ハッピー・ファンタズムナイト♪ ーワタシがアナタでアナタがアレでー
ハロウィン企画です。
今宵は冬至の前日を祝うお祭りの日。
通称『幻影の夜』と呼ばれる祝日です。
裕福な家庭であれば冬物のドレスやスーツを新調し、それに合わせて親戚や友人を招いてのパーティを開くのが常であり、そうでない家庭であっても、できる限りの御馳走とお酒を用意するのが習わしです。
また街には一晩中蝋燭が灯され、魔女や魔物の扮装をした子供たちが家々を巡り、
「ハッピー・ファンタズムナイト♪ お菓子ちょうだい。くれないとオバケがイタズラするよ~」
と言って、お菓子や玩具を貰って歩く……そんな風にして、夜が明けるまで一年の豊穣を祝い、厳しい冬に備えて精一杯楽しむの夜なのでした。
ちなみにこの『幻影の夜』。もともとは大陸土着の風習らしく、本来は大陸三大宗教である『天上紅蓮教』『聖女教団』『神獣崇拝』では通俗的な習慣ということで、表立って取沙汰されていなかったのですが、超帝国によって暦が改められた際に祝日と定められたことから、しぶしぶ(『天上紅蓮教』だけは諸手を上げて賛同したそうです)この日を祭日として認めたという経緯があり、いまや大陸全土において『幻影の夜』を祝う習慣が根付いている……とのこと。
そのようなわけで、この日は私もレジーナにお休みをいただいて(当然、その前は牛馬のようにこき使われました)、旧知の仲である友人たちと交友を温めるため、グラウィオール帝国の帝都コンワルリスへ、【転移門】を使って訪問したのでした。
一緒に着いてきてくれたのは、私の使い魔である天狼のフィーアと、西の開拓村に帰省していたエレンといつもの人造人間メイドのコッペリアです。
お忍びの訪問とはいえ、仮にも聖女教団の広告塔である《巫女姫》のご来訪ですので、帝都にある教団の教会へ挨拶に伺い、半日ほど治癒を行ったり、孤児院や傷病者の慰問をしたりと駆り出されましたけれど、幸いにして(?)天上紅蓮教のお膝元である帝都コンワルリスでは、教団の威光もさほど幅を利かせていないお陰で、夜には自由時間を取ることができました。
そうして久々のブラントミュラー家の別邸で羽を伸ばし、
「ハッピー・ファンタズムナイトなのっ。お菓子くれないと犯してぶっ殺すの……!」
「いい度胸だクソ幼女っ。ソレはワタシに対する宣戦布告と確認した!」
「望むところなの! 祭りと書いて合戦場と読むの……!」
「「勝負(なの……)っ!!」」
魔女の扮装をしてお菓子をねだりにきた、五歳ぐらいの可愛らしい金髪碧眼の(なぜか両手に包丁を握った)幼女の冗談を本気にして、玄関先でモーニングスターを取り出し、交差させたコッペリアとの間に慌てて割って入ったり、
「ありがとうなの! 胸のでっかい太っ腹なお姉ちゃん……!」
お菓子をあげた幼女の他愛のない一言に、微妙に引っかかるものを覚えたりしたものの、久々の充実してまったりとした都会の夜とお祭りを満喫するのでした。
「――ふん! 帝都へ来たんなら顔くらい出しなさいよっ」
「ハッピー・ファンタズムナイト! お久しぶりですにゃ」
そうこうしている内に夜も更けた頃、思いがけずに帝国貴族にして、帝国でも屈指の豪商であるべーレンズ商会のご令嬢であるエステルと、白猫の獣人族であるシャトンがやってきました。
ちなみにエステルはシレントへの留学を予定していたのですが、海路での船酔いの悪化、陸路の天変地異、目的であったルークの失踪――などと立て続けに起こったため、泣く泣くシレントへの留学を断念して、帝都へ留まっていたとのことですので、ここにいてもおかしくはないですが、シャトンに関しては相変わらず神出鬼没としか言いようがありません。
「あら、まあ……お久しぶりですわね、エステルさん。お変わりなさそうで……」
「あン⁉ 二年経っても成長してないって言いたいの⁈ このオッパイオバケ!」
途端、背伸びをしてオラつくエステル。……普通に挨拶しただけだというのに、なぜメンチ切られなければならないのでしょう?
