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〔6〕

とりあえず、約束したらしいので買い物へ行くことにする。

酔って覚えてなくても約束は約束だし、仕方ない。

それに食料の買い出しには行かないとだし。

「どうして一週間も経ってるのに何もないんだ?」

「えっと…締め切りが迫ってて、その、事務所から出られなかったんです…」

なるほど。しばらく見かけてないと思ってたけど、そういうことか。

もともと現れるパターンが予想できなくて、学生じゃなさそうだし、かといって主婦とかには見えないし、一体こいつ働いてるのか?とか思ってたんだけど、自由業ってヤツだったとはね。しかも有名なデザイナーって、想像できるかよ、あんな格好なのに。

しかし、まさかこいつを隣に乗せることになるとは…。

ミラー越しに助手席のヲタ子をチラ見する。

絶対にメイド服は連れて歩きたくないので、普通の格好をしろと言ったら「着替えがない」ときた。

藍希がそう言ったからって、冗談抜きでメイド服のまま来たらしい。…流行りの格好で通せるのか? メイド服って? つぅか、どうして手ぶらで来られるんだ?

そんな、俺には理解できないことは放置して、とりあえず買ったり貰ったりしたけど着ないまま放置してた服を「好きにしていい」と言ったら、驚いたことにトレーナーがスカートになり、ちょっと手を入れただけでTシャツも綿シャツも見違えた。

「すげぇな」

流石はデザイナーってだけはあると、思わず感心した。

「え、…ありがとうございます」

嬉しそうに微笑んだヲタ子にドキッとしたのはなんだったんだろうな…。

特に会話もなく目的のショッピングモールまでは10分程度。

すんなり地下駐車場に入って車から降りたところで「…すみません…」と声をかけられた。

振り向くと、どうやら今のは謝罪の方だったらしい。このタイミングで何を謝られてるんだろうな?

「何が?」

「…あの、お休みなのに、時間をとらせてしまって…。それに、あたしになんて構いたくないのに、ホントにすみません…」

んー? なんだか引っかかる言い方だよな。

確かに構いたくはない。そこは否定しない。でもそれはラウンドでの話で、だいたい買い物に連れて行くってのは構うってのと種類が違うと思うんだけどな。

あれ? もしかして、俺のことわかってるのか?

…いや、そんな訳ないか。

藍希がしゃべるはずないし、スタッフの中に仲間がいたら藍希は仲良くならないし、な…。

わかってる訳ないか。

俺の沈黙をどう解釈したのか、ヲタ子が「やっぱり他を探します」と言い出した。

「…じゃぁ、この先のアウトレットに行くか?」

「は?」

「あとは、藍希に付き合わされて行ったなんとかポートってのしかお前の買い物ができそうなとこは知らないんだよな」

「あの、そうじゃなくて、その…」

「わかってるよ」

どうして追い出すチャンスを自分で潰してるんだろうな、俺は。

「アテがあるんならそうしろよ」

モールの入口に向かう俺の後を小走りの足音が追いかけてきた。

左後方45度、俺の死角がヲタ子の定位置。

「…ありがとうございます」

大きく振り向かないと視界に入らない。

「お前、俺の死角に立つな」

「はい?」

キッチリ1メートル離れて立ち止まるヲタ子がキョトンと首を傾げる。

「見えないんだよ、そこは。二歩、いや三歩前に出ろ」

「はい…」

ビミョーに小さい歩幅で三歩進んでくると、なんとかちょい後ろくらいな位置になる。で、その間隔を絶対に崩さないってのは、ある種の特技だと思う。

そのまま女性向けのフロアへ行って、急に振り向く。もちろん、わざと。

でも俺の行動を予測してたみたいに、ピタッと立ち止まるんだよな、これが。ラウンドでも、ヲタ子にはぶつかられたことがない。

「で、どれくらいかかるんだ?」

「え?」

「お前の買い物だよ」

「あー、…そうですね…。1時間、くらい、かと…」

「1時間?」

「あ、長いですか? じゃぁ、30分で…」

「違う。本当に1時間でいいのか?」

「ええ、1時間あれば充分です」

「藍希でも3時間くらい待たされるから、もっとかかると思ってた」

「あぁ、アイちゃん。…時間かかりますよね…」

ビミョーに苦笑いするヲタ子に、つい「お前も被害者か」と声をかけてしまった。

「被害者っていうほどじゃありませんけど…」

「けど?」

「…映画を見に行ったのにお買い物だけで終わったり、ご飯に行ったつもりが何も食べられなかったり…」

「あー、藍希だな」

同じ目に何度も遇ってるから納得して、ヲタ子と頷きあってしまった。

藍希って、本当に自分に正直なやつだよな。またそれが許されるのが藍希なんだよ。時に羨ましくもあるけど、俺のキャラじゃぁないよな。

別行動で食品フロアへ降りてから気付いた。

材料は、飯を作るやつが買う方がいいよな。

なので空いた1時間、たまには直射日光でも浴びようと屋上へ上がってみたが、ドアを開けた瞬間に挫折。

プレイランドと可愛い装飾の施された看板の向こうには、ボールプールやバルーンスロープに小さな汽車や乗り物まであって、子どものはしゃぐ声が聞こえてくる。

いつからこんな遊具が置かれてるんだ?

奥の方にはアーケードゲームでもあるんだろう、電子音が響いてくる。

自販機の先にベンチが並んでいるのが見えるけど、親子連れしかいないとこへ、男が1人で入り込んでいくのはどうなんだろう。ウッカリ変質者に間違えられでもしたらかなわない。

結局、ショップをウロウロして予定より早く元のフロアへ戻ることになった。

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