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あなたのやり方で抱きしめて!【改稿版】  作者: 小林汐希
エピローグ・私の卒業式
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【エピローグ・三】 私だけの卒業証書


「ほら、お二人ならあそこにいらっしゃいますよ」


 お仕事が終わった様子の水谷さんが千佳ちゃんと一緒に歩いてくる。


「今日は本当にありがとうございました。何から何まで……」


「私にとって特別なお二人ですから。私たちスタッフもご主人から連絡を頂いて『あの模擬挙式を今度こそ本番でやれる!』って大興奮だったんですよ」


 水谷さんは、今日の写真などの発送についての確認と同時に、驚く話をしてくれた。


「そ、そんな。いいんですか?!」


 さっき返却したドレスをクリーニングしたあとで写真と一緒に送ってくれるというんだよ。


 あの挙式モデルの時には新作の新品で、今回は保管されていたそれにもう一度私が袖を通して……。それを!?


「いいんです。あのモデル写真をご覧になって多くの方が選ばれました。会社には黙っていましたけど、お二人に再びお会いできた時から、あの一着だけはいつか結花さんのものにしたかったんです。ご存じのとおり、すでに新着ドレスの一覧からは外れています。ここまで頑張られたお二人へチャペルからのプレゼントにさせてください」


 水谷さんの目が潤んでいる。修学旅行の夜に出会って、先生と私の関係を知ってから忘れられなかったって。


 あの模擬挙式の後、私たちがここで式を挙げると約束したときからチャペルの皆さんが心に決めてくれていたんだそう。


「ありがとうございます……」


「今度は正式にご夫婦ですね。末永くお幸せに」


 水谷さんが駐車場の方に歩いていくのを見送った。


「すっごぉい……。結花! 先生!」


 この旅行で間違いなく一番楽しんでいたと思われた、その千佳ちゃんも話の流れに驚いていた。


「佐伯か。俺たちへのドッキリ作戦では大活躍だったそうじゃないか。お疲れさんだったな」


「あたしの親友の結婚式ですし。結花は……やっぱり誰よりも特別です」


 今日は千佳ちゃんだけでなく、彼氏さんも一緒に二人で参列してくれた。それなら、彼女たちの時には私たちも二人で行かないとねと陽人さんと話していた。


「今日、結花と先生見て感動しちゃった。だからね、あたしたちも学校を出たら頑張ろうって決めたの。結花のブーケ、絶対に無駄にしないから」


「あのブーケトスの瞬間は気合い入ってたもんなぁ。俺の授業でもあのくらい真剣だったら嬉しかったんだが?」


「もう過ぎたことですから。それに重要の度合いが違います!」 



 ブーケトスは一番気合の入っていた千佳ちゃんが予想通りにガッチリとキャッチした。


 でもね、よく考えればあの中で未婚の女性は千佳ちゃんだけなの。だから最終的には彼女のもとに回って来ることは分かっていたのだけれど、自分で取ってくれたのが嬉しい。


 一番の大親友へ特別な幸せのおすそ分け。



「あたしも結花に負けないからね」


「うん、そう思ってくれたら良かった。ねぇ先生?」


「おまえら、いつまでもその呼び方やめてくれないかぁ?」


 確かに私からの呼びかけも、「陽人さん」と今でも「先生」の両方をシチュエーションで使い分けている。




 でもね……、


「いいえ。きっといつまでも、私たちの先生は先生なんです。でも意味があの当時と違います。教室で数学を教えてくれた担任の小島先生ではなくて、少し先の人生を教えてくれる陽人先生なんです」


 そう、私に教えてくれたことは勉強だけじゃない。


 目立たない一人の生徒。それも一度姿を消し、人生という舞台からの退場も目前だった私をここまで導いてくれた。人生の先輩……。いや、私にはやっぱり「先生」の方がしっくりくるよ。


「さすが結花も上手い。先生を落としただけのことはあるね。二人が学校からいなくなって大変だったんだから。デキてたんじゃないか、駆け落ちしたんじゃないかとか。あたしは全部知っていたけど、黙ってるの大変だったぁ!」


「こら佐伯、教師をからかうんじゃない」


「ほら。やっぱり先生ですよ!」


「おまえたち相手にしてたら変わらないな」


 先生が笑って、千佳ちゃんも頭を下げて走って行った。


 でもそれは本当だったと思う。あの状況から今日の日を迎えられるなんて誰が当時思っただろう。


「ねえ先生?」


「だから結花も……」


「ううん、違うの……」


 言いかけた言葉は、私の唇で素早く吸い取った。


「陽人先生。私の進路志望、諦めないでよかった。あなたに逢えて、よかった……」


「俺もだ。結花に出逢えて、よかったよ。これからも、よろしくな」


「はい……。今度こそ約束します。いつまでも一緒です」


 夕陽が沈んだあとの満天の星空の下、私は「小島結花」という最高の卒業証書を心に受け取って、暖かい腕の中で小さく肯いた。


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