顔見知りの患者様
「「「いってきまーす」」」
私は3人同時に家を飛び出した。時間には余裕はあるものの、中々珍しいよね。
というのも、信次が海里くんの様子を見たいんだって。
学校遅刻覚悟で、看病もするつもりみたい。
昨日は京平が瀬尾家に行ったらしいけど、今日はどうなんだろうな?
「信次に風邪がうつらないといいけどな」
「明日は我が身なのにね」
「だから昨日は行かせなかったのに、あいつ優しいよな」
本当にそう、信次は優しい子なんだ。
人を中々信頼しないけど、信頼した人には本当に尽くしてくれている。
私も朝の家事慣れて来たし、信次にも朝は休んで貰おうかな。
そもそも受験生だもんね。
「亜美も朝はありがとな。お弁当も楽しみ」
「へへ、期待しててね!」
「期待して昼を待ってるな」
今日はシャワー浴びたかったから、4時に起きてたけど正解だったな。
信次が遅くまで起きてたって聞いてたし、だったらと思って、家事やっといて良かった。
お陰でお弁当も、めちゃ力入れたもんね!
早めに寝れば4時に起きれるし、これからもそうしようかな?
「じゃあ、また後でな」
「うん。お互い頑張ろーね!」
◇
「おはよー、蓮」
「おはよ、亜美」
内科に向かうと、蓮が朝からカルテの整理をしていた。
真面目だなあ。この後診察があるもんね。
京平も今日診察の日だから、カルテを整理してたけど、無茶苦茶早いもんなあ。
あ、もう終わったみたい。こっちにやって来た。
「おはよ、落合くん。診察は慣れて来たみたいだな」
「はい、患者様に安心して貰える診察を、って思ったら、慣れて来ました」
「それなら良かった。亜美からも聞いてるけど、頼もしくなったって言ってたからな」
「それは嬉しいぜ。亜美に認められて良かった」
「大体蓮と一緒だしね。成長してるなって思うよ」
蓮はここ最近、本当に頑張ってるもんね。
先まで読んで診察出来てるし、笑顔も患者様を安心させているし。私も頑張らなきゃだね。
「そういや、友が亜美を泣かせたって言ってたけど、何があったんだ?」
「ああ、ダメって言ってたのに、抱きしめられちゃって」
「ダメって言ってたもんな。辛かったよな。明日、大丈夫か?」
「うん、友くんとは友達で居たいって、私もちゃんと伝えなきゃだから」
今日は友くん中番だから、会えるのは早くて明日。いつ伝えられるかは解らないけれど、ちゃんと伝えなくちゃ。
「抱きしめて許されるのは、やっぱ深川先生だけか」
「後は、信次とのばらかな」
「あー、弟だし、同性だもんな」
「だから、蓮はダメだからね?」
「そんな真似しないから安心しろ」
と言いつつ、蓮はちょっとだけ悲しそうな顔をした。何でだろう?
隣で京平が、安心した顔をしてたけど。
◇
「今日は珍しく、また京平と一緒だね」
「のばらさんが患者様として来るからかな?」
「あ、今日はのばらの定期検診なんだね」
「ああ、午前診察で、その後中番入るらしいから、のばらさんも忙しいよな」
うわ、のばら休みじゃないのかあ。忙しいね。
無理しないといいけどなあ。
「だから、元気付けてあげなきゃな」
「うん、間違いないね」
私がのばらの力になれたらいいな。私が昨日、のばらに力を貰ったように。
「さ、今日も頑張ろうな。亜美」
「うん、任せて。30番の患者様、23番診察室までどうぞ」
すると、かなり見慣れた顔が目の前に現れた。
「あ、亜美に兄貴。海里達、熱下がんなかったから、解熱剤お願い」
「もう一度診察してみますね。先ずは、妹さん……縁さんから順に見ていきます」
瀬尾家の皆様が、信次と一緒にやってきた。
皆様、かなり怠そうな顔をしており、信次が1人ずつ肩を貸しながら病室まで連れて来ている。
京平もそれを見て、瀬尾家の皆様を運ぶお手伝いをする。
漸く全員揃った所で、診察が始まった。
