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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
106/179

Flag8―魔導―(14)

「……で? その姐御だとどうなる?」


「ああ……半殺しにされる……」


「どんな風に?」


「そりゃあ……見るも無惨……な?!」


 話していた男は急に言葉に詰まりながら、男達は全員目を白黒させる。


「……ど、どうして姐御が!? で、出掛けてたんじゃ……」


「生憎待ち合わせ相手は時間にルーズなジジイだからな。それでどうした? 早く続きをいったらどうだ。出来れば具体的にな?」


 男達は離れていてもその量がはっきりと目で確認出来る位に大量の汗を流し、顔色は蒼白している。


 一方、男達を一瞬でそんな状態にした当の本人はと言うと、紫の長い髪の下で笑みを浮かべていた。……その青い瞳を除いて。


「えっ……あっ、その……これは……」


 男達はさっきまで俺に向けていた様な覇気は全く見当たらなく、面白いほど萎縮し、さっきまでと同一人物であることが嘘みたいだ。


「なんだ? 何か疚しい事でもあんのか? ……つーか、だから何で十以上年上の野郎に姐御なんざ呼ばれなきゃいけねぇんだよ。私は二十四だ、ババアだと思われたらどうすんだ?」


「あ、姐御は姐御ですから……あ、姐御は一体何時から……」


「あー……『この世に舞い降りた天使』あたりだったか? その時には既に居たな。まあ、確かに私の妹は天使だ。だが、それとこれとは話が別だ……」


 レディのお姉さんがそう言うと、さっきまで俺に絡んでいた男はこの世の終わりを見たかの様な表情を浮かべて押し黙ってしまった。


「何か騒がしいと思って来てみたら私の可愛い可愛い妹の友人をいじめやがって……しかも、こんな女の子を……テメェらそんなヤツらだったのか……」


 ……ん? 女の……子……?


「テメェらがうちを贔屓にしてくれてるのはありがたいけどな、か弱い人間に嫌がらせをする様なヤツらには出入りなんざ願い下げだ……」


「あ、あのー……俺、女の子じゃ……」


「だからテメェらに人に与えた苦痛は帰ってくるってことを後々“後悔しねぇ様に今の内に身に覚えさせておいてやる”よ。私の慈悲深さに喜べ」


 俺の発言には目もくれず、レディのお姉さんが更に口角を吊り上げると、男達は「ひぃっ」と短く情けない悲鳴を上げる。


「それじゃあ……覚悟は良い、よなァ?」


 そして続けてそう言うと、今度は男達の全員がこの世の終わりを見たかの様な表情を浮かべた。





「アッハッハッハッハッ! お前本当に男だったんだな!」


 大きな声で笑ってバンバンと俺の背中を叩くレディのお姉さん――もといビューネさん。痛いです。


「姉さん、あんまり笑うとツカサ君に失礼だよ?」


「だってよぉ……こんなにケーキ似合う男ってのも中々居ないぞ? あっ、その上に乗ってる苺くれ」


「既に取ってるじゃないですか……」


 残しておいたのに……。


「細けぇ事言うなって」


 現在はカウンター席に座り、何事もなかったかの様にコーヒーを飲み、ケーキを食べ、雑談をしているが、数分前まではビューネさんが俺に絡んできた男達を物理的にも精神的にもフルボッコにしていて正に地獄絵図であった。


 思い出すだけで恐ろしい。


『オラァッ! 弱音上げてんじゃねぇ!』


『い、いや姐御……へぶっ!』


『私を姐御と呼ぶんならもっと歯ぁ食い縛りやがれぇ!!』


『も、もう無理で……おふぅっ!』


『ケツ蹴るだけに済ましてんだ、有り難く思いやがれ!』


『おおおおおおおお! ご、御褒美! 御褒美ですううううううううう!!』


『な、何だテメェ!? きめぇ!』


『うっ!? 言ったのは俺じゃない! 俺じゃないですぅぅ!!』


『うるせぇ!!』


『い、痛……んほおおおおお!! イイぃぃいいい!!』


『だからきめぇ!』


『だから俺じゃないでへぶぅ!?』


『細けぇ事は気にすんな!』


『お尻が別れちゃうぅぅぅぅ! 四つに……四つに別れちゃうううううううううう!』 


『ウラァッ!』


『や、やめてぇ! 俺のお尻はもう……もう……』


 ……うん、恐ろしく気持ち悪かった。


 その後、男達の中の数名を除いた全員が尻の痛みに悶絶すると、お仕置きは終了し、調度タイミング良くレディも戻って来て現在に至る。


 ちなみに、ビューネさんは俺の「女じゃない」と言う発言は一応聞こえていたらしい。


 では何故男達をフルボッコにしたのかと問うてみると、『アイツらの暴走のせいで妹の友人が減ったら妹が悲しむだろうが』と意外にも良いお姉さん風を吹かせたが、少しやり過ぎたのではないかと問うと、『むしゃくしゃしてやった。後悔も反省もしていない』と答えたので全てが台無しだった。


「そもそもオーナーがそんなことして良いんですか?」


「オーナーだからな」


「言い訳になってねぇ……」


「何だ、ここで一番偉いのは私だ。文句あるのか?」


「文句しかないです」


「ハハッ! だろうな!」


 ビューネさんは俺の呈した苦言を聞くと満足そうに笑う。わかって言ってたのかよ……。


「はぁ……趣味が悪いですね……」


「そう拗ねんなって、ほら私のこと“御姉様”って呼ぶこと許可してやるから」


「馬鹿にしてますよね?」


「ちぇーっ、つれねぇなぁツカサちゃん」


 言葉と裏腹にケラケラと笑っているビューネさんに頭を痛くしていると、ふとポケットに突っ込んでいた一枚の紙切れを思い出す。


「あっ、そう言えばビューネさん」


「どうした? 御姉様と呼ぶ気にでもなったか?」


「違います。これなんですけど……」


 そう言い、学園長に貰った紙をビューネさんに手渡すと、ビューネさんは少し驚いたのか、微かに眉を上げた。


「随分と懐かしいモンを持ってんだな。何処で手に入れたんだ?」


「学園長に貰いました」


「ああ、ルイスか。どうせ使い忘れて何かの拍子に使えるかわからないから渡されでもしたんだろ?」


「……よくわかりましたね。それで、これって使えるんですか?」


「んー……苺くれたから良いぞー」


「随分と軽いんですね」


「そりゃあ私が六年ほど前に適当に作って適当に配ったやつだからな。オーナーの私が決めた事なんだから問題ない」


「……オーナーがそれで良いんですか……」


 この人が商売人としてやっていけているのか本気で心配になる……。


「おう、うちには可愛い妹が居るからそんくらいの元なんて取り放題よ」


「まあ、確かにそうでしょうけど……」


 ビューネさんの言う通り、レディのルックスは申し分無い、ビューネさんを「姐御」と呼び慕っているさっきの男達の中にもきっとレディが目的で来ている人もいるのだろう。


 しかしビューネさんも十分美人である。ビューネさんは気付いてないだろうが、レディと同様にビューネさんが目的で来ている人が居てもおかしくはない筈だ。


「まあ、ナンパする様な野郎がいたら二度と店に顔を出せない様にぶっ飛ばすけどな」


 相変わらず大きな声で笑いながら恐ろしそうなことを言うビューネさん。……男より女にモテそうだな、この人。

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