13 恋人……両想い……は、思い違いでしたか?
前回の甘さが消えた……。
なんでだろう?
しばらくレニーに抱きしめられて、レニーの胸に耳を押し当てていた。少し早いけど規則正しい心臓の音を聞いて、気持ちがだんだんと落ち着いてきた。私はレニーの腕に手をかけると、そっと体を離した。
改めてレニーと向かい合う……と、カァーとまた頬に血の気が集まったのがわかった。……どうしよう。恰好よすぎる。えっ、私、いま、この人に抱きしめられていたの?
内心ワタワタしている私の左手を、レニーはギュッと握ってきた。力の強さに驚いて、レニーの顔を見つめ直した。
「カミーラ、覚えているかな。僕たちが学院に向かうために村を出る前の日に、言われたことを」
「ええ、覚えているわ。みんなに言われたことよね」
「そう。僕とカミーラは小さな村で過ごしたから、同じ年くらいの子供は、お互いしか知らなかった。だから、僕たちは周りから婚約者と認められていたよね。でも、学院に行けば同じ年だけでなく年が近い人たちと、触れ合うことになる。そこで、お互い以外に気になる人ができるかもしれない」
「そうなった時のために、婚約は解消しておいた方がいいと言われたわね」
私はレニーの目を見つめながら、村を出る前日のことを思い出して答えた。
「だけど、カミーラは『婚約の解消だけは絶対嫌だ』と言ったよね。結局、村の外では婚約していることを話さないと約束させられて、村を出ることになっただろう」
「ええっ。そこは不満だったけど、そうしないと村を出さないと言われたのだもの」
「そう言ってくれて、僕は本当に嬉しかったよ。……けど、君はここに来てからジョシュのことを気にかけるようになったよね」
ジョシュの名前が出てきたので、私は内心首を捻った。
「……? え~と、ジョシュはレニーの友達よね」
「そうだよ。僕にとって初めてできた同性の友達だよ。すごいいいやつで……彼ならカミーラが好きになっても仕方がないと……思ったよ」
「たしかにジョシュはいい人だと思うわよ。好意は持っているけど、それだけよ。……そういうレニーだって、ミルキア様と親しく話すじゃない」
私はミルキア様と親しく話す、レニーの姿を思い出しながら言った。私と同じに人と関わるのが苦手なレニーが、異性ではミルキア様となら話していたの。その姿を見るたびにチクンと胸が痛くなったの。
「ミルキア様? それはミルキア様が僕たちに貴族のあれこれを教えてくれたからじゃないか」
「……それで優しいミルキア様のことが好きになったのね」
「僕がミルキア様を好きだって? それはありえないよ。いろいろなことを教えてくれたし、カミーラと仲良くしてくれたことには感謝しているけど、好意を感じてもそれ以上には思えないから」
「好意は持っているんでしょう」
「それは意味が違うだろう! カミーラだって、ジョシュのことを好きなんだろう」
「私だって違うわよ。ジョシュのことはミルキア様と、レニーの友人ということがなければ、どうでもいいもの」
「……なんでジョシュを好きな話にミルキア様がでてくるわけ?」
レニーの言葉に私はハッとした。いけない。ついムキになって、ミルキア様の密かな想いを話してしまった。レニーは私の様子をじっと見つめてから、ため息を吐き出してポツリと呟いた。
「そうか、ミルキア様も同じ想いだったんだ」
「……それってどういいうこと? まさか、ジョシュもミルキア様のことを?」
レニーは眉を寄せて少し考えてから言った。
「そうだよ。彼が口に出して言ったことはないけど、ミルキア様のことを想っている」
「そんな……両想いだったなんて……」
「カミーラはミルキア様から聞いたの?」
「違うわ。私も気がついただけよ。ミルキア様も自分のお立場があるから、言われたことはないの。他の方々にも気づかれていないはずだわ」
「じゃあ、いつ気がついたの?」
「それは偶然というか……私達に作法を教えてくれた時に、途中からジョシュも一緒に教えてもらうようになったでしょう」
「そういえばそうだったね。ジョシュは男爵家で、高位貴族に対する礼儀作法は出来ていなかった……という名目で、僕たちの監視のために近づいてきたんだよ」
シレッと告げられた言葉に、私は目を見開いた。レニーとジョシュは本当に仲が良くて……そんな裏があるだなんて思わないくらい、信頼し合っているのだと思っていたのに……。ジョシュがレニーを騙していたのだと知った私は、もう一つの可能性に気がついてハッとなった。
「ま、まさか、ミルキア様も?」
「それはないから安心して、カミーラ。それにジョシュのことも心配しないで。ジョシュは最初から上の思惑に乗るつもりはなかったんだよ。それよりもジョシュ以外の奴が僕らのそばに来ないように、目を光らせてくれていたからね」
ジョシュは味方なんだと、レニーは笑顔で言った。その笑顔が曇っていないから、本当のことなのだろう。
「それよりも、カミーラ」
レニーは私の両手をギュッと握りしめて真剣な顔をした。
「二人のことは置いて於いて、僕たちのことを先に話そう」
「私達のこと? えーと、レニーはミルキア様のことは諦めるの?」
「そこは誤解だってば! 僕はずっと小さい頃からカミーラしか好きじゃないんだ。カミーラ意外と一緒にいたいと思わないし、まして恋人になりたいと思ったこともないんだよ。僕はさっき惚れ直したって言っただろう!」
私はレニーの言葉に嬉しさで顔を真っ赤にしたのでした。




