23章 4日目〜音楽の授業
私は今日も、学校に行く。そして、音楽室でピアノを弾く。昨日岸辺さんに渡された楽譜を見て、弾けそうなものを選ぶ。幸いにも、音符の読み方は最初にここに来た日にサックスパートの人に少し教えてもらっていたし、昨日も岸辺さんから教えてもらっていた。もう、楽譜が読める。
よし、弾こう。
その瞬間、キィ……という音が聞こえた。
しかし、音楽室の扉は開かない。
なら、さっきの音は気のせいか、と思った時だった。
ガチャリ、と音がして、隣の「音楽準備室」から人が出てきたのは。
「あら、内川さん……って、なんで内川さんがここにいるんですか?」
えっ⁉︎
この人も霊感があるの?
この学校、意外と霊感がある人が多くない?それともたまたま霊感のある人が私の周りにいるだけ?
「内川さんは……亡くなったって、聞きましたけど……」
しかも、私が死んでいることを知っている。
「どうして、それをご存知なんですか?」
「今日、担任の先生から聞きましたもの」
私は、おしとやかそうで、年代的にはおばさんと呼べそうなその女の人に、尋ねてみた。
「あの、お名前は……」
「……あら、内川さん……もしかして、記憶が……」
私はうなづいた。
「……そうなのね。分かりました。私は、岡野朱莉。ここで、音楽の教員をしています。それで、なぜ内川さんはここにいるんですか?」
そう問いかけられて、私は事の始まりから今までのことをかいつまんで話した。
「うん、なるほどね……はい、分かりました。話してくれてありがとう。それで、いつもここで暇つぶしをしていたのね?……でも、今日は授業があるからこの部屋は使えなくなりますよ?」
「えっ⁉︎」
「あ、でも大丈夫。そこの小部屋を開けてあげましょう。授業は2時間ありますけど、音大志望の子が使っているから入らないでって言えば大丈夫でしょう。それに、授業があるのはもう少し先ですから、そろそろ生徒が来るな、って思ったら教えてあげますよ」
小部屋……それは、この部屋の後ろにある3つの扉のうちの1つ。そこにはアップライトピアノがある。暇をつぶすのには十分だ。
「ありがとうございます」
そして私は、小部屋でピアノを弾いて過ごした。
昼休み。
生徒がいなくなった頃を見計らって外に出た。すると、音楽の先生は「もしよかったら食べて」と小さなお菓子をくださった。お礼を言ってそれを食べると、ほんのりミントの香りがして甘かった。
その時、急に音楽室の扉が開き、中村さんがやってきた。
「ごめん、咲希!今日、授業があるのを忘れてた……」
「大丈夫ですよ。事情は聞いています。彼女には小部屋を使うように言いましたから」
呆気にとられて何も言えない私に代わって、先生が言った。
「よかった……」
と中村さんが言った、その時には
「もう、あっこったら!目が見えないのに何でそんなに早く動けるの?」
と言いながら別の女の人が入ってきていた。
「ごめんね、柴崎。なんか走ってみたくなったの」
壁に手が触れてないと怖いけど、といって中村さんは笑った。
「で、バリの譜面だっけ?何に使うの?」
「なんかうちの中学のバリの譜面が足りないらしくて。だからバリだけ欲しいって頼まれたの」
「分かった」
中村さんはこういう嘘をつくのが上手い。なんだか、尊敬してしまう。
そのうち、柴崎さんは譜面を持って部屋から出て行った。近くのコンビニでコピーを取ってくるらしい。
「さて、咲希、どうする?多分6、7時間めも授業だと思うんだけど。そうですよね、先生?」
「そうですね、今日は」
「このまま小部屋で今日は過ごす?それとも他の場所に行く?」
「うーん……今日は小部屋にいます」
「そっか、分かった」
中村さんは「次、移動教室だから」と言って出て行った。私は、先生にお礼を言って頭を下げた。
「いいのよ。そうだ、5時間目は授業がないんですけど、私がピアノを少し教えてあげましょうか?」
「いいんですか?ぜひ教えてください!」
ということで、私は先生にピアノを教わったり小部屋でピアノを弾いたりしながら部活になるまでの時間を過ごした。




