家族に向けて
本編最後のお話です。
離れの扉を叩く。
中からは、初めて会った時よりも綺麗になった少女が出てきた。
「あれ、ナギ様?」
ナギは少女に目線を合わせ、震える手で少女の手を握る。
「どうしたの?」
少女は、不思議そうにナギを見つめる。
「君の、名前が決まったよ」
ナギは後ろを振り返り、アサを呼ぶ。
「だれ?」
「君の…」
ナギは遠慮がちに言葉を発する。
「お母さんになる人だ…」
「おかあさん?」
少女はきょとんとしたまま、アサの顔を見る。
まるで、お母さんという概念そのものを知らないように。
「貴方の名前を考えてきたのよ」
アサはにこりと微笑む。
安心させてあげたいのだろう、その顔はまさに母親のように見える。
「貴方の名前は…ルミナ」
「るみな…」
歯が抜けており、まだ舌っ足らずな口で反芻する。
だんだんとルミナの口元が緩んでいき、ニコニコと太陽のような笑顔を見せた。
「るみなぁ!」
ナギとアサはその様子を見て、顔を見合わせた。
ナギはルミナへ向き直り、その手を握ったまま、安心したようにルミナの頭を撫でる。
アサはというと、ルミナを見ながらポロポロと涙が溢れていた。
ナギとルミナはギョッとしながら、アサに近づく。
「ど、どうした」
「大丈夫?…お母さん?」
お母さんと呼ばれたアサは、ビクッと身体を揺らす。
近づいて来たルミナをギュッと抱きしめ、声を殺して泣く。
ナギはその光景を見て、苦しそうな顔をした。
今までルミナを放置してきたこと、アサと向き合ってこなかったこと、出会いさえも…全てをナギは後悔した。
ルミナに対し、イコの亡霊を投影していたことについて、アサを契約だからと関わりを持たなかったことについて…
「今まで、すまなかった」
ナギはルミナとアサに頭を下げる。
ルミナはオロオロとし、なぜ謝られたのかさえも分かっていないようだった。
「ナギ様…私こそ申し訳ありませんでした」
アサはルミナを抱きしめながら、ナギの頭を撫でた。
ゆっくりと、大丈夫だと伝えるように…。
ようやく1つの家族としてまとまった彼らは、これからどうなっていくのだろうか。
しばらく経ち、アヒリビス家ではルミナの笑い声が響くようになった。
ナギは相変わらず不器用なようだが、アサと相談しながらルミナに勉学や礼儀を教え、父親としての顔が現れている。
愛などない契約家族であったナギとアサも、ルミナという愛らしい子どものお陰で、いつの間にか深い愛情へと変化していった。
長かったナギの長髪もバッサリと切られており、イコへの執着も消えたようだった。
ルミナとアサはイキイキとした瞳で、ナギと共に過ごしていくだろう。
その出会いは偶然か、必然か…そんなものは、彼らの前では無粋でしょう。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
この物語の本編は、以上で終わりになります!
ここからは番外編…過去編などなど、何故このような行動をしたのかが判明するかなと思いますので、ブクマなどで応援してくださると嬉しいです。