女の子の場合は十四歳くらいでほぼ体格が決まりますけれど、私とエステルとでは身長で二十セルメルトほど。絶賛成長期のルークとは三十セルメルトの差があるため、おそらくは今後この差が縮まることはないでしょう。
私の何気ない言葉が、小柄な体格にコンプレックスのあるエステルの逆鱗に触れたようですわね。
「申し訳ありません。他意はないのですが……」
「ふン! いまは勝ち誇ってなさい。将来、あたしがルウ君の側室になった暁には、後宮を取り仕切ってルウ君を独占してやるんだから。正室の地位に胡坐をかいて、せいぜいほえ面をかくことね!」
「わ~~、気宇壮大ですわね~」
さすがは帝国一の海運王の娘にして屈指の財閥であるべーレンズ商会のご令嬢。正室とか側室とか、後宮の運営とかこの時点で画策しているなんて土性骨が違いますわ。
とはいえエステルのこの変わらぬ態度は、私にとっては非常に心安らぐ掛け替えのないものでした。
別に私という個人は変化していないのですが――まあここ一年の間に身長がまた伸びたり、ブラのサイズがアップして、さすがにワイヤー入りのブラじゃないと支えきれなくなったり(いままでは鍛えた胸筋で均衡を保っていたのですが)と、些細な変化はありましたけれど――一介の下級貴族の養女から、対外的な看板や立場が変わっただけで、ガラリと人の態度が変わったところを目の当たりにする機会が増えた昨今、エステルの変わらない傍若無人さは、ある意味小気味良くて嬉しいものです。
「ええと、それでシャトンが一緒ということは……?」
「ど~も。ドルミート川の交易のことで、『よろず商会』の手形を発行してもらえないか、打ち合わせをしてたんですがにゃ。こっちのお嬢さんが、ジルちゃんが帝都に来ていて、ついでに夜にルーカス公子がここに来ると聞いて、周りが止めるのも聞かずに飛び出したので、べーレンズのお嬢様のフォローと、ジルちゃんとの執り成しをするのを条件に、手形を許可してもらえるということで付いて来たにゃ」
いつものことですが、とろんと眠そうな眼差しでそう簡潔に事情を説明してくれるシャトン。
「……大変ねえ」
「大変でない商売はないですにゃ。――あ、これうちの親方から土産に預かった超帝国の新製品のお菓子らしいですにゃ」
しみじみ同情する私ですが、シャトンはいつもの飄々とした風情で、どこからか取り出した缶に入った焼き菓子らしいお菓子を差し出しました。
「わざわざありがとうございます。クッキーですか?」
「親方曰く『幻影の夜にピッタリのフォーチュン・クッキーですわ』ということですにゃ」
「へー……」
「――あの、ジル様。〝フォーチュン・クッキー”ってなんですか?」
メイドとして私の代わりにお土産を受け取ったエレンですが、聞きなれない単語を受けて、微妙に不審物でも持つようなへっぴり腰のまま、恐る恐る私へ小声で確認してきました。
「むう、フォーチュン・クッキーとな……」
途端、私が答えるよりも先に、エレンの隣に佇んでいるコッペリアが難しい顔でクッキーの缶を注視します。
「知っているの、コッペリア?」
と、真剣な表情で尋ね返すエレン。
「うむ。古くは諸島列島に伝わる習慣で、特定の割合でクッキーの中に致死量ギリギリの唐辛子やワサビを練り込ませた罰ゲーム。別名『ロシアンルーレット・クッキー』とも呼ばれ、諸島列島においては乙女の運試しとして気合を入れて臨むイベントだと、ワタシに登録されている資料『恋するロシアンルーレット《超時空編》(ミンメイ・リン書房刊)』に記載されています」
口から出まかせなのか、資料が間違っているのかは不明ですが、コッペリアの嘘八百の説明を受けて、
「捨てましょう! こんな危険物をジル様のお口に入れるわけにはいきません!」
即座に缶ごとゴミ箱にボッシュートしようとするエレンに待ったをかけ、慌てて私はフォーチュン・クッキーの正しい姿を説明します。
