告白ごっこ(信次目線)
「海里、素直に寝てるんだよ」
「信次、ありがとな」
「ん、お互い様だよ。気にしないで」
瀬尾家の皆様を、瀬尾家に再び連れて来た僕は、皆様の看病に追われていた。
海里と、海里のお母さんは高熱だったから、家からも氷枕を持って来て対処する。簡易的なのだと、すぐ溶けてしまうからだ。
1番症状が出てた海里から順に、看病をしているけど、皆様本当に怠そうで……。
「卵粥たべたら、薬飲むんだよ」
「おう、ありがとな。ゲホゲホ」
これで海里はよし、次は海里のお母さんだな。
後は氷枕を変えたり、ご飯食べれるかどうかの確認をしたりだな。
「海里のお母さん、ご飯食べれましたか?」
「ありがとね信ちゃん、ご飯は食べれたよ」
「では、薬置いとくので、飲んでくださいね」
「本当にすまないねえ」
「いえいえ。そろそろ氷枕も変えますね」
次は灯さん、海里のお父さん、縁ちゃんの順で、看病をしていこう。
1人での看病は心細いけど、頼れるのは僕自身だけ。焦らず、でも急いで看病しなくては。
兄貴も昨日は1人で、診察から看病までやってくれたんだから。
僕も、追いつく為に、絶対助ける。
「灯さん、ご飯食べれましたか?」
「うん、私は鼻と微熱だけだしね」
「良かった。薬置いておきますね」
「ありがとね。信ちゃんのお陰で、皆何とかなってるよ」
「いえいえ、当たり前の事ですから」
そんなやりとりを、灯さんとしていたら。
「うええええん。おかあさああああん」
「あ、縁が起きたか。母さん高熱だし、縁をこっちに連れて来て貰ってもいいかな?」
「解りました。縁ちゃーん!」
縁ちゃんは、瀬尾家のリビングに布団を敷いて寝かせていたんだけど、寂しくて起きちゃったみたい。すぐに灯さんの所に連れていかなきゃ。
「よしよし、もう寂しくないからね」
「信ちゃん、おかあさんは?」
「今寝てるから、お姉ちゃんのとこ行こうね」
「うん。おねえちゃんとねてる!」
「ご飯は食べれそう?」
「うめぼしおかゆさん」
「了解、作ってくるからね」
僕は縁ちゃんと縁ちゃんの布団を、灯さんの部屋まで運ぶ。
「あ、灯さん、縁ちゃんが梅干し粥を食べたいって言ってたんですけど」
「ああ、縁ね、しょっぱい梅干しじゃないと食べないのよ。冷蔵庫にあるやつで作って貰えるかな?」
「解りました。じゃあ作って来ますね」
しょっぱい梅干ししか食べないとか、縁ちゃん中々の通だな。何か僕を見てるみたい。
美味しいの作るから、待っててね。
おっと、お鍋がもうないか。先に洗い物だな。
家事どころじゃなかったろうしな、瀬尾家。
洗濯機もついでに回しておこう。
◇
「はい、縁ちゃん、うめぼしさんだよー」
「わーい、おかあさんのうめぼしすき!」
「あ、うちね、手作りなんだ。梅干し」
「いいですね。僕も来年作ってみようかな?」
「うち沢山作ってるから、お土産にどうぞ」
「じゃあ、帰りに頂きますね」
僕が梅干し粥を運ぶと、灯さんが慣れた手つきで、縁ちゃんの口に、梅干し粥を運ぶ。
縁ちゃんは、それが嬉しいのか、はにかみながら食べていた。かわいいね。
最後は遅くなったけど、海里のお父さんか。
卵粥と薬は置いといたけど、食べて飲んでるかな?
ああ良かった。完食してくれてるね。薬もパッケージだけが残っていた。
海里のお父さんは気持ちよさそうに寝ている。薬も効いて来たのかな? 良かった良かった。
あ、ちょうど洗濯機も終わったね。じゃあちょっくら干そうかな?
