1話 限界ダンジョン
迷宮都市カナリヤ。多くの旅人や冒険者、商人達で賑わうその地下には「ダンジョン」と呼ばれる巨大な迷宮が広がっていた。
そのダンジョンは100年ほど前、カナリヤの地下で発見された。何故こんな場所にあるのか、そもそもダンジョンとはなんなのか。それは未だに分かってない。その上内部には未知の生物、モンスターが多数多種類生息しているときた。
そのことから当時の人々はダンジョンを大層不気味がった。
しかし!そのダンジョンは人類に多くの恩恵をもたらした!内部にはモンスターの他に新種の植物や鉱物、また「アーティファクト」と呼ばれる未知の技術が使われた道具などが多数存在していた。
それらの資源はどれも有用なもので非常に需要があり、それを採取するために危険を省みずダンジョンに潜る人々が現れた。
人々はそんな彼らを「冒険者」と呼んだ。この冒険者は100年経った今で職業として存在している。
彼らは新たな宝や発見を求め今日もダンジョンの奥深くに進む。
そう、世はまさに!大冒険時代!
そして俺、クロウドも冒険者として仲間とパーティを組みダンジョンを進み続け、なんと深度960メートル。地下八層に到達した!八層まで到達できたパーティは歴史上二組目。非常に快挙なことなのだ!
「さっきから何ブツブツ言ってんの?」
こんっ、と俺の頭をチョップしたのは俺の幼馴染で同じパーティの女剣士であるカナンだ。真っ赤なロングヘアがトレードマークだ。
「いや、あまりに感激しちゃってな」
そう言ったらカナンは呆れたようにふっと笑った。
「気持ちはわかるけどね。でも帰るまでがダンジョン何だから油断しちゃダメよ」
オレ、魔法使いのユーク、学者のダルト、そしてリーダーのカナンで組んだパーティでオレ達は前述した通りダンジョンの地下第八層まで到達した。
しかし、ユークの怪我や食糧不足などの事情で地上へ帰還することになったのだ。
「本当にごめんな」
ユークが申し訳無さそうに謝る。足は怪我をしており患部を毒が蝕んでいる。
「辛気臭いから謝らないで。別にまたくればいいでしょ」
「......うん!そうだね!」
カナンの無神経さは時にパーティの空気を明るくする。まあ大抵マイナスに働くのだが。
「そんじゃあさっさと帰るか!」
そう言ってダルトは青く光る石、転送石を取り出す。転送石とはダンジョンで発見されたアーティファクトの一つだ。魔力を込めて使用することで大体周囲1メートル以内の人間ごとダンジョンの入り口まで転送するという優れものだ。また、繰り返し使用することもできる。
「じゃあ使うぞ」
ダルトが手に持ち魔力を込めることで微弱だった青い光が強くなり周囲が照らされる。この状態で5分ほど待てば転送される。
「帰ったらまずは病院だな」
「それは僕1人で行けるからみんなはギルドに向かって大丈夫だ」
「怪我人1人にはできないでしょ。誰かは付き添わなきゃ」
転送開始まで後30秒ほど。はっきり言うと俺達の気は緩んでいた。それも仕方はないだろう。ダンジョンの奥深くということでずっと気を張っていたし全員疲労も溜まっていた。もう少しで帰還から油断したのも無理はなかったんだ。
ただその油断が命取りとなった。
おそらく転送石の光に反応したのだろう。天井に張り付いて暗闇と同化していた、成人男性と同じ程度の大きさはある蛾のようなモンスターがこちらに猛スピードで飛んできた。それに気がついたのは俺の後ろ、もう背中にぶつかるという所まで近づいていた時だった。
「クロウド、危ない!」
カナンがそう叫ぶも手遅れだった。
モンスターの存在に気がつき振り返るも遅い。モンスターが俺の腹に激突し、近くにあった岩のそばまで吹き飛ばされた。
硬い土の地面に激突する。腹と背中の痛みに悶絶しそうになるがそれどころではない。俺に激突した後、そのまま上に飛んだモンスターが追撃しに再び俺の方へ飛んでくる。
...だが一流の冒険者である俺はこの程度のことでは慌てない。状況を冷静に分析する。
あのモンスターの特徴的な大きい目、体に対して異常に大きい羽、蛾のような見た目。モンスター図鑑で見たことがある。あれは『ビッグモース』というモンスターだ。
図鑑によるとビッグモースは基本的に大した危険性はない。精々猛スピードの体当たりが痛いくらいだが、ビッグモースに冒険者が殺されたという事例はない。
...ならば。結論を出した。腰の後ろにかけてあるナイフに手をかける。そんなことにはお構いなしと言わんが如くビッグモースはコチラに猛スピードで突っ込んでくる。俺はそれを再びまともに腹にくらった。鈍痛が走り鳥肌が立つ。...だが、これでいい。
痛いだけなら耐えればいいのだ。
腹に突っ込んだビッグモースを左腕で抱き抱え身動きを封じたところを右腕で頭にナイフを突き立てる。
脳をナイフで突かれたビッグモースは一瞬痙攣しその動きを止めた。
この一連の戦闘の所要時間およそ6秒といった所だろう。エレガント。
自分の手際の良さに自分で感動し余韻に浸る。そうしているとカナンの声が響いた。
「クロウド!早く!」
カナンの方を見るとみんなが青い光に包まれていた。もう転送が始まる直前だった。
やべ...!冷や汗が額に浮かんだのが分かった。咄嗟に立ち上がってみんなの方へ走る。転送まで後数秒もないだろう。本当にギリギリだ。0.1秒も無駄を出すわけにはいかない。
そう分かってたのに。先程の戦闘のダメージは思っていたより重かったようだ。後一歩というところで少しよろけてバランスを崩した。
カナンが手を伸ばす。俺も手を倒れながらも手を伸ばす。
あと少しで2つの手が触れる。石一つ分。板一枚分。髪一本分...そこでカナンの手は光に呑まれ消えた。思い切り顔から倒れた。
辺りがしんと静まり返る。
あえて起き上がらずに、現実を見なくて済むように倒れたまま考える。俺は一流の冒険者だ。エレガントだ。この程度のことで慌てたりはしない。
まず俺はダンジョンの第八層に置いて行かれた。ここはかなりの深さで強力なモンスターがウヨウヨいる。勿論転送石は持っていない。高いんだよ転送石。
八層での救助は望めないだろう。ギルドの冒険者救助はこんな深くまできてくれないし仲間のみんなも俺なしでここまでくるのは難しい。
そして持っている食料は水がちょっと。
...うん、ただそれだけのことだ。ただちょっと生還するのが絶望的ってだけの話だ。
......。
............。
「どうしよ〜」
ただ絶望に打ちひしがれて倒れたまま手足をバタバタと動かした。
こうして俺の限界ギリギリの冒険が始まった。
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