8 妖精様……を怒らせたから、高い高いのお仕置きです!
おおバカと騎士団長が攻防を広げている間に、私が来た方向から足音が聞こえてきた。
「こんなところにいたんだな、カミーラ」
「あ~、探しましたよ、愛しのカミーラ」
……馬鹿一号、莫迦二号に追いつかれてしまった。それだけでなく、その後ろから宰相までが急いでくるのが目に入った。
……カオスだ。
思わずミポルのことを睨むように見てしまった。だけどミポルはいつの間にか私の左肩の辺りにいた。それも胸元で腕を組んで少しふんぞり返るようにしている。鋭い視線を宰相に向けた後、おおバカと団長に向かって声をあげた。
「おい、そこのうすらばか」
「う、うすらば……か~?」
ミポルに声を掛けられた団長は声を荒げて反論しようとしたが、ミポルの姿を視界に入れると言葉は途切れて、弱い聞くような言い方になった。流石に大口は開けていないけど、顔にうっすらと汗が浮かんできている。
「そうだよ。お前も散々カミーラのことを馬鹿にしまくっていたよな。そろそろツケを払ってもらうことにするよ」
「ツ、ツケですと? はっ、いや、私はその別に……」
慌てたように言い始めた団長から視線を外すと、ミポルは宰相のことを横目で睨んだ。
「やっと来たか。遅かったじゃないか」
「も、申し訳ございません。連絡がすぐに参りませんでした」
宰相がミポルに平身低頭して謝る姿に、莫迦二号こと宰相の嫡男であるラキア・クラルスは目を剥いた。この国で妖精は……いや、この世界で妖精は特別な存在だ。だからって妖精王でもない普通の妖精に遜る父親の姿に、ラキアは怒りを覚えたみたいだ。
「お前、カミーラの守護妖精だか何だか知らないが、わが父に対してその態度はなんだ。一国の宰相に向かって礼儀を弁えないか」
「そうだぞ。先ほどから聞いていれば、わが父である王国騎士団長で我が国の守りの要である御方に対しても、不遜だろう。まあ、妖精に礼儀云々を言ってもわからないか。妖精王に仕えることが出来ない平妖精じゃあな」
馬鹿一号こと王国騎士団長の嫡男であるディクソン・ラザクレアも、ラキア同様ミポルを嘲笑うように言った。
……あ~あ、言っちゃったよ。このバカども。宰相がなんで遜っているか、まるでわかっていないようだな。
「なっ! お前、カミーラの守護妖精だったのか? なんであんな女に守護妖精がつくんだよ。あんな女にはふさわしくないだろう」
おおバカまでまだ勘違いしたまま、こんなことを言いだした。……おいおい、やめてくれよ。隣にいるミポルは怒りをそれでも必死に抑えてくれているんだぞ。これ以上余計なことを言って、力を思いのままに振るうことになったら、この王城が半壊程度で済めばいいけど、全壊したらどうすんだよ。
「おやめくだされ、殿下。それ以上は不敬にあたりますぞ」
「なにが不敬だ、クラルス宰相。平妖精より殿下のほうが……うわあ~」
おおバカを擁護するつもりか、団長は宰相に詰め寄ろうとしたけど、あと三歩のところで体が宙に浮かび、悲鳴をあげた。
「うわ~、なんだ~」
「おろせ~、おろしてくれ~」
「俺を誰だと思っているんだ!」
声がした方を見ると馬鹿と莫迦とおおバカまでも、宙に浮かび上がって大声をあげながらもがいていた。
「ちょっと、ミポル」
声を掛けたら視線だけ私へと寄越したミポル。いつもの陽気な表情は消して、真面目な顔をしている。どうやらずっと言っていたように、ツケの回収と共にケリとやらをつけたいみたいだ。私は口を挟むのをやめて見守ることにした。
ミポルはアホも含めた五人を宙に浮かべたまま、視線を宰相へと向けた。
「さて宰相、先ほどから自分の立場をわきまえない者どもに、制裁を加えようと思うのだがよろしいか」
「ど、どうか、命までは取らないでいただけると」
言葉使いまで変えて、ミポルは言った。……これはかなり……いや、本気のマジもんに怒っているようだ。
宰相は顔色を変えてミポルに懇願をした。その様子を冷ややかに見ながら、ミポルは言った。
「やだなー、ボクがそんなことするわけないだろう。でもねえ、いい加減、こいつらには我慢が、ならなかったんだよね。カミーラと約束していたからこれまで手を出さなかったけど、もう期日は過ぎたからね。ボクの好きにさせてもらうよ」
そう宣言すると、舌を出してぺろりと唇を舐める仕草をして、腕を振り始めた。それに合わせて、クルリクルリとアホを含めた五人は宙がえりをしたり、右や左に移動する。
「うわ~」
「おろしてくれ~」
「目が回る~」
「うっ、気持ち悪い」
声を封じられていない四人が悲鳴と共に叫んでいる。
「あ~、もう~、うるさいな~。……もう少し遊んでいたいけど、カミーラがこれ以上遅れるのは困るもんね~。それじゃあ~、三回、高い高いをして、終ろうか」
ミポルの宣言と共に、五人の体は空へと上がっていった。豆粒くらいに小さくなったと思ったら「そ~れ!」というミポルの掛け声と共に、下を向いた状態で、すごい勢いで落ちてきた。
「ひい~」
騎士たちが慌てて手を差し出したけど、その手を上に伸ばしても届くかどうかというところで、五人の体は止まった。
「はい、一回目~。それじゃあ~、張り切って~、二回目に~、いっくよ~ん」
「「「「「うわ~、やめてくれ~」」」」」
五人の叫び声が空の彼方へと、吸い込まれるように小さくなっていったのだった。
……どうでもいいけど、アホの声を聞こえるようにしたのね、ミポル。




