツカサ君もうすっかり姉さんと仲良しだねぇ」


 これのどこを仲良しと思えるんだ……。完全に暴れている暴君と、それに振り回される人民じゃないか。そう抗議でもしようかと思ったが、それを言うと本当に名物の二回が見られることになってしまいそうだったのでやめた。


「それじゃあテメェら、私は行くからな。名残惜しいだろ? 私が居なくて寂しいからって泣くなよ!」


 そしておもむろに立ち上がったビューネさんはそう言い残すと、颯爽と《オラシオン》を後にした。


 凄くマイペースな人だったな……。


「レディも苦労してそうだな……」


「……いや、そうでもないよ」


 何の気なしに呟いていた言葉はレディに聞こえていたらしい。


 しかしレディから聞こえたのはレディにしては珍しく余所余所しい様な、何処と無く申し訳なさそうな消極的な声音だった。


「少なくとも姉さんはボクよりも苦労していると思う……それにきっとボクの方が姉さんに迷惑をかけている筈だよ」


「そうか? まあ、レディがそう言うのならそうかもしれないけど……どうして『思う』とか『筈』とか、曖昧な言い方なんだ?」


 俺がレディに言った『苦労しているんだな』と言う発言に対しての反論であれば、『思う』とか『筈』なんて言い方はせずに、『苦労している』とか『迷惑をかけた』と言い切れる筈だ。


 にも関わらず曖昧で余所余所しい、第三者目線の様に、簿かす様に、自分自身の事であるのに他人事の様に、そんな言い方をした。まるで言葉の根拠が何処にもないかの様に。


「あははー……痛いとこを突いてくるねぇ……」


 空元気に笑うレディは「女の子相手に細かい所に気付くってのはあんましモテないのかもねぇ……」と、相変わらずの空元気な笑顔で軽く俺を窘める。


「どうせモテないから変わらないよ……」


「ツカサ君は女の子より男の子にモテそうだもんねぇ」


「オイコラ」


「あははー、冗談は置いておいて、そうだねぇー……」


 レディは小さな声で「まっ、いっか」と呟いた後、わざとらしく溜めを作り、言った。



「ボク、八年より前の記憶が無いんだよね」



 話の流れでたまたまとはいえ、軽はずみにそんなことを聞いてしまった事への罪悪感に苛まれる一方で、レディはしてやったりとでも言いたげな表情を浮かべる。


「悪い……」


「いやいや、謝らないで。ボクは気にしてないし、そもそもツカサ君に言ったのはボクの意思だからさ」


 それでも謝罪の言葉を述べようとしたが、言葉を発す既の所でレディに遮られてしまった。


「それよりもボクとしては驚いた反応が欲しかったなぁ……それに、ツカサ君だから言ったんだよ?」


「うぅっ……ごめん。……どうして俺なんだ?」


「んー……強いて言うならツカサ君がこの世界の人じゃないから、かな? ほら、ツカサ君ってこの世界の事よく知らないでしょ?」


「それって俺が常識知らずって事じゃないのか……?」


「それは邪推だよ。考えすぎだよ。ひねくれてるよツカサ君」


「そこまで否定しなくても……」


「まあ、要はね、この世界で起こってることとかをツカサ君は知らないから、この世界の人が思い出したくない様なことを思い出す事が無いからなんだよ」


「それはつまり、八年前あたりにこの世界の人が思い出したくない様なこと起こったって事か?」


「そうだよ。詳しく言うならこの国の、だけどね」


「八年前か……。七年前なら思い当たるのが一応あるんだけどな……」


「七年前?」


「ああ、詳しくは知らないけど、レイン=シュラインが失踪したってやつ」


 魔闘祭前に王宮でレイから聞いた話の一つ。も、詳しい内容は聞きそびれたけども。


「うーん、確かにそんなのもあったけど、今回のはそれとは別件だよ。まあ、関係がないわけでもないかもしれないけどね。何せボクにとっても八年前の事は聞いた限りだから詳しくは知らないし」


「てことは、レディが記憶を無くしたのは、八年前の思い出したくない様な出来事が起こった後ってことか?」


「それがね、丁度同時期、もっと言えばボクの記憶が欠落している日は、それの二日後からだったんだよね」


 なるほど。確かに記憶が欠落している日とこっちの人々が思い出したくない様な出来事が起こった日がそれだけ近いと嫌でも連想してしまうのだろう。


「なあレディ……それって七年前のとは関係なかったとしてもこっちの人が思い出したくない様な出来事の方と関係あるんじゃないのか……?」


「それは無い……らしいよ?」


「自信はないんだな……まあ、そりゃそうか」


 記憶が無いレディからすると、当時の事やそれ以前の事は、例え自分の身に起こった事であったとしても人に聞かなければ知る事ができないのだからその反応も当然なのかもしれない。


「うん……姉さんはボクはそれとは関係の無い事故で記憶喪失になったって言ってたけど、記憶を無くした当時の事を知っているのは姉さんだけだから……」


 苦笑い。レディとしては姉であるビューネさんを信じたいが、事の起こりの時期が近過ぎてどうしても信じきる事が出来ないのが苦しいといったところだろうか。


 今後、レディに記憶を無くした事とこっちの人が思い出したくない様な出来事の関係についての話題は避けた方が良いかもしれない。


「そっか……じゃあ、八年前の思い出したくない様な出来事について教えてくれないか?」


 話題の逸らし方が少し露骨になってしまったが、レディはそこには触れずに、いつもの笑顔で応えてくれた。

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