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エンカウント/アルフィード《56-4不吉な占い結果》

「ミスティ、大丈夫かな? 何もされてなければいいけど」

 水晶玉の映像で見る限り、ミスティは元気そうだ。


 無事でいてくれたことを喜ぶ一方で、何もなかったことが不気味にも思える。


(ミスティちゃん、大丈夫? 変なことされなかった!?)


 フェデリコが俺とほぼ同じことを口に出した途端、自分が低俗で滑稽に思えてげんなりした。


「アル、しっかり。彼はギャラクスが魔王だって、知らないんだから」


 そうか、セレフィナの言葉で少し気分が持ち直す。


 対象が「聖都を全滅させた残忍な魔王」と、「単なる権力持ったオッサン」では前提が違うのだ。


(別になにも。飲み物持ってきたフットマンが、最低最悪だったこと以外は)


 ミスティの答えから推測するに、どうやらそこで働いている使用人が、彼女に失礼な態度を取ったらしい。


「宮廷の使用人だろ? 教育どうなってるんだ?」


 何をしたかは知らないが、宰相(さいしょう)の客に無礼を働くとは、宮廷の恥ではないのだろうか。

 それともミスティが庶民だと思って、馬鹿にしていたのだろうか。


 いっそのこと、そいつが王様の来客の前でヘマをしてくれないかと、意地の悪い願望が浮かぶ。


(ねえ占い師さん、あのアパルトマンどう思う?)


 ミスティがもう遠く離れたアパルトマンを指して、マクベスに言う。そういえばミスティ、占い師と話がしたいと言って、二人を連れ出していたが。


「ん? 話したいことって、アパルトマンの話?」


 てっきり占ってもらいたいのか、シュットガイストとどんなやり取りをしたのかを訊きたいのだと思っていた。


 するとイルゼが言う。

「やっぱり部屋で、何かあったんじゃない?」


「アンジェに何かされたんなら、『宰相をどう思うか』とかになるだろうし」


 水晶の中のマクベスの反応にも、戸惑いが見られた。

(どう……って)


(なんか不吉なものとか、いない? 実はギャラクスさんの部屋で、変なもの見ちゃって。もしできたら、その正体を占ってほしいの)


 一瞬映像の中心がフェデリコになり、それからミスティに戻る。


(ちなみにどんな?)

 無難な言い方を選んで、マクベスは探(さぐ)りを入れる。


(女の人の絵が飾ってあるんだけど。目が動いた……って言ったら信じる?)


 彼女の話から予想すると、どうやらあの覗き窓は、アンジェの部屋の絵画と繋がっていたようだ。


 マクベスが目を閉じたのか、数秒の間、水晶の中が真っ暗になる。


(その絵が関係あるかは分かりませんが、あのアパルトマンには国王様の重大な秘密が、隠れている気配を感じます。もう一度忠告しますが、二度とあのアパルトマン、いえ、この城に近付いてはいけません)


(できれば二度と、近付きたくないわね。あー、もう腹立つ!)


 ミスティがたぶん例の失礼な使用人のことであろう、プリプリと怒りを露(あらわ)にする。


(すごい荒れてるねぇ、何があったのさ?)


 フェデリコが尋ねると、ミスティの口からは具体的な無礼の数々が暴露された。


(ギャラクスさんの部屋にお茶出しに来たんだけど、品定めするみたいにジロジロ見てきたり、睨んできたりして。


ギャラクスさんが注意してくれて、謝ってはきたんだけど、嫌そうな態度を隠すことすらしないのよ。


あいつ、ベリオットのとこのフットマンらしいんだけど、メイドの女の子が王様の所に異動になったんですって。それを私のせいでベリオットが彼女をクビにしたって、思い込んでるらしくて)


 王様の部屋付きだなんて、栄転ではないだろうか。

 しかしまだミスティの不満は終わってはいなかった。


(それだけじゃないの。むしろ頭に来たのはその後! 


ギャラクスんさんとの話が終わって、ベリオットの部屋に行こうとしたら、そいつともう一人、同じベリオットの部屋のフットマンに呼び止められて


『お前みたいな下賤(げせん)な女は、ベリオット様に相応しくない。別れろ』って要求してきたのよ)


 聴いているだけで腹が立ってくる。

 またしてもフェデリコが、俺の気持ちを代弁するように言った。


(それ、ベリオット君に言った方が良かったんじゃない? それかさっき、宰相さんに言えばよかったじゃん。主人の客にそんな態度取るとか、あり得ん) 


 続いてゴーフルも

「オイラだったら即チクる。『使用人にどんな教育してんだ』って」


 俺はシュットガイストの部屋付きのフットマンと、そいつらの情報を心に刻んだ。


(本当はベリオットの部屋に行って、慰めてもらいたかったけど。絶対に彼がドン引きするくらいに、悪口と苦情言いまくる予感しかしないから行くのやめたの)


 するとフェデリコは片目を眇(すが)めて、すごく悪い笑いを浮かべた。


(部屋は目と鼻の先だったんでしょ? 帰るにしても一度ベリオット君に会って、当てつけに奴らの目の前でチューでもしてやりゃよかったのに)

(やればよかったかも)