縁ちゃんは5歳の女の子で、髪を上で2つ縛りにしている。お目目は海里くんそっくりでまんまるだ。
京平は内視鏡で、縁ちゃんの喉を確認する。
「まず、縁さんは風邪だね。熱も37度くらいだから、解熱剤は要りませんね。次海里くんね」
「ちっす。ゲホゲホ。昨日と違って咳がでます。熱も下がんないっす」
京平は内視鏡を使って、海里くんの喉を確認する。
「喉頭炎が出てる。咳止めと解熱剤と鎮痛剤と漢方薬を出しとくね。風邪ではあるけど、かなり悪化してるから帰ったらすぐ寝るように」
京平から聞いたけど、海里くん風邪の最中、勉強してたらしいからな。無理が祟ったんだろうね。咳の症状は長引く事が多いから心配だよ。
「次はお姉さん……灯さんだね」
灯さんは、20歳の女性で、黒髪のロングヘアーが魅力的な社会人だ。目は切れ長で、あんまり海里くんには似てないなあ。
個人的にお会いしたのは、実は初めてだ。
「お願いします。鼻に凄い来てるんです」
「鼻だね。熱めのお風呂に入ると、一時的に鼻通りは良くなるよ。症状としては風邪だから、解熱剤と鼻炎薬と漢方薬を出すけど、鼻が落ち着かないようなら、耳鼻科でも診てもらってね」
灯さんは鼻かあ。風邪自体、鼻から来る人は多いからなあ。
にしても瀬尾家、症状が見事にバラバラだなあ。
風邪と一口に言っても、色々あるもんね。
「次はお母さん……芳子さんですね」
海里くんのお母さんである芳子さんは、裁縫上手の元気なお母さんで、まんまるお目目にふわふわショートヘアーが特徴的な人だ。
「私は熱が皆より高めに出てるんだよ」
「芳子さんも喉頭炎が出てますね。解熱剤と鎮痛剤を合わせてお出ししますね。となると、海里くんの方が高熱である可能性が高くなるな……」
「海里、ちゃんと熱測ったの?」
事前に体温計で測って貰った時には、海里くんは37.5度と、高めではあるけど、喉頭炎が咳が出るほどまでに悪化してるにしては低い。
対してお母さんは、咳はないのに38度。京平が疑うのも無理はない。
「海里くん、もっかい熱測ろうね?」
「いやあああああああ」
京平は嫌がる海里くんを信次と押さえつけて、強引に熱を測る。その結果。
「全く、どう誤魔化したか解らないけど、38.5度あるじゃないか。強めの解熱剤に変更するね」
「バ海里!!」
「37度台ならバイト来ていいって、店長が」
「ブラックバイトだからすぐ辞めた方がいいぞ」
本当に人騒がせな海里くんだ。
熱の高さによって、扱う薬だって変わってくるのにね。
先程から京平は解熱剤と纏めて言ってるが、実際の所は種類も効果も、それぞれ違うのだ。
「最後はお父さん……衛さんですね」
海里くんのお父さんである衛さんは、昔から病気がちな方で、よく五十嵐病院にいらっしゃる。
が、家族の為に無理をしがちなので、よく風邪などが悪化してしまう。
海里くんと同じおかっぱだけど、目は切れ長の人だ。
「痰が出るんだよな。これじゃ仕事になりません」
「風邪ひいたときは素直に休んでくださいね。喉の腫れはないので、咳止めと解熱剤と漢方薬を出しますね。」
皆様悪化しているようなので、今日は信次が皆様の看病をするみたい。
薬飲んで、ご飯食べて、しっかり寝て治してね。
「それでは皆様、お大事に」
「ありがとね、兄貴」
こうして、瀬尾家の診察は終わった。瀬尾家と信次は、診察室をゆっくり後にした。
私達も、退室の手助けをする。
「京平、おつかれ」
「おう。家族感染は辛いよな。看病できる人もいなくなるし。信次に瀬尾家は任せなきゃだ。夜にはもう一度俺も行こうかな」
本当にそう。私が風邪をひいた時は、いつも京平と信次が付き添いで看病してくれているけど、それが無理な状態になるとしたら……。
嫌な予感しかしないよ。
「俺が風邪ひいた時も、亜美が居なかったらやばすぎた。本当にありがとな」
「当たり前の事をしただけだよ」
