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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
105/179

Flag8―魔導―(13)

 触らぬ神に祟りなし。わざわざレディに言って揉め事を起こすのも、巻き込んで手を煩わせるのも気が進まない。それに、流石にいきなり喧嘩を吹っ掛けてくることはないだろう。


「そう? それで、どうしてツカサ君がここに?」


「学園長に教えてもらったんだよ。それに学院の演習場は閉まってるからここまで来ないと魔法の練習出来ないし」


「なるほどねー。けど学園長と世間話って珍しいね」


「そうなのか?」


「だってほら、あの人よく消息不明になるでしょ? だから学園長と世間話出来る人は限られているんだよ」


「た、確かに……」


 そう言えば教師達が『学園長は何処行った!?』って言いながらどたばたしてるの時々見るな……。


「ちなみに学院から抜け出している時はよくここに来てるよ」


「何してんだよあの人……」


「ボクの姉さんと世間話だね」


 レディはその時の光景を思い浮かべ……いや、思い起こしているかの様にクスクスと笑う。


「それじゃあ、ここって……」


「うん、ボクの家だよ」


「教師が生徒の家に入り浸るって良いのか……?」


「良くは無いと思うけど、ボクが入学する前から来てたからねぇ……あっ、ごめんね、注文聞くの忘れてたよ……どうする?」


「それじゃあ、学園長もおすすめしていたコーヒーで……それと何か付け合わせってあるか?」


「んーと、クッキーとかケーキみたいな甘い物からナッツとかをバターで炒めた塩気のある物、スパゲティやオムライスみたいなガッツリしたのまであるよ?」


「結構種類あるんだな……」


「様々なニーズに応えないといけないからね」


「喫茶店も大変なんだな……。じゃあ、ケーキ頼めるか? 種類は任せるよ」


「りょーかい! ちょっと待っててね!」


 レディはそう言うと、カウンター奥の扉へと入っていった。


 ……あれ? これちょっとやばくないか?


 危険(?)と隣り合わせだったことを思い出して俺はテーブル席の様子に恐る恐る目を向けると、さっきは座ったまま俺を睨んでいた男達が立ち上がっていた。


 そして男達は獲物に狙いを定めた時の様に目をぎらつかせ、ゆっくりと、ゆらゆらと、無駄に綺麗な隊列を保ちながらこちらに向かって行進を開始する。


 男達が近付いてきた事で、気のせいでは誤魔化せないほどはっきりとした声が聞こえてきた。


『よし……殺るぞ……』


『天誅を……! 異端者には天誅を……!』


『……はっ! 性別に拘っていたから駄目だったのか。これが……悟りの境地っ……!』


『コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス』


 何これ怖い。


 そして、そんなことを言っている当の本人達は皆ごついので異様な違和感を感じるが、滑稽に見えることはなく、むしろその異様な違和感のせいで余計に不気味さや怖さに拍車が掛かっている。


 当然、店内でそんな空気出していると他の客の邪魔になる筈なのだが、以外にも他の客はしれっとしており、何事もないかの様に振る舞っている。なんで?


 考え事をしている間にも男達は俺の真近くまで近付いてきてしまっており、俺の左横一メートルもしない位置に男達の一人が立っていた。


 男達は俺の近くに立つと何故か無言になったが、とにかく威圧感が凄い……。どうするべき……というか、マジで俺何かした? しかし、理由はわからないにしろ、現にこうなっているのだから今はこの状況をどうにかしよう。


「あの……どうかなさったんですか?」


 依然として無言で立っている男に俺は出来るだけ刺激しない様、柔らかな口調で話しかけた。


「……テメェ勿論覚悟は出来ているんだよなァ?」


「いきなり何ですか?」


「あ゛? 何ですかじゃねぇよ。テメェ、自分がどれだけ愚かなことをしているのかわかってんのか?」


 手をバキボキと鳴らしながら俺に詰め寄ってくる男達は既にご立腹の様で下手に出ても大した効果はないらしい。


 この状況をどうにか改善出来ないだろうかと考えてはみるものの、あまり平和的な解決なんて望めそうもない状況である。


「わからないから聞いているんですけど……」


「テメェ……ここらで育った奴じゃねぇな?」


 てっきり逆ギレされるかと思って駄目元で言ったことではあったが、意外にも男は聞き入れ、キツかった目付きは若干ながら緩まった気がした。……相変わらずその後ろの男達は殺気立っているが。


「そうですけど……どうしてわかったんですか?」


「そりゃ何処にでもあるルールってヤツをテメェが知らなかったからだ」


「ルール……?」


「ああ、この店のカウンター席に男が座るのは許されねぇ……」


「どうしてそんなルールが?」


「どうして、だとォ……?」


 男は絞り出した様な声でそう言いながら両の拳を握り、わなわなと震わせる。地雷を踏んでしまったのかもしれない。


 男は少し溜めを置き、


「お嬢に悪い虫が付いたらどうすんじゃボケェ!!」


 唾が飛び散るほどの大声でそう叫んだ。


「お嬢……?」


「さっきまでテメェと話してただろうが!!」


「ああ、レディの事か」


「気安く名前で呼んでんじゃねぇよ! 誰の了承を得てんだ、ぶちのめすぞゴラァ!」


「誰ってレディに決まって……」


「言い訳すんじゃねぇ! テメェがお嬢の名前を呼ぶなんざ一生かかっても許されねぇ事なんだよ!」


 えー……何この理不尽。その上、何か男の目も血走ってるし、後ろの人達も雄叫び上げ出したし……気持ち悪い。


 流石にこれは確実に他の客に文句を言われてもしょうがない筈なのだが、テーブル席に座っている客達は相変わらず各々が行っている事を続けている。……ああ、日常茶飯事だったのか……。


「とにかく! テメェは許されねぇ事をした……納得したならとっととこの世に生まれてきたことを懺悔しろ」


 大袈裟過ぎるだろ……。納得も出来ねぇし……。


「そもそも手を出したりするつもりはないんですけど……」


「はぁ? テメェお嬢に魅力が無いつってんのか!?」


「いや、言ってないから」


「だよなぁ……お嬢はこの世に舞い降りた天使だからな」


 そう言って後ろに同意を求めて更に盛り上がる男達。さっきの緊張感は何処へ行った。しかしまあ、雰囲気から見ると一応解決したのか?


「だがそれとこれとは話は別だ。一発殴らせろ、それでチャラにしてやる」


 してなかったみたい。


「何でだよ……」


「良いかよく聞け、もしも手を出す様な事があれば絶対にこんなことじゃ済まねぇ……今の内に身に覚えさせねぇと確実に後悔するぞ……」


「いや、あんたら殴りたいだけだろ」


「そんなことはねぇ……いや、あるけど大真面目に言ってんだ」


「あるのかよ」


「悪いことは言わねぇ……本当に姐御はやべぇんだよ……」


 姐御……? さっきレディとの会話の中に出て来た『姉さん』のことだろうか?

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