18 もっと、この国の上の人たちはやらかしているらしい
ミポルは面白くなさそうな顔をして、口を開いた。
「反論なら後で聞くと言っただろう。他のやつらの罪状も言わなきゃならないんだから、お前はそこでそうしていろ」
そういうと、窓が勝手に開いて、男はバルコニーから外側へと出された。バルコニーから手を伸ばしてもギリギリ届かない位置。……ミポルは本気で怒っているようね。
他の人たちはそれを見た後、前の人の陰になるように体を小さくしていた。……というか、前からは丸見えなんだけど。
「それじゃあ、次に行くぞ。学院に行くためにカミーラとレイニーが村を出てから王都に着くまで、さまざまなトラブルがあったんだよ。お前らさ、自分たちの快楽ばかり追い求めて、民の安寧を損ねるってどうなんだよ。……って、今更そんなことに気をまわすわけないか。まあ、これは後で他のことと共に言うとして、問題は『精霊の加護が与えられた人物』に対する配慮の無さだよな。国王、お前は預言者に『精霊の加護を与えられた者』が産まれたことを伝えられて、その子を手に入れようといろいろ画策しただろう。だけど、あの村は精霊たちの加護が厚いから、滅多な人物は入れないし近づくこともできない」
一度言葉を切るとミポルは嫌な笑みを口元に浮かべた。……嘲笑だよね、これ。
「だからってさ、逆に治安を悪くするってどうなんだよ。お前は知っているのか? この国は他国の商人から敬遠されてんのをさ。国民は他国からの物を割高の金額で購入しているんだぞ。……おっと、いけない。つい後でいいことまで、話してしまうな。そんじゃあ話を戻すか。カミーラとレイニーが学院に通うことを決めて村を出ることを、お前らに通達したよな。そうしたら『精霊の加護を与えられた者』が王都に着くまでに、ひっ捕まえようとしただろう。最初に二人に親切そうな顔をして馬車に乗せた商人と、宿屋の無い村の村長、あと宿屋の主も脅して二人を攫うのを見過ごさせようとしたよな。商人と村長は自業自得だからいいとしても、宿屋の主はボクたちに平身低頭して謝ってきたよ。その後の宿屋でも同じことをしようとしたようだけど、それを命じようとした奴らには、実行する前に手を打っておいたからね。命を絶とうとされたら寝覚めが悪いだろ」
ミポルの言葉に、私の顔から血の気が引いた。
「ミポル、まさか……あの、宿屋のご主人は……」
唇を震わせながら、最悪の事態を想像しながら言葉を紡いだ。そんな私に安心させるようにミポルは笑った。
「大丈夫だよ、カミーラ。宿屋のご主人は今も元気に過ごしているよ。あの一家にはそこの馬鹿どもが手を出せないように、守りを置いてあるからね。蔓薔薇の妖精がいたく気に入ったそうなんだ。だから彼らに任せているよ。蔓薔薇の花びらや実入りのハーブティーが人気の宿になっているから、村に帰る時に寄ることにしようね」
私はホッと息を吐き出した。
あの宿は家族だけでやっていて、部屋が六室しかないこじんまりとした宿だった。暖かい雰囲気でご飯も美味しかった。それなのに夜中にドタンと大きな音がして驚いて目が覚めた。廊下に出るとミポルとスラミーに取り押さえられた、六人の男達がいた。二人の説明では、『私とレイニーが珍しいカイナンの鱗をたくさん所持していると知って、寝入ったところで押し入って盗もうとした』と言われたのよ。
彼らも同じ宿に泊まったし、夕ご飯の時にお守りとして身に着けているカイナンの鱗を見つけた宿屋の娘(五歳)に、一枚あげてしまったのを見られていた。だからその説明に納得していたの。
でも、本当は違っていたのだと知った私は、哀しくなってしまった。村を出る前に、もう一つ言われていたことがあったの。……ううん。言い聞かせられたという方が正しいかな。
『精霊の加護を与えられた者』を手に入れようと動いている人がいるのだと、言われたの。
そのことを私は軽く考えていた。……のよね。小さな村の中で守られていたと、わかっていなかったの。だから、悪意を持って近づいてこようとする人がいると、思わなかった。……ううん。思いたくなかったのよ。
村を出て、学院に着くまでに様々なことがあって、みんなに言われたことが本当のことだったと知ったわ。だんだんと口数が少なくなっていく私を、レニーが支えてくれたの。ミポルとスラミーだけじゃないわ。レニーもこの旅の間、ずっと私を守ってくれた。……私にとって、とても大切な人。
横を向いてレニーのことを見つめたら、レニーはすぐに気がついてくれて、にこりと微笑み返してくれた。
「コホン。カミーラ~、思考の探索から~、戻ってきたかな~」
ミポルに言われて、話がストップしていたことに気がついた。みんなに見つめられていたことに気がついて、顔が赤くなってきた。そうしたらレニーがみんなから私を隠すように抱きしめてくれた。
「あー! 何してんだよ。離れろ! フェンダル!」
おおバカが立ち上がって喚きだした。
「何って、可愛いカミーラがお前たちに見られて恥ずかしそうにしたから、隠してあげたんだよ」
「嘘だ。彼女は照れているだけだろ」
そんなわけあるかー!
と、口には出さなかったけど私は行動で示すために、レニーの背中に腕を回してぎゅうと抱きついたのでした。