「俺はずっと感謝してるからな。じゃあ、次の人を呼ぼうか」
「了解! 41番の患者様、23番の診察室までどうぞ」
すると、またまた見慣れた顔がお目見えする。
「宜しくお願いしますわ。って、今日亜美なの? 嬉しいですわ」
「のばら! 今日は宜しくね」
「今月も宜しくね、のばらさん」
私はのばらの採血結果をプリントして、京平に渡した。
「うーん、相変わらず栄養が摂れてないね。昼ご飯はパンみたいだけど、朝と夜は?」
「朝もパンで、夜は早番の時は作ってもらいますが、それ以外はパンでして……」
「パンだけじゃ、ビタミンも不足するし栄養バランスも良くはないね」
確かにのばらは、昼ご飯いつもパンなんだよな。食べる事好きなのに、それは辛いよね。
うちの病院、売店ではパンくらいしか売ってないもんね。
「もう一年はこれだからな、流石に心配だぞ」
「外で食べるとナンパされますし、料理は苦手ですし、今が最適だから仕方ないのですわ」
「だったら、昼だけでも私が作って来ようか?」
「バカ亜美、弁当5つ作るのは流石にキツいだろ。そういう事なら、ちょっと待ってろよ」
京平はそういうと、携帯を取り出して、何処かに電話を架ける。
「もしもし、信次、今いいか?」
『あ、兄貴か。今瀬尾家に帰ってきたとこだけど、どうしたの?』
電話相手は信次だった。信次と何を話すのだろう?
「信次、朝弁当作る余裕ある?」
『無くはないよ。寝坊しなきゃ』
「じゃあさ、明日からのばらさんの弁当作ってくんない? このままじゃ、のばらさんぶっ倒れてもおかしくないからさ」
『ちょ、兄貴。のばらさんに代わって貰える?』
ぶっ倒れる?! そんなに酷い数値だったのか。
「あ、のばらさん、信次が話したいって」
「代わりますわ。もしもし、信次くん」
『のばらさん、明日から僕がお弁当作るけど、アレルギーとか無いかな?』
「ありませんわ」
『後、夜ご飯とかもきちんと食べてる?』
「パンの時もありますわ」
『中番と遅番の時かな? じゃあ、そんな時も我が家においで。3人分も4人分も変わらないからさ』
「え、本当に良いんですの?」
『のばらさんの身体の方が心配だしね。今日の中番終わりから、我が家においで』
うわ、なんか凄い事になって来たぞ。今日の夜から、のばらが我が家に通う事になるんだとさ!
そして私はその頃、きっと寝ている!
「有難うございますわ。お言葉に甘えますわ」
『これからも宜しくね、じゃあね』
こうして、のばらと信次の電話は終わった。
「深川先生、携帯有難うございますわ」
「取り敢えず、今日からのばらさんの晩ご飯も作っとくな。パンじゃ足りないし」
「本当に何から何まで……」
「亜美も信次も、のばらさんには世話になってるし。信次が決めた事は、我が家で第一優先だしな」
そう、我が家唯一の常識人である信次の発言は、我が家ではかなり重いのだ。
その信次が、のばらを家に呼ぶと決めたなら、それは決定事項なのだ。
「後は気になる点ないし、異能もコントロール出来てるよね?」
「はい、問題なく薔薇は咲きますわ」
のばらは、嬉しそうに薔薇を咲かせてみせる。
「それなら良かった。今日の診察はこれで終わり。着替えて休憩室で休んでおいで」
「有難うございますわ」
のばらはそう言うと、お辞儀をして、診察室を後にした。
「ずっとのばらさんの栄養失調が気になってたけど、外ご飯でもナンパされる、は盲点だったなあ」
「これからは我が家で、のばらを満足させてあげようね」
「世話になってるしな」
信次「兄貴ものばらさんが栄養失調なの知ってたなら、早く提案してあげれば良かったのに!」
京平「まさかのばらさんと亜美達が、こんなに仲良くなるとは、思わなかったしな」
亜美「のばらに満足して貰えたらいいね!」
信次「さあ、僕は瀬尾家の看病頑張るぞ」




