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【第4章】インフルエンサー

 Artifact Alphaの出現以来、様々な偽情報、陰謀論が飛び交った。


 これは全て政府の陰謀であり、国民を洗脳し統制するための茶番劇だ、というものから、カビの生えたような予言を引っ張り出してきて、自分がこの事態を乗り越え人類に君臨すべき存在であると主張するカルト教祖、特定の集団を攻撃するために、「奴らはエイリアンと繋がっている」といったデマまで、刺激的な情報には事欠かなかった。


 様々な行事が中止され、放送がArtifact Alpha関連の番組で埋め尽くされたことも、人々のSNS熱に拍車をかけた。


 人々は全てを疑い、不安と怒りの感情につき動かされ冷静な判断ができない状態だった。

 麗もまたそのような状況に心を痛めている一人だった。


 そんな中、日本の地方都市N市にある麗の自宅を内閣府の二名の職員が訪れた。麗は戸惑いながらも二人をリビングに通した。


 二人は麗に名刺を渡しながら自己紹介した。

「はじめまして、青山さん。かねがねご活躍は伺っています。私は内閣府の中森、彼は白井と申します。今回の事案にあたり、防災広報を担当しています」

「はじめまして。政府の方が、私にどのようなご用でしょうか」


 インフルエンサーといっても、政治系の話題ではなく日常の話題が中心の麗にとって、政府関係者とは最も遠い存在の一つであった。


 中森が切り出した。

「単刀直入に申します。今、世界は崩壊の危機にあります。物理的な破壊ではなく、信頼の破壊です。人々がお互いを疑い、攻撃し始めている。この状況を、なんとかしたいのです。人々に、お互いを信じられるような"声"を届けてほしいのです」


 あの日、翔平から入った「ちょっと変なデータが出た」というメッセージ。

 まさかここまでの大事のきっかけとは夢にも思っていなかった。

「わかりました。私は何を発信すればよいのですか?」

 麗は、政府はすでに広報案を用意しているのだろうと思って尋ねた。アナウンサーの経験はないが、精一杯頑張ろう。


 それを打ち消すように白井が口を開いた。

「いえ。青山さん、あなたのメッセージが受け入れられているのは、それがあなた自身から出た言葉だからです。だから、あなた自身の言葉で、落ち着きと信頼を呼び掛けてほしいのです」

「……わかりました。私自身の言葉で、国民のみなさんに向けて語りかけます」

「よろしくお願いします。それで、今回の契約と報酬については」

 中森が書類を取り出しながら事務的に続けようとしたが、麗がそれを遮る。

「報酬は不要です。私は、私の意思で、私の言葉で伝えます」


 全人類が息を潜めて待ち構える中、Artifact Alphaは月の外側で地球を周回する軌道に入り、地球から約45万km離れたラグランジュ点L2に占位した。


 非武装の無人探査機が3機打ち上げられ、Artifact Alphaに向かったがいずれも月軌道を越えたあたりで通信が途絶した。


 そして誰もが恐れていた事態が発生した。


 Artifact Alphaから全長500mの物体が分離した。Lander X1と名付けられたその物体は、まっすぐに地球に向かうと赤道軌道に乗り、大気圏に突入した。


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