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7 人のことを妖精というのは妖精に失礼だ

 私はあの二人に向けた以上の冷ややかな視線を、おおバカへと向けた。


「誰が、僕の妖精だ! 少し前まで人のことを罵倒しまくりやがったくせして」

「ご、誤解だ。……いや、誤解です。その灰色のマントを……じゃなくて、似たマントを身に着けている魔道具大好き研究バカの眼鏡ブスと……ではなくて……えーと、あれ」


 言い訳しようとして、言葉を言っているうちに、何を言いたいのかわからなくなったみたいだった。……というか言葉が出てこないからって近づいてくんなよ。


「僕の妖精。僕は君と会ったあの時、君に運命を感じたんだ。僕の隣にふさわしいのは君だけだ。どうかこれからは僕の隣にいて欲しい」


 手を伸ばしてそんなことをいうおおバカ。断られるとは思っていない笑顔がウザすぎる。ムッとしたけど、まずは触れられないように、障壁を展開する。


「あれ?」


 おおバカは私に触れる前に手が止まったことに不思議そうにしている。そして、気持ち悪い爽やかに見える笑みを浮かべた。


「やだなー。照れなくていいんだよ。それとも僕の魔法(ちから)を試しているのかな? 大丈夫だよ。こんな魔法(もの)で守らなくても、僕が守ってあげるからね。すぐに解いてみせるよ」


 そういうと、なにやら詠唱をし始めたけど……その解呪のスペルじゃ、この障壁は解除されないぞ。


 というか、いい加減付き合うのも、時間の無駄だ。さっさと引導を渡して、立ち去るとするか。


「おお……第二王子、自分のいいように勝手な解釈してんなよ。……というかさ、いい加減気づけよ。あんたが妖精って言った女は、あんたが大っ嫌いな研究バカで眼鏡ブスのカミーラ・ユンテスさ。わかったらさっさとどっか行けよ。……というか、マジ邪魔。さっさと通してくれ」


 と、真実を告げてやった。それなのにおおバカは首を軽く捻ると、不思議そうな顔をした。


「いやだなー、君を探し出すのに五年もかかったから、拗ねてしまったのかい。僕の嫌いな女のフリなんかをしなくていいんだよ。さあ、もうすぐ解けるからね」


 おおバカが言ったと共に、障壁が消えるのを感じた。消えるなんて生易しいものじゃない。砕かれたという方が正しいだろう。それをやった奴がいる方に視線を向けると、表情を消して同じ方を見ているミポルの姿が目に入った。


「ほう~、ボクの大事なカミーラに~、なんてことしてくれるんだろうね~」


 先ほどまでと違って氷点下の視線に冷たい声音。言い終わるかどうかというタイミングで、ミポルは風を放った。


「うわあ~」


 情けない声と共に風に持ち上げられて姿を現した、魔術で私達とトップ争いをしていたアホが空中で叫びながらもがいていた。


 それを不快感丸出しの顔で「うるさいな~」とミポルは言った。その言葉と共にアホの声は聞こえなくなった。アホはその事実に顔色を青ざめさせるどころか、真っ白に変わっていった。不安定な体勢ながら、ミポルに向かって指を指している。


 本当に失礼な奴だな。人に指を指すのはマナー違反だろう。……というか、妖精(・・)さまに向かって何してくれてんの、このアホは。


「さてと~、どうやら~、受け入れたくない事実には~、目を背けるようだね~。あのバカたちの親玉だから~、もう少~し楽しめるかと思ったけど~、興ざめもいいところだね~。だ~か~ら~、遊ぶのはもうやめて~、さっさとケリを~、着けることに決めたよ~」


 ミポルは素敵な笑みをおおバカに向けて見せた。おおバカはやっとミポルの姿を認識したらしく、顔色を悪くしている。


「これは何事か」


 誰何(すいか)の声が聞こえて、おおバカの後ろから騎士を数名従えた、騎士団長が現れた。そしてサッと状況を一瞥すると、私に向かって怒鳴ってきた。


「この騒動はお前が原因か、カミーラ・ユンテス。魔道具の製作で国に貢献しているとはいえ、王族に対してなんてことをしているのだ」


 ……さすが馬鹿一号の父親だ。何があったのか聞こうとせずに、自分の思い込みだけでこの言葉だ。


 ああ、そうそう。騎士たちが現れるまえに、ミポルが風を操って器用にフードを被せてくれたんだ。だから騎士団長はいつもの、おおバカ(・・・・)()絡む(・・)のを、私の不敬な態度(・・・・・)をおおバカが咎めている(・・・・・)と、解釈したのだろう。


「ほら、早く魔法を解いて、哀れな彼を下ろしてやれ」

「ま、待て。騎士団長」

「き、騎士団長~」


 団長のぞんざいな言い方に、おおバカと団長と共に来た騎士でミポルに気がついた者が、慌てて声を掛けていた。けど、団長にはミポルが目に入っていないようだった。そっと見るとミポルは私の陰になるように、微妙に移動をしていた。


「どうか、なされましたか、殿下。すぐにこの者は処罰いたしますので、ご安心ください」


 団長はおおバカに向かって真面目な顔でいい、おおバカの前に出た。


「ば、ばか。そんなことをするんじゃない。俺の大切な人に手を出すことは禁じる」


 おおバカが団長を止めようと手をかけた。……という状況だけど、私はやっとホッとした。さっきからこのおおバカの口調が気持ち悪くて仕方がなかったんだ。


 な~にが『僕』だよ。『僕』と言って可愛いのは、ミポル達妖精(・・)だけなんだからな!


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