ずっと一緒に
僕がこの修道院でお世話になると決めたあの日から、ずいぶんと日数が過ぎた。
僕は今でも変わらず、シスターのカミラさんとこの修道院に二人で暮らしている。
最初のころはいつかこの場所を出るんだと思っていたけれど、今となってはそれが遠い昔のように思える。そして、カミラさんと出会うきっかけとなったあの事件のことも。
僕は日課である聖堂の掃除を終え、女神の像を見上げていた。最初に見た時と変わらず、慈愛、慈悲に満ちた目で世界を見つめているように思えた。
そんな僕の側にいつの間にやってきたのかカミラさんが立っていた。カミラさんも女神の像をじっと見上げている。
僕が何も言わずにいると、やがてカミラさんが口を開いた。
「……女神様には、慈愛や慈悲といった広く知られている姿とは別の一面があるのです」
「別の一面?」
思ってもみなかったことを聞かされ、僕はカミラさんの顔をしげしげと見た。カミラさんの視線は今も女神像に注がれたままだ。
「ええ、女神様が司るもうひとつのもの……それは復讐です」
「復讐……」
心優しい存在だと思っていた女神様にあまりにも似つかわしくない言葉。そして、それは僕がカミラさんと出会った頃、彼女の口から聞かされた言葉でもある。
僕は心ここにあらずといった感じでその単語をつぶやき、やがて女神の像に向き直った。
「とはいえ、今となってはそのことを知る者もほとんどいないでしょう。信徒ですらそれは例外ではありません」
カミラさんは口を閉じると、体ごと僕に向き直る。
「リオ君。あなたは今でも、あなたをひどい目にあわせた者たちに復讐したいと思っていますか?」
その問いかけには色々な感情が込められているように思う。
カミラさん、そしてこの女神様。両者は復讐したいという言葉を期待しているのだろうか、それとも違う言葉を期待しているのだろうか。
僕は首を左右に振った。
「……いえ。もう今となってはどうでもいいことです。近ごろはあいつらの顔を思い浮かべることもほとんどありません。それに……カミラさんとこうして出会えたから……」
この言葉に嘘はない。かつての僕は、心に100の容量があるとしたら、その内の99は復讐という色に染まっていたと思う。でもここでカミラさんと過ごすうち、いつの間にか僕の中から彼らに対する憎悪が霧消していた。
きっとカミラさんのおかげだと思う。
カミラさんとこうして出会えなかったら、僕はいつまでもあいつらのことを忘れられず、いつかは復讐の刃を彼らの胸に突き立てていたかもしれない。もしくは返り討ちにあって野ざらしにでもなっていたか。
いずれにせよ不幸な末路を迎えていただろう。でもきっとカミラさんとの出会いがその運命を変えてくれたのだ。
答えを聞いたカミラさんが、満足そうに微笑んだ。
「ふふ、嬉しいです。私もリオ君と出会えてよかった」
やがて僕たちは聖堂を出る。外はあたたかな光が差し、風も優しく吹いていた。
「良い天気ですね……今日は特に大きな仕事もありませんし、お昼からピクニックにでも行きましょうか」
カミラさんは僕の手に己の手を重ね合わせ、さらにその五本の指を絡めてくる。いわゆる恋人つなぎというやつだ。
その行為に気恥ずかしさとそれ以上の喜びに満たされ、僕は頬が熱くなるのを感じながらもカミラさんをわずかに見上げた。
「これからも、ずっと一緒にいましょうね。リオ君」
カミラさんはそんな僕を正面から見つめ、女神様のような慈愛あふれる笑顔でにっこりと笑った。
――終わり――
これにて完結となります。
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