【第5章】 捕食者
Lander X1、通称LX1が大気圏への突入を開始したとき、真っ先に反応したのが米軍だった。
カリブ海に展開したアーレイ・バーク級ミサイル巡洋艦クパチーノのCICは緊迫した空気に包まれていた。
「ターゲット、大気圏突入を確認。高度120km、速度マッハ22」
「ペンタゴンからのクリアランスは?」艦長のコーエン大佐が問う。オペレータが応えた。
「コード、"Holly Orbit"。発射許可出ました!」
「高高度迎撃、SM-3ブロックIII、2斉射、ターゲットLX1」
「発射!」
コーエン艦長の命令と共に発射ボタンが押し込まれ、弾道ミサイル迎撃用のSM-3ミサイルが発射された。
ロケットの噴煙を空中に残して一気に天空に駆け上がる。ミサイルは成層圏を突破して大気圏突入中のLX1に向かった。
「命中まであと10秒」CICの軍人たちが息をのんでモニターを見つめる。高速の運動エネルギー弾頭が、大気圏突入中で不安定なLX1を粉砕する。誰もがそう信じて疑わなかった。
「3、2、1、」
ミサイルが消えた。
「ミサイル命中せず。LX1、降下を継続」
LX1は何事もなかったかのように赤道に沿って降下を続け、地球を半周したところで東アジアと中東、欧州を結ぶ要衝に位置する、アリエス連合王国第二の都市、サフィラ市に降下した。
サフィラ市では、LX1の接近を受け避難命令が発せられ、多くの市民が市外に向け脱出しようとして阿鼻叫喚の状況を呈していた。
アリエス陸軍総司令官、ガイア・サンボック将軍は市の外縁で避難民の誘導を指揮していた。
「閣下、米軍の迎撃は失敗。LX1、あと3分でサフィラ上空に到達」
ふいに周囲が暗くなった。LX1は地上に大きな影を落としながら、市の中心部から少し離れたハイテクパークに向かい、文明の象徴であるガラス張りのオフィスビルにのしかかるような形で接地した。
「くるぞ、衝撃に備えろ」サンボックはその場で足を踏ん張った。
全長500mの着陸船にのしかかられ、ビルは豆腐のように押しつぶされた。
轟音とともに瓦礫と砂塵が舞い上がり、周囲のビルを巻き込んでいく。LX1はいくつかのビルを腹の下に敷いた形で停止した。
「装甲車を出せ!逃げ遅れがいるかもしれん。強行偵察だ」
「こちらリーコンワン、偵察ポイント到着。ここからLX1が見える」
8輪の装甲戦闘車が慎重に着陸点に向かって接近していった。ペリスコープから車外を観測していた車長は、驚くべき光景を目にした。
「おい、ビルが・・・ビルが食われている!」
LX1のハッチから多数のアームが伸び、ガラス、オフィスの電子機器、金属製品、配線といったものをビルの残骸から引きずり出してはLX1の内部に取り込んでいた。それはあたかも、獲物に取り付いた捕食者が、内臓や肉を貪るかの如き姿だった。
装甲戦闘車はその場に留まり、逃げ遅れた市民がいないか捜索を開始した。
その時、LX1から地球のドローンに似た飛行体が吐き出された。
「撤収、撤収だ!」
慌てて方向転換し退却を開始する。
飛行体は退却する装甲戦闘車から付かず離れずの距離で追尾してきた。
「隊長、ドローンもどきが追ってきます」
攻撃してくる様子はないが、かといってこのまま本隊の場所を教えることはできない。車長から無線通信が飛んだ。
「こちらリーコンワン、謎の飛行物体に追尾されている。このままでは本隊と合流できない。対処願う」
「リーコンワン、了解。そのまま進め。歓迎の準備はできている」
装甲戦闘車は飛行体を引き連れたままゆっくりと後退した。
カーブを曲がった先に高射砲隊が待ち構えていた。指揮官が命じた。
「目標、未確認飛行体。全門発射!」
轟音とともに高射機関砲が発射された。オレンジ色の光を曳いた曳光弾が飛行体を直撃。飛行体は機体の半分を吹き飛ばされ地面に落下した。
人類のささやかな勝利だった。
「工兵隊、回収に向かえ」
NRBC防護服を着用した工兵隊員たちが飛行体の残骸を回収し後送する。
小型の飛行体を撃墜、残骸を入手したとのサンボック将軍から報告は驚きを持って受け止められた。
首都バルカスに届けられた残骸はいくつかに分けられ、一つはアリエス国立大学へ分析のために送られ、残りは米国ほか同盟国に送られた。
科学者たちの眠らない戦いが始まった。




