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ユーリン学園へ入学!

 ついにやってきた入学式。

 石造りの校門を通り抜けると、小鳥がさえずる桜並木がまっすぐに伸びている。

 白いブレザーに袖を通し、ひらひらと花びらが舞い落ちる桜並木を歩くと、まるで学園そのものが新入生を祝福しているようだった。


 ここ、ユーリン学園はヴェルサイム王国で最も格式高い学園であり、ゲーム本編のメイン舞台。


 新入生全員が集められた広場の壇上には、代わる代わる教師陣が入学の挨拶をしている。

 これから三年間ユーリン学園の生徒としてどうあるべきか、そんなありがたいお話が続いているけれど、わたしはそれどころじゃなくて!

 

 ちらりと斜め奥の方へ視線を向けると、タイミングよくアイラちゃんもわたしを見つめて、お互いにさっと顔を逸らした。もう何度目だろう。彼女とこれを繰り返すのは。



(ど、どうしてこうなった!)


 ありえない、ありえないっ!

 在学中は絶っっっ対に関わらないと決めていたヒロインちゃんと、入学前にチューしちゃったなんて!

 もういっそのこと誰かわたしを殺してくれ! 

 熱くなって顔面から火を噴きそうなんだが!


 唇に触れるとじんわりと耳が熱くなる。

 初めてのキスだった。

 ニアちゃんのほっぺにチューとかはしていたけれど、唇を初めてで……。


(はあ、こんなのってないよ……何年も計画を立てて目立たないようにしようと思っていたのに)


 不慮の事故で全てご破算じゃん。

 いえでも、あれは彼女にとっても恥ずべき黒歴史。

 逆に近づいて来なくなる可能性もなきにしもあらず?

 そう期待するしかないよね。


 動揺が悟られないようにキリっと目に力を込めて、平常心を顔に張り付けると、新入生代表の挨拶をしている金髪長身の甘いマスクをした美麗な青年がこちらを向いた。

 ヴェルサイム王国第二王子・シャルル殿下だ。

 

 久しぶりに再会した彼はゲームの風貌そのまま。

 カールしたゆるふわな金髪。スラっとした長い四肢。通った湖畔のようなブルーの瞳。

 すると、彼は小さくウィンクを飛ばした。

 途端に周囲の女子から黄色い歓声があがる。


「きゃー、シャルル殿下のウィンクよ!」

「誰に向けたものかしら!」

「もしかして、気になるお方がいるんじゃないの!」


 へー、ボッチ王子もついにお友達ができたのね。よかったじゃん。

 まあ、モブであるわたしには関係ないことよ。

 一時期はなぜかわたしと仲良くしようとしていた彼だけど、数年前に会ったのを最後に連絡が途絶えてそれっきり。たぶん興味を失って、わたしのことなんか忘れてるんじゃないかな。


 だから、あのウィンクも近くにいる誰かにしたものだろう。

 心の中で合掌する。


(南無南無、今後もどうか距離を置いてくれますように)


 幸いにもアイラちゃんと主要男性キャラとクラスが違うのは、原作知識で知っている

 こちらから接近しなければ大丈夫だろう。




 あー、胃がキリキリと痛む。

 ストレスで死ぬー。

 最初の授業を終えたばかりなのに、アイラちゃんのことが頭に浮かんで何も手が付かない。

 胃を抑えながら、移動教室で廊下をとぼとぼ歩いていると周囲がざわめき、顔をあげると女子生徒がモーセの海割りみたいにぱっかーんと道をあけていく。


「キャッ、学園の三英傑がお見えだわ!」

「入学式でもお美しかったけれど、近くでみるとさらに、ほっ」


 なんだなんだぁ、と目を細めれば眩い輝きを放つ男子がこちらに歩いてきた。


(あ、なんだシャルル殿下か)


 しかも、背後に二人の取り巻きを引き連れている。 

 細身の小柄な青髪の少年は、宮廷筆頭魔術師エリーナ・デイル伯爵家の子息、ウィス・デイル君。

 筋骨隆々で長身の赤髪男は、騎士団長ウィル・ハーバーン伯爵家の子息、ダーイン・ハーバン君。

 どちらもアイラちゃんの逆ハーレム要員で、わたしを凌辱エンドへと導く人達がそろい踏み。


(こっわ)


 運悪く隣のクラスとの移動タイミングが被ったのかも。

 周囲の人達は彼らに見惚れているけど、わたしはこれっぽちの興味もわかない。

 すると、シャルル殿下がシミひとつない白い歯を輝かせて手をあげた。


「やあ、久しぶりだね、我が心の友よ」


 頬を掻いた彼が顔を赤らめる。


「そのずいぶんと見違えたね……あ、いや違うんだ。変な意味じゃなくて、君はずっと綺麗だったけどより洗練された美しさになったと言いたくて」


 うわ、廊下のど真ん中で邪魔だなぁー。

 しかも心の友って……いつの間にそんな人できたわけ。

 まあ、一ミリも関係のないわたしはすたすたと隙間を縫うように隣を横切っていく。


 シャルル殿下達を追い越したところで、わたしは先程までの喧噪がないことに気が付いた。

 あれ、なんかあったのだろうか。

 振り返ると、目に映る全ての人がわたしを凝視していて


 ……え、なに。


 呆然とするシャルル殿下が間抜けな顔であんぐりと口を開けて固まっていた。


「な、なぜ無視するんだい……」


 きょとんと瞼を瞬いたわたしは、自分の顔を指さす。

 

「わたしですか?」

「君以外いるわけないだろ!」

「はぁ……」


 何言ってんだコイツ?


「あの、人違いですわ」

「えっと……はい? 僕が君を見間違えるなんてありえない」

「いやいや、だってわたし殿下の心の友どころか、友達ですらございませんから」

「!?」


 久しぶりに会ったと思ったら、何を言い出すんだか。

 何年も連絡すらしていないのに、友達って……。

 そもそも、わたしが友達になるって言ったのは3分間限定の話だし、

 

 まったく気まぐれで声をかけないでほしい。

 殿下は無駄に目立つから、モブのわたしまで注目されちゃったじゃん。


「もう行っていいでしょうか。時間がもったいないので」


 はやくこの場を離れて影を薄めないと。

 しかし、そうつぶやくと、ピシリと空気が真冬のように冷たく静まり返った。

 あれ、どうしたのみんな?


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シャルル王子。「僕が君を見間違えるなんてありえない」と、言い切りましたね? 言い切りましたね? 言い切りましたね? では精霊さん達に頼んで幻覚の魔法をかけてもらいましょう。 シャルル王子にだけ見える幻…
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