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協力者

半年も更新していなかったんですね。。

 美暁が帰った翌日、朝木は今度は空の部屋の扉をノックしてから入ってきた。ちなみに、ノックはしても入室の許可は待たない。

「空、連日で悪いが、絵を返しに行くぞ」

 一週間近くも寝ずに動いていれば、さすがの空でも疲れるのか、空は、下に箱の付いた柔らかい板の上で寝具に包まっていた。体を起こしながら不思議そうに問う。

「まだ行っていなかったのですか?」

 朝木は、普段の仕事はほぼ空に任せているが、そもそも空を今のように動けるように育てたのは朝木だ。空にできることが朝木にできないはずがない。

 だから、いくら空が働き詰めだったとしても、依頼で取ったものをわざわざ長期間手元に置いておくような危険な真似はしない。

 そんな朝木が、これまで半月ほどの間所持し続けているというのはあまりに不自然なことだった。

「先方にもこちらにも予定があってな。それで、ようやく双方の予定が合ったので、急遽返却に行くことになったんだ。

 彼女には、空も会わせておきたいしな」

「私を、ですか?」

 いかに空と言えども、街で暮らしていくためには少なからず人と関わる必要がある。であるからこそ、依頼主とわざわざ親密になることほど危険なことはない。

「そうだ。あまり名は知られていないが、優秀な情報屋なんだ。他の情報屋の知らないことまで知っているしな。

 これから長い付き合いになるだろうから、挨拶も兼ねてだ」

「最近……珍しいことが多いですね」

 説明を聞いた空がぽつりと呟く。朝木も同意の苦笑いを浮かべるが、言葉を返すだけの内容はない。

「体が大丈夫なのであればすぐにでも行こう。今が一番関所を通りやすい」

「分かりました」

 日が傾いてそろそろ交代、という時が一番気が緩んで、関所を素通りして街道を通るのに適する。

 朝木が部屋を出て行くと、空は寝床の下の箱を引き出し、中の黒い服を取り出す。柔らかく衣擦れの音の少ない生地の上着と下履きだ。全体的に細身に作られている上、手首や足首はぎりぎりまで長く、細い襟も高く立って、露出が少ないようになっている。顔の光の反射を防ぐための薄布を肩にかけ、懐には黒い手袋と鋭く研いだ短刀を入れる。

 そしてその上に、ごく普通の娘が着ているような服を身につける。中に着ている黒い服が僅かに覗くが、レースがあしらわれてあって不自然はない。

 着替えを終えた空が部屋を出ると、同じような格好に着替えた朝木がすでに立って待っていた。

「お待たせして申し訳ございません」

 空はそう言って、頭を下げる。

 朝木は特に気にした様子もなく、行こう、と言うと玄関を出て歩き出した。

 空たちの家は、ごく普通の街の中にある、少し広いが他の家とあまり変わらない一般的な住居だ。だから、一歩家から出れば人目は避けられないが、人気のない場所に家を建てるよりは目立たずに済む。

 空が若い娘に見えるのを利用して、甘味を売っている小さな丸太小屋に入る。

「やあ。これから国境越え?」

 そう言って迎え入れる可愛らしい顔つきの男は、蘭国の情報屋の一人だ。

「ああ。(ひろ)、頼む」

「はいはい。お仕事、頑張れ」

 そう言う紘は、空を見て首をかしげた。

「空人はお疲れのようじゃないか。ほれ、これでも食べて精を付けて行きなよ」

 振り返った空に、紘は、栄養のある甘い木の実の汁と砂糖を混ぜて焼き締めた甘味を放った。軽く受け取った空は、微かに苦笑いを漏らしながらそれを口に入れる。苦笑いが微笑みに変化したとき、朝木が声をかけた。

「行くぞ」

「はい」

 そして、紘の背後にある店の台所の扉をくぐり、さらに勝手口から外に出た。

 紘の家は半分森の中に潜り込むように建てられていて、紘と朝木が協力関係にある今、よくそのことを利用する。

 空と朝木は、羽織っていた一般的な服を脱いで黒装束になる。着ていた服を、草と土で隠した箱の中に入れ、森の中へ駆け出した。

 音もなく駆け抜けて、国境付近に出ると、森が途切れる。

 国境の管理がしやすいようにと、伸ばした金属で作った簡易的な仕切りの付近を、すべて更地にしてあるのだった。

 そもそも、なぜ空たちがわざわざ国境をこそこそと越えなければいけないかというと、仕事の成果である絵だった。碧国の長の家の絵が盗まれて、その達しが出ている今、絵を小さくして懐に入る大きさにでもできない限り、絵を持って関を通るのは危険すぎるのだ。

 遠くから歩いて来るらしい交代の見張りと言葉を交わしているのを少し遠くに見ながら、空たちは仕切りの策を一足飛びに越えて、簡単に碧国に入った。そして、素早く草原に隠れるように姿勢を下げる。

 あまりに短い時間の出来事で、見張りたちは全く気がつかなかった。

 二人は、草原を駆け抜ける小さな獣のように、颯爽と駆けて街道近くに出た。樹齢が数百年ありそうな大きな倒木の影に、紘の家と同じように隠してある服を着て、何事もなかったかのように人のいない街道を歩き始めた。

 やがて、徐々に人や人家が増え、そのうちの、玄関に小さな絵の飾ってある家に、二人は入っていった。

のんびりお付き合いください。

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