12 レニーとイチャイチャ……ではなくて……
今回は微糖。
少~し甘~い雰囲気です。
私の顔が引きつったからか、レニーが私の頭に手を置いてなでなでしてきた。
「カミーラのことを怒っているわけじゃないからね」
と、笑顔で言うけど、でも、別のことを考えているよね。きっと。
「ミポルがこんなことをしたのは、理由があるのは分かっているけど、カミーラはなんなのか、見当がつくかい」
「ううん、全然わからないわ。でもね、ミポルは認識阻害をする必要がないと言ったじゃない。そこに何かヒントがある気がするのよ」
「それは確かにね。それにもう僕たちが眼鏡やコンタクトレンズとイヤーカフを、装着しなくていいと思っているようだし。でも、困るよね。通信アイテムでもあるんだからさ」
レニーはフムッと考えながら言った。
「そうよね。学院に来た日に、入学の許可証と共に眼鏡を渡されたんだもの。王都で連絡を取るのにこの眼鏡を使ってすると言われたのよね」
「そうなんだよね。だから、好きじゃないけど眼鏡をかけたわけなんだけど……」
レニーはさっき外した眼鏡を、テーブルに置いていた。実は私も、先ほどミポルに促されて、コンタクトとイヤーカフを外している。
理由は約束をした一時間が過ぎるまでは、私達に連絡がきても出ないようにと、ミポルに言われたから。……というより、ミポルが私のそばに居ることが判っているのに、連絡を取ろうとするバカがいるのだろうか。……いた。
外しているから誰からかはわからないけど、私とレニーに連絡をしてきたやつがいた。チカチカと赤く点滅しているのは、誰かから通信が来た証拠だ。
どうしようかと思ってレニーを見たら、レニーにニッコリと微笑まれた。
「出なくていいと言われたよね」
「でも……緊急な要件だったら?」
「そんなことは関係ないよ」
「関係ないって……」
困惑しながらもレニーのことを見つめたら、レニーの眼差しが甘い感じになった。
「うん、今はね、関係ない。それよりも、久しぶりに余計なものがない状態なんだから、もっとよくカミーラの顔を見ていたいな」
「えっ、と、レニー」
レニーの言葉に、私もそういえばと思いながら、レニーの顔を見つめ直した。眼鏡越しでない、レニーの顔。学院に入ってからはずっとレンズ越しだったと、改めて思いだした。
私もレニーの顔を見つめ直して……顔に熱が集まってくるのを感じたの。
えっと……レニーって、こんな顔をしていたかしら? 私が覚えているのは、女の子と間違われそうな柔和で線が細いイメージだったわ。身長も私とあまり変わらない……ううん。流石にそれはないわね。この五年で、私達は背が伸びたもの。レニーなんて私よりも顔半分は高いと思うわ。
いつの間にかレニーが大人の男の人に近づいていたことに気がついて、私は目のやり場に困って視線を逸らした。
「カミーラ、僕のことを見て」
頬にレニーの大きな手が添えられて、軽く顔を持ち上げられる。私の視線はレニーの顔へと戻った。
「もともと可愛かったけど、この五年の間に綺麗になったね、カミーラ」
「レ、レイニーこそ、格好良くなっちゃって……ずるいわ」
「何がずるいの?」
「だって、その……レイニーは、眼鏡に認識阻害の魔法をかけたでしょう」
言われた言葉に、ぱちくりと瞬きをして、レニーは不思議そうに訊いてきた。
「……もちろんかけたけど、そうしないとカミーラは困ったでしょう」
「そうじゃなくて、私がレイニーを認識できないようにしていたんでしょ」
ますます分からないというように、軽く首を傾げるレニー。
「えーと、僕が認識できないって……どういうこと?」
「だ、だから、レイニーが学院に来た時の、十三歳から変わってないと、私に思い込ませたんじゃない」
首を傾げたレニーは探るような目で私を見た後、「もしかして」と言った。
「その、もしかしてなんだけど、カミーラは僕の姿がここに来た時と、変わらないように見えていたの?」
「そうよ! さすがに身長差は認識していたけど、ずっとかわいいレニーに見えていたのよ」
「かわいい……」
茫然と呟くレニーの声が聞こえてきたけど、私はレニーから視線を逸らして叫ぶように言葉を続けたのよ。
「だって、だって、ずるいわよ。いきなりこれはないわ。なんでこんなにレイニーは格好良くなっちゃっているのよ。そりゃあ、学院に来てからは恋人としても婚約者としての、お付き合いはなかったわ。でも、でも、こんな格好いいレイニーに変わっていくところをみたかったじゃない。不意打ちすぎるわ。これじゃあ、惚れ直す……ううん、今のレイニーに恋し直しちゃったじゃない!」
変化に気がつかなかった悔しさに、涙が込み上げてきた。その目でレニーのことを見上げたら「うっ」と言って、レニーは動きを止めてしまった。それからそっと包み込まれるように抱きしめられた。
「それは僕のほうだよ、カミーラ。カミーラが可愛いのはわかっていたから、諸々のトラブルを避けるためにも認識阻害の術式を、眼鏡に組み込んだ方がいいとミポルに言われただろう。だから支給されてすぐに、したじゃないか。……それから二人で会っても、眼鏡を取ることはほとんどなくて……。だから……うん……僕も、惚れ直したよ」
レニーの優しい耳に心地よい声は、やはり記憶の中よりも、低い声になっていると気がついたのでした。