パートナー同士でデートです! 後編 その二
開いた三十分で書きますた。
譲れないものって誰にだってあると思う。
野菜と言えば「トマト」って答える人もいれば、「レタス」って答える人もいるかもしれない。ちなみに俺はトマト派です。なぜなら洗脳されてるから。誰にとは言わないけど。
まあ今野菜の例を挙げたけど、そんなものだろう。そして逆にそんなものでもいいのだ。どんなにくだらなくたって、どんなにバカげたことだって、自分が好きなものは譲れない。それだけのことだ。
そして俺は今、そんな譲れない戦いの真っただ中にいる。
「じゃあ決めましょうか、会長」
「うん。ちゃんと決めとかないとね。こればっかりは」
俺は今、会長と『アイスクリーム派かそれともソフトクリーム派か』という決して譲ることのできない戦いを繰り広げているのだ。
自分でも薄々気付いちゃいるのだが、こんなくだらないことでどうやって勝負すればいいのだろうか。なんだ、どうすればいいんだ? 自分で言い出しておいてどうすればいいか分からないって(笑)。
是非とも考えてからちゃんと発言をしていただきたい。あ、俺か。
「じゃあ裕人君。お互いにそれぞれの推しを買おう? それを相手に食べてもらって、勝敗を決めるの」
「なるほど。全力で相手を堕としに行くわけですね」
自分の推しで相手を自勢力の者にせよ、ということか。面白い。やってやろうじゃないか!
そんなこんなで俺たちはソフトクリーム屋の目の前まで行く。露店のようなソフトクリーム屋で、人もチラホラ見られる。
「俺はどうしようかな……やっぱりここは、チョコとバニラのミックスソフトかな」
「へぇ。そんな一度に二つの味を味わえるっていう外れ者を食べるんだぁ」
「外れ者って失礼な。ちゃんと二つの味を楽しめ、尚かつ二つの味が混ざり合ってまた新しい味を生むんですよ。そんな偉大なソフトを外れ者って……アイス勢の言うことはよく分かりませんし分かりたくないですね」
俺は吐き捨てるように言う。ちなみに店員のお姉さんは「いいカップル……羨ましいわ……」とうっとりとした表情で呟いている。誤解も甚だしいでっせ、姉さん。
「じゃあ私は……チョコレートクッキーにしようかな」
「ほう……チョコが入っているというところは同じなんですね」
「まあね。甘いものって幸せな気分になれるでしょ? しかも、チョコが一番甘く感じない? だから私もチョコ好きなんだ~」
なるほど。豊かに育ったその二つの果実は甘いものを吸収していったからなのか……。
そんなことを考えている内に、俺たちは互いの推しをゲットする。合計でお会計六百円。うん、無難な値段だ。
「で? ここからどうするんですか? 交換するんですか?」
俺が訊ねると、会長は嬉々とした様子で語り出した。
「裕人君はラブコメ漫画のシナリオを書いてるのに、こういうところは普通なんだね」
「……? どういうことです?」
「だからぁ、今日はデートの取材で来たんでしょ? だったらそれっぽいことしないと。私も絵にしたいし」
「それっぽいこと?」
尚も気付かない様子の俺に、先輩は痺れをきらしたようで、
「だからー、食べさせあい、しよっ?」
「た、食べさせあいですかッ!?」
俺が声を荒げながら訊くと、先輩は満面の笑みで頷いた。マジですか……。
鳴瀬裕人十七歳。彼女いない歴=年齢の歴戦の古強者。
デートしたこと一度もないし、妹と一緒に買い物にすら行けない人間。
そんな俺に、ラブコメの代名詞の一つでもある『あーん』のチャンスだと!? 食べさせあい=あーんだよな!? そうだよな!?
少しの期待とちょっとした緊張が心中で渦巻く中、会長が早速と言わんばかりにスプーンですくったアイスを俺の顔へと突き出してきた。
「はい、裕人君。あーん」
ちょっと待ってぇ! 心の準備が出来てないんですけどぉッ!