僕が洗濯物を洗濯かごにいれていると。
「あ、信ちゃんありがとね。私もやるよ」
「灯さん、寝てなくていいんですか?」
「微熱と鼻だけだから大丈夫だってば。いま縁も寝たとこだしね」
「じゃあ、一緒に干しましょうか」
灯さん、寝てればいいのに、僕を手伝ってくれるみたい。正直有難いけど。
特に下着とか、ちょっと照れ臭かったしね。
「ねえ、信ちゃん、勉強しなくていいの?」
「普段してるから大丈夫です。それより瀬尾家のが心配ですし」
「そっか。本当にありがとね」
「海里には世話になってるし、気にしないで下さい」
灯さん、僕の事を気にしてくれてたのか。
今、自分だって風邪ひいててそれどころじゃないはずなのに、優しいね。
「もうすぐクリスマスだね。我が家はクリスマス出来るのかなあ?」
「そうですね。何とかそれまで完治するといいですよね。僕も明日明後日と予定がありますが、看病には兄貴か僕が行くようにします」
「私だけでも治ればいいんだけど、まだちょい怠いんだよね」
「風邪ひいてる時に無理は良くないですよ」
確かに灯さんは、症状としては軽いんだけど、倦怠感が酷そうだからなあ。今も若干眠そうだし。
「ああ海里のバカ、家族全員に風邪うつすなだし!」
「しかも勉強してたらしいですもんね。寝れば良いのに」
「それよ、治す努力しなよだわ!」
そんな事を話しながら、洗濯物は無事干し終わった。
「ふー。終わった……ね」
「おおっと。灯さん、大丈夫ですか?」
「すー、すー」
「寝ちゃったのか。部屋まで運ぶか」
ほら、言わんこっちゃない。やっぱり大丈夫じゃないじゃない。
でも、手伝ってくれてありがとね、灯さん。
◇
「皆様寝てくれたか。海里以外は」
「風邪薬効いて、元気になったわ」
「バカ、治ってはないからね。緩和してるだけ。だから寝ろ!」
「ちぇー、寝てるだけなんて暇なんだよ」
全くバ海里は。1番風邪の症状が出ているのに、これだもんなあ。
こいつが素直に寝てれば、瀬尾家全滅は無かった説はあるね。
「僕ももうすぐバイトの時間だから、瀬尾家から病院に行くけどね」
「だよなー。ゲホゲホ、素直に寝とくか」
「ほら、また咳出て来た。ちゃんと寝るんだよ」
「おう、おやすみ、信次」
ふー、やっと寝てくれたか。瀬尾家には申し訳ないけど、小暮さんと話したいこともあるし、今日はバイト行かなきゃな。
これまでの事とか、それからの事とか、色々と、ね。
こうして、僕は一旦家に帰って、亜美の作ってくれたお弁当を持ってバイトに出掛けた。
今日のお昼もお弁当食べたけど、亜美、成長してるなあ。
美味しかったよ。ありがとね、亜美。
夜のお弁当も、楽しみにしているね。
僕が職場にいくと、拓実くんが笑いながら話し掛けてきた。
「しんじー、こくはくごっこしようぜ」
「こ、告白ごっこ?! なんだそりゃ」
「あのね、すきですっていいあって、てをつなぐの」
「そっか、じゃあ一緒にあそぼ」
告白、僕も間近に迫ってるんだよなあ。
女の人って、どんな言葉が嬉しいんだろう。
亜美と兄貴は人間としての付き合いが長すぎて、なんか重い気がするから参考になんないしなあ。
そんな事を考えてると、絵梨ちゃんが告白してくれる。
「すきです、てをつないでください」
「僕も好きだよ。手を繋ぐね」
「えり、すきだぜ。てぇ、つなぐぞ」
「わたしもすきだよ。てをつなごうね」
ありゃ? 拓実くんが真っ赤だ。さては、本当に絵梨ちゃんの事が好きなんだな。このマセガキめ。
拓実くんの想いは、まだ絵梨ちゃんには届いてないみたいだけど、いつか伝わるといいね。
そんな僕も、マセガキ2号として、のばらさんに告白をする訳なんだけど。
こうして僕達りす組さん達は、好きと手を繋ぐって事が溢れて、何だかとても幸せな気持ちになった。
告白の本当の意味を知ってる僕と拓実くん以外は、飽くまで遊びとして捉えてるみたいだね。
拓実くん、お互い頑張ろうな。
「りす組さん、ほんわかとしてるね」
「あ、小暮さん。なんか告白ごっこが流行ってるみたいで」
「そんな簡単に告白が成功したら、苦労しないのにね。私何連敗してるっけな。たはは」
小暮さんも苦労してらっしゃるんだなあ。あ、そうだ、今後の事話さなきゃ。
「あの、今後のバイトなんですが、受験が差し迫ってきたので、暫くお休みさせてください」
「ん、医学生になったらバイトの暇ないよ? お休みでいいの?」
「大事な事を、いつもこの子達から教わってて、その、まだ教わりたいなって」
「そっか。了解。大学合格して、戻って来なね」
「有難うございます。12月末までは働きます!」
「じゃあ、26日までかな。宜しくね」
大変になるのは解ってるんだけど、僕はまだこの子達から学ばなきゃ行けない事が沢山ある。
僕がやりたい事の糸口が、ここにはある気がするんだ。
「26日はしばしの別れ会をしなきゃね」
「ん?」
「つまり、26日ご飯食べにいこ! 奢るからさ」
「有難うございます」
小暮さんとご飯なんて初めてだなあ。
色々聞けるだろうし、楽しみにしておこっと。
「じゃあ、休憩行っといで」
「いってきまーす!」
京平「信次にモテ期が来たか?」
信次「あー。ないない。モテたことないもん」
亜美「私もこれ以上何も無いといいな。大変な事になってるし」