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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
103/179

Flag8―魔導―(11)

「いや、ルーナの写真チラつかせたら簡単に喋ったぞ?」


 結構簡単に口割ってた!?


「あの親バカオヤジぃ……」


「しかし、あれが幾ら親バカでも本気で言っては駄目な事は言わない筈だ。だから貴様にとって有用だと思った上での判断だと思うぞ? 親バカだけど」


 ……確かに色々な事を知れるのは俺にとっても都合が良いし、現に魔術についてしれて良かったと思っているからナイトさんのこの判断は正解なのかもしれない。……親バカだけど。


「あっ、そうだ。良いものをやるから少し待ってろ」


 突如、学園長はそう言い、部屋の角の方にあった本棚の本の一冊に手を触れ、押す。すると本棚が縦に真っ二つに割れ、それぞれ左右に移動すると、奥へと続く扉が現れた。


 か、隠し部屋だと……?


 そのまま学園長は扉を開け、扉の奥へと消える。


 俺も学園長に着いていこうとしたが、「プラベートルームだ」と言われて止められてしまった。


「……普通学校にプラベートルームなんてねぇだろ……」


 そう呟くが、あれは普通ではないと言うことに気付き、愚痴るのをやめた。


 …………。


 …………。


 …………。


 …………。


「遅い……」


 さっきからずっと待たされている気がするが、何もすることがないからなのか、備え付けの時計の針はそんなに動いていなかった。


 仕方ない、暇なので少し物色しよう。


 後で何か言われても待たせる学園長が悪い。そう自分に言い聞かせて、好奇心のせいか心拍数をあげながら、学園長室を歩き回る。


 すると、学園長の机の上に水晶玉の様なものを見つけた。


 魔闘祭前に練習した時にカーミリアさんが持ってきた魔変石に似ている気がする。


 何気無く、軽い好奇心で水晶玉に軽く触れてみる。


 途端、水晶玉が気味悪く、とぐろを巻くかの様にどす黒く染まって行く。


「…………」


 何これ怖い。


 見ていていい気分がしない……むしろ気分が悪くなりそうだったので水晶玉に触れていた手を離すと、水晶玉は何事もなかったかの様に透明になった。


 一体なんだったのだろう? 変な魔導具だなと思っていると、漸く隠し部屋の扉が音を立てて開いた。


「待たせてしまってすまない。ほら、これをやる。微々たるものだが私の気持ちだ、受け取ってくれ」


 隠し部屋から出てきた学園長は開口一番にそう言い、何やら文字の書かれた一枚の紙切れを差し出された。


 俺はそれを受け取り、文字に眼を通す。



『カフェ《オラシオン》コーヒー無料券』



「……本当に微々たるものですね」



 つーか、この紙所々折れてぼろいし、文字雑だし……そもそも使えるの?


「だから微々たるものだと言ったろう?」


 何故に威張る。


「……どうしたツカサ? 何故黙る?」


「もしかしてあれだけの時間かけておいてこれだけですか?」


「……そうだが?」


「えっ」


「えっ」


 再びこの場を短い沈黙が支配する。


「……もういいです。で、どうしてこれを俺にくれたんですか?」


 何だか色々と言ってもどうせ面倒な結果になる未来しか見えないので、とりあえず一番気になったことを訊いてみる。


「私が学園長で貴様は生徒。生徒を大事にしない教師はいない、教師とは生徒の道標となるものだからな。それにさっきも言ったがお詫びの気持ちだ。決して『あっ、コーヒー無料券あったけど今更使えるかわからないし、この際これ渡して適当に丸め込んじゃえば良いや! ちょろいな!』とか思ったわけではないからな?」


「思ったんですね」


 どうしてこれで丸め込めると思ったのか甚だ疑問である。


「別に良いだろう? 文句あるのか?」


「言い訳しないんですね」


 ちなみに文句しかない。


「私は素直だからな」


「ここまで来ると最早清々しいです」


「そう誉めるな、あまり持ち上げられると照れるじゃないか。なぁに、大人の余裕と言うやつさ」


「誉めてないですし、持ち上げてないので照れるな。……最低な大人の余裕だな……これが生徒の道標とか路頭にしか迷わねぇだろ……」


 敬語? そんなの忘れた。


「反面教師というやつだな」


「誰が上手いことを言えと言った」


 得意気なのが余計に腹立つ。


「あっ、そうだ」


 学園長はまた何かを思い出した様に手をポンと叩く。……学園長が唐突なのは今に始まったことではないが、そのペース慣れてきてしまっている自分が悔しい。


「何ですか?」


「その紙き……コーヒー無料券書かれている《オラシオン》という喫茶店は、少し前に貴様が人質になった演習場と同じ大通りに面しているから直ぐに見つかる筈だ」


 紙切れって言おうとしたなこの人。


「……まあ、気が向いたら寄ってみます」


「ああ、そうすると良い。あそこのコーヒーは中々に美味だからな。是非ともその紙き……紙切れを使えるかどうか試してきてくれ」


「後半本音だだ漏れですね」


 紙切れって言いきったし。


「そりゃあ、私だからな」


「最低な大人の余裕ってやつですねわかります」


「だろう? そう言えばツカサ」


 意味不明などや顔。文字通り再三にわたっての急な話題転換。この人の相手は多少の慣れはしても労力は変わらなそうだ……。そう考えると、色んな意味でネアン先生は尊敬出来るのかもしれない。


「今度は何ですか?」


「いや、《オラシオン》の話程に重要な事ではないのだがな、さっき話に出てきた演習場で、貴様が人質になった時に捕まえた《リアトラの影》の人間がいるだろう? その全員が奇妙な事に事件に関して何も覚えていないらしく、調査が難航しているらしい。だからその時の当事者である貴様に何か気付いた事は無かったか訊けと、面倒なことに頼まれてな」


 一番重要な話じゃねぇか……。この人の優先順位の基準どうなってんの。


「なんかどうでも良さそうですね」


「それもそうだろう? あの時、《リアトラの影》の人間の殆どを始末したのは私だ。確かに調査にはより多くの情報が必要だ……だが、これでも私は貴様に聞いた事を含め、これでもかと言うくらい話したのだ。にも拘らず、まだ貴様に訊いてこいと言ってきたのだからこれでもかと言うくらい呆れもするだろう」


「要は、不満なんですね」


「いや、そうではない。不要なのだ」


 ……拗ねてる。相も変わらず大人気ない……。


「とりあえず――」


「いや、良い。どうせ変わらないだろ。さあ、帰った帰った」


 学園長はそう言い、シッシと手を振る。本当に不満なんだな……。


「……わかりました。けど、最後に一つ良いですか?」


「なんだ? 私は時間がないんだ、手短に頼む」

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