「――ということで、クッキーの中におみくじが入っているだけですので、そんな劇物ではありません」
「なるほど……」
「最近のフォーチュン・クッキーはヌルいですね。まるでいっせーのせーでゴールする幼稚園の運動会ですねー」
納得するエレンと釈然としないコッペリア。
「まあそれはそれとして、ちょうどいい座興ですわ。せっかくなのでこの場にいる皆でご相伴に預かって、今宵の運勢を占ってみてはいかがでしょうか?」
そう私が提案すると、土産を持ってきた当人であるシャトンも中身が気になっていたのか諸手を上げて賛成をして、エステルも口ではしぶしぶ付き合うようなことを言いつつも、珍しい超帝国産のクッキーということで興味津々たる目付きでクッキーの缶をガン見して同意しました。
エレンはメイドという立場で遠慮したのですが、この場では友人のひとりということで強引に押し切り、あとコッペリアは別に食べなくても問題ないのですが、「毒味する必要がありますから」ということで参加。あと、ついでにフィーアにも分けてあげることになりました。
そんなわけで、エレンとコッペリアにお茶の準備をしていただいて、私、エレン、コッペリア、フィーア、エステル、シャトンはめいめい缶の中に入っていた、人形やオバケ、カボチャなどを象ったクッキーを抓んで、一口頬張った――刹那、あまりのおいしさに全員が目を見開き、お互いに視線を交わして牽制しながら、飲み物にも手も付けず、残ったクッキーへ我先にと手を伸ばします。
そうして、ほとんど一瞬でクッキーを完食し、忘我のため息をついた……ところで、不意にブレーカーが落ちるかのよう目の前が真っ暗になり、はっと気が付いたところで、自分が床に昏倒していたのに気付きました。
「――えっ、なにこれぇ……???」
この場合の『自分が床に昏倒していたのに気付いた』というのは、主観と客観ともにです。
つまり、私がエレンになって床に倒れていて、その隣でソファから半分転げ落ちて、私――ジルの体が寝転がっているのが目に入った、という意味です。
「うお? なんじゃこれは⁉ 感覚器官に不都合あり。自己診断不能……! エラー、エラー!」
私と同じように床に転がっていたシャトンが、目を見開いて、続いて頭を壁に叩きつけて困惑しています。
「――って、この反応はもしかしてコッペリア?」
まさかと思いながらシャトンに確認をすると、
「うおおおおっ、なんだこの反応は? 外装は!? 不明、不明! ――ん? どうしました、エレン先輩?」
「うわ~、やっぱり……って、私です、ジルですわ!」
私を見て『エレン先輩』というのはコッペリア以外の何者でもありません。
「はあ……? エレン先輩までバグに侵されているようですね。ですが、いくらクララ様に憧れても、その胸部装甲の薄さは寄せて上げても無駄ですよ?」
「ああああん! なんですって、シャトン!! あんた、あたしのことをそんな風に思ってたの!?」
小ばかにしたように嘲笑を浮かべるシャトンの言葉を聞きとがめたのか、床に前のめりの姿勢で蹲っていたコッペリアが、やにわ再起動して激昂しました――っていうか。
「……もしかして中身はエレン???」
「そーで――って、なんであたしが目の前にいるわけ!? ひゃあああ、なにこの視界! パラメーター? 温度分布? 摩擦係数? 自爆スイッチぃ?? 変な表示がチカチカして、うえ~……気持ち悪ぅ……」
我に返ったところで錯乱するコッペリア。どうやら人造人間としての感覚は人類には早すぎるようです。
その場に屈み込んで、おえーっするコッペリアの口から、謎の七色に輝く蒸気が、エクトプラズムのように漏れるのでした。
「――ったく。五月蠅いわね。なんの騒ぎなわけ?!」
と、そこで不機嫌そうにコメカミに青筋を立てて起きたのは私の体です。
「ん? なんか体が重いわね……」
だるそうに上半身を起こした私へ、
「お、重くないですわ! 体重÷身長÷身長で算出できる体格指数は十八%で、痩せ型の範疇に収まっているのですもの!」
そう慌てて訂正する私。
「はあぁ? なんでメイド如きがこのあたしに――なああああああああ!?! な、な、なによこの体は?!」
そこでようやく自分の体の異変に気付いたらしい。この口調から察してまず間違いなく中身はエステルであろう私。
唖然として壁にかかった鏡のところへ駆け寄り、鏡に縋りつくようにしてためすがめす私の体を確認します。
「……!!」
それから何を思ったものか、やにわ両手でもって私の……というか、自分の胸を鷲掴みにする私。
「うおっ!? なにこの感覚は!! うわ~~~っ、すご~~い! ふわっふわっで、うわ~~っ、片手で覆い尽くせない……!」
微妙に恍惚とした表情で自分の胸を揉みしだく私。
「……あの~。私の体でそういうのは止めていただけないでしょうか……」
傍から見ていてほとんど公開自慰行為を目の当たりにして、そう思わず私が窘めると、
「――っ!? って『私の体』ってことは、あんたもしかして中身は……?!」
ハッと我に返った私が、背後から声をかけたエレンの方を振り返ろうとして、なぜか勢い余ってその場にコケました。
「だ、大丈夫ですか、私?」
「あたた……な、なによいまの!? 振り返った勢いで胸が引っ張られて振り回されたわ!?!」
床にお尻を突いた姿勢で、再び自分の双丘を今度は畏怖の目で凝視して、恐る恐る触る私。
「まあ、例えるなら普段は何もないところへ、いまは一杯に水が入った水瓶を二個ぶら下げているようなものですからねー。そりゃ、遠心力でバランスも崩しますわ」
したり顔でそう解説をするシャトン。
「わんにゃ!」
その通り――とばかり、不安定な二足歩行で同意するフィーア……いえ、もう確認するまでもなく、犬だか猫だかわからない口調になっている彼女の中身はシャトンでしょう。
「えーと、フィーアがシャトンということは、フィーアの中身は……」
消去法で導かされる中身を肯定するかのように、幻影の夜用に着飾ったエステルが、四足歩行で部屋の中をウロウロしては、時折スカートなのを無視して足でポリポリと頭のあたりを掻いています。
「ぎゃああああああああっ!!! やめて! やめなさい、あたし!!」
そのはしたなくも行儀の悪い様子に、本来のその体の持ち主である私が、血相を変えて制止しようとして、再び床につまずいてコケました。
「ふぎゃ! み、見えない!? 視界がおっぱいで塞がれて床が見えない!! バランスが――ひゃええええっ!」
戦慄する私ですけれど、そう言われてみれば……。
「……確かに。このつま先が立ったまま見える感覚は久しくなかったものですわね」
逆に私としては、当然のようにそこにあった遮蔽物がなくなり、ストンと足元が見える見晴らしのよさ。さらには、動き回っても胸元に窮屈さを感じない、無駄に弾むせいで動きが阻害され肩が引っ張られる痛みのない、羽毛のような身軽さは、なかなか新鮮で快適なものです。
「どーいう意味ですか、あたし――じゃなくて、ジル様ですか?! ふぎゃああああああああああっ!?!」
その場でジャンプしたり、屈伸をしたりとエレンの体の身軽さに感動する私の言葉を聞きとがめたらしい、コッペリアが問い返したところで、ロケットパンチが誤射されて、その反動でひっくり返るコッペリア。
「……わー……なんかもう、百鬼夜行ですわねー……」
コントロール不能のコッペリア。
まともに歩くこともできずに床を這いつくばる私。
四つ足で歩き回ってテーブルの上の軽食を顔を寄せて頬張るエステル。
得体の知れない生き物と化したフィーア。
混沌の坩堝と化した客室を前に、そう呻くエレン。
「そもそも原因って……」
「エレン先輩、エレン先輩。なんかさっきのクッキーの缶の底に説明書が入ってましたよ」
比較的動揺の少ないシャトンが差し出してきた紙。
「えーと『このフォーチュン〈シャッフル〉クッキーは、食べた者同士の精神をランダムで入れ替える魔法のクッキーです。効果は『幻影の夜』の夜が明けるまで。さあ、このクッキーを食べて新たな自分を再発見しましょう』――って、まず最初に説明書を上に同封するものでしょう!?!」
原因はわかりましたが、さすがに超帝国謹製の魔法薬とあっては、即座に解毒剤を調合することもできません。
「フィーア! このクッキーの効果を打ち消す薬とかはないのですか!?」
「わわんにゃん」
一縷の手掛かりを求めてフィーアに確認してみましたが、人語を話せないフィーアの口からは得体の知れない返答があるだけでした。……まあ、首を横に振っているのですから、多分「ない」もしくは「知らない」でしょう。
「まあ、今晩一晩だけらしいんで、諦めてこの体の性能で甘んじるしかないんじゃないですかー」
気楽にそう口にするシャトン。
「くっ……そうね。下手に動いて怪我とかしたら、本来の体の持ち主に申し訳ないですものね」
ちなみにですが、エレンの体のせいか魔術の類は一切使えませんので、怪我くらいならともかく重傷を負った場合には取り返しがつかない可能性もあります。
「各自迂闊な行動はしないように――」
そう注意をしようとしたところへ、機先を制するかのようにノックの音がして、家人に案内されてルークと、その随員として猫妖精の騎士、カラバ卿が顔を覗かせました。
「ハッピー・ファンタズムナイト! お久しぶりですな、ジル嬢――いや、巫女姫様」
「ハッピー・ファンタズムナイト。すみません、遅くなって。なかなかパーティから抜け出せなくて……」
帝室主催のパーティから抜け出してきたのでしょう。騎士礼服のカラバ卿と純白のマントと衣装をまとったルークが現れただけで、室内がひと際華やかに輝くのでした。
「きゃああああああああっ! ルウ君、格好いい! 素敵~~っ!!」
嬌声を発して床の上を転がるように這い寄る私。
「――は!? ど、どうしたんですか、ジル。どこか具合でも悪いのですか!?」
ルークが慌てて駆け寄って私の手を取って、床の上からエスコートすると、一瞬、黒い顔になった私は、何食わぬ顔でルークに品でかかり、
「なんでもないですわあ。ああん、ルーク。でもちょっと気分が悪いかも。寝室まで案内してちょうだ――くださいませ~」
「えっ! 大変だ。では、すぐに――」
躊躇なく私をお姫様抱っこするルークと、その腕の中でほくそ笑む私。
「ちょっ、ちょっと待ってください! ドサクサ紛れに私の体で既成事実を作ろうと目論むのはやめてください、エステル!」
さすがに看過できず、詰め寄った私は私の肩に手をやって制止の声をかけました。
「いや~ん、ルークぅ。メイドがヤキモチを焼いて、私とルークとの逢瀬を邪魔しようとしていますわ~」
白々しくルークの胸元へ顔を寄せて甘える私。
そのルークはといえば、まじまじとエレンの顔を見据えて、
「え? えっ……えええ? ジル???」
驚いた表情で腕の中の私とエレンの顔とを交互に見比べるのでした。
「な、なにを言ってるのルーク。私がジルに決まってるじゃないの」
「いや、君、ジルじゃないだろう? ジルならエレンのことを『メイド』なんて呼ぶわけないし、だいたい雰囲気が違う」
あっさりと私の演技を看破するルーク。
凄いですわね。ノーヒントで一発で見破るなんて。
「愛の力ですね~」
シャトンの言葉に面映ゆい面持ちではにかんだ私へ、
「えーと、小生にはいま一つ状況がつかめないのだが……」
困惑した表情で、自慢の髭をしごきながらカラバ卿が、室内の混沌を眺めて説明を求めてきました。
相変わらず暴走している他の面子の様子を眺めながら、さて……どこから説明したものかと、暗澹たる気持ちでため息をついた私は、事の次第を話すべく口を開くのでした。
……こうしてこの夜。私たちの『幻影の夜』は夜が更け、明け方になるまでいつまでもいつまでも続く混乱の内に終始するのでした。