圧倒的経験の少なさから焦る俺だが、全国、全世界のソフトクリーム派のためにも俺がここで頑張らないといけない。そう考えたら、少し落ち着けた気がした。
落ち着くことが出来た俺は、会長が付きだした棒を根元から口の中へと含んだ。固いものは先に移動するたびに徐々に太くなっていき、その先っぽに到達した瞬間、甘く、口の中に残るアレの味がした。その中にはごつごつとしたモノも混じっている。
「……美味しい」
「ねー? でしょでしょ!」
俺が素直な感想を口にすると、会長は嬉しそうに目を細め、その場で飛び跳ねた。
跳ねるとアイスが落ちますよ。そして俺の目線は会長の胸に落ちましたよ。
「でも、本当に冗談抜きで美味しいっすね。チョコだけでもじゅうぶん甘いのに、それをさらにチョコチップで甘くするんですから。けどそのしつこさとくどさがいいですね」
「ふっふっふ。分かってくれて嬉しいよ。じゃあ次は裕人君の番ね。はい、あーん」
「俺もするんですよね……」
「そーだよ! じゃないと食べさせあいにならないでしょ?」
まあそうですけどね。やられるのも緊張するけど、やる方もやる方で緊張するな……。
少しだけ震える手を会長の口元に差し出し、ソフトクリームを食べさせてあげる。
「あ、あーん……」
「あーん!」
先輩は元気よくそう言うと、俺のソフトにかぶりついた。太くて長いものを咥えるその姿は、とてもつもなくエロい。そこで髪を耳にかけないで! 妖艶すぎるっての!
「……ん、美味しいね!」
「そ、そうですか? それなら良かったです。はは、ははは……」
嬉しそうに言った先輩とは対照的に、俺は苦笑い。
なぜなら先輩の口の端にバニラが少し付いているから。まるでアレをしてアレをかけられた後のようにも見える。こういう想像はやめましょう。
「会長、口にバニラ付いてますよ」
「? あ、ほんとだ!」
「動かないでください。今拭きますから」
俺はそう言うとポケットからハンカチを取り出し、優しく先輩の口元を拭いた。
「んっ、ありがと、裕人君……」
「どういたしまして」
先輩は何やら恥ずかしそうに笑っている。何が恥ずかしいのかさっぱり分からない。
「それでどうします? 判定は」
「あー、うん。この際さ、どっちもアリってことにしない?」
「それは俺も思いました。別に好きなものは好きでいいし、譲れないものは譲れないですしね」
「そうだね。まあソフトクリームも美味しいって思ったしね」
「俺も、アイスも美味いって思いました」
俺たちは見つめ合い、互いに感想を口にする。
「ぷっ」
「ふふっ」
俺たちはほぼ同時に噴き出す。
「なんだか、すごくくだらない勝負をしてましたね、俺たち」
「そうだね。でも、楽しかったし面白かったし、私は満足かな」
「ですね。まあ漫画にするとしたら、ソフトクリームを食べさせてあげる段階でヒロインの胸に溢させますけどね」
「もう、どうせそれで主人公に胸拭かせるんでしょ?」
「ご名答。何で分かったんですか」
「それはもう、一年近くコンビ組んでるし、何よりもぷちトマト先生のファンですから」
会長は大きな胸を張って言った。
そして、会長のその言葉を嬉しいと思った。
「ま、俺もゆずちゃんさんのファンですけどね」
「なら頑張って絵にしちゃうよぉ~!」
「じゃあ胸にソフトを溢しても!?」
「それはダメだよぉ! 着替えの服なんて持ってきてないんだからぁ!」
「じゃあ買いましょう! だから、どうか溢させて!」
「ダメったらダメ! もう、裕人君のえっち!」
先輩は恥ずかしそうに自分の胸を両手で隠すと、「いやいや」と首を振りながら言った。
こうして俺たちのデート(仮)は進み、終わりへと向かっていく。
その後も欲望に忠実なデートとなったのだが、その内容はまた今度。来たるべき時に語らせてもらうとしよう。
いつだって、欲望に忠実になるのは楽しいもんだな。
「デートってしたことある?」
「俺? あるけど、どしたいきなり」
「天界に召されろ」
「えっ」
っていう会話をしたことが誰しもあると思います。
そして大半の人はデートに幻想を抱きすぎだと僕は思うんです。現実にはアニメやラノベのヒロインのように可愛い女子はまずいません。現実を見ましょう。あ、現実を見てから妄想の世界に浸りましょう。
実際デートって何ぞや? と僕は日