 フットマンの言い草には腹が立つが、ミスティにも非がある。

 夜遅くに男に会いに行くなんてするからだと、心の中で毒づいた。


(訪ねてきた彼女追い返すとか、俺がベリオット君だったら怒るしクビにするね)

(災難でしたね。ところで僕、呪いも扱っていますが)


 相槌(あいづち)を打ったり、一緒になってプリプリ怒ったりするフェデリコに対して、ほとんど反応しないと思っていたマクベスだったが、しっかりムカついていたようだ。


「呪いか。いくらでやってくれるんだろう」

 俺も興味が出てきて、財布の中を覗いてしまう。


 ミスティのシュットガイストとの交際には大反対だが、男二人がかりで女の子一人を罵倒、しかも「下賤」だなんて相手の背景を馬鹿にするような連中は、呪われてしまえばいい。


(ところで宰相の部屋に、何の用事だったの?)

 フェデリコの言葉で、頭が当初の目的に戻る。使用人の件がムカつきすぎて忘れていたが。


(ヒミツ)

 残念ながら、ミスティは用事の内容までは言わなかった。


(えー、怪しい)

 フェデリコの意地の悪い、ニヤニヤ笑いに虫唾(むしず)が走る。


(だってあなた、宮廷の人のネタを狙ってここに来たんでしょ? ギャラクスさん怒ってるっぽかったから、強引に連れ出したのよ)


 フェデリコの信用のなさのせいか、アンジェの矛先はマクベスだということにまで、彼女は気付いていないが、あの場から連れ出してくれたのはありがたい。


(そうだったの!? あ、ありがと。でも俺改心したんだからさ。嘘書いたり、知られたくない話をばら撒いたりなんかしないって。信じてよ)


 フェデリコはいたって真剣なようだが。

 これほど真摯(しんし)で、しかし説得力のない「信じてよ!」があるだろうか。


 彼女の中の「秘密」よりも、追及を止めてもらう方を選んだらしく、渋々ミスティは白状した。


(じゃあ言うけど、養子縁組の打診があったの。ギャラクスさん、亡くなった父親の親友だったらしくてね)


 最初に心配していた「変なこと」とは違ったが、好ましくはないのには変わりない。


「親父さんよお、友達は選べよな」

 ゴーフルが舌打ちする。


「アンジェの奴、前にも養子縁組の打診をして断られたのに」


「まずいわね。ミスティさんはなんて返事したのかしら?」

 セレフィナも眉間に皺を寄せて、水晶を凝視した。


(ルベオルスは、縁組してないんですよね?)


 マクベスが言った。配下だとばかり思っていたけれど、だけどアンジェに殺されそうだった俺達やユングを逃がそうとしたり、奴の意向を無視したりするところから、信頼関係はそこまでないのかも。


(兄はギャラクスさんと出会った頃には、別の人の籍に入ってたから断ったみたい。その人も、亡くなったみたいだけど)


(宰相と盗賊狩りのサフォーが養子縁組、ねえ。それまた売れそうな)


 フェデリコの呟きに対して、イルゼが「いい加減にしろよ、コイツ」とちょっとキレ気味に言う。


 するとミスティはバッグから紙を取り出す。

 一瞬、マリエラ王女の似顔絵(多分彼女に関するビラなのだろう)が見えたが、その裏面の白い部分に、みるみるうちに映像が浮かび上がる。


(もし変なこと言いふらしたら、この念写を大量にばら撒くからね)


 ミスティが作ったらしいそれは、雑誌の表紙を飾る王様の顔写真に、フェデリコが煙草の火を押し付けるという偽写真った。


「なんだ、あれ?」

 俺が言うと、マクベスが解説を返してくれる。


(念写です。カメラなしで見たものを映像にできるんですが。彼女は頭に思い浮かべたものなら、どんな映像でも作り出せるみたいですね)


 そんな能力を、ミスティはいつ持ったのだろう。


(もし勝手にネタにしたら、この偽写真いっぱい作って大量にばら撒くからね)


(これはこれは。バラ撒きでもしたら処刑待ったなしですね)


 マクベスが笑っている。


 セレフィナがこの偽写真に盛り込まれた「真実味」を指摘した。

「この偽写真、何がタチ悪いかって。この王様が表紙の雑誌、実際に先週発売されていたものよ」


「あと写ってるこの銘柄、流行ってるみたいでさ、若いのからじいさんまで吸ってんだよな。いやー、程よく本当が盛り込まれてて、怖いわホント」

 そしてゴーフルの言葉で、偽写真に写っている双頭の獅子が描かれたパッケージの煙草までが、実在していると判明。


(おいおいおい、そりゃ困るって……念写の悪用しちゃダメだよ)


 青ざめるがフェデリコだが、ミスティの念写そのものについては驚いたりする様子はない。まるで知っていたみたいに。


(あなただって、カメラとペンを悪用してたじゃない)


 さて、脅しを終えるとミスティは、手の平の上に小さな炎を召喚し、偽写真を処分した。


(もしよかったら送りましょうか。女性の一人歩きは危ないですよ)


 マクベスが申し出るも、ミスティは断った。


(ううん、大丈夫よ。私の住んでるとこすぐ近くだし、道も全然明るくて人通りもいっぱいあるから。でもありがと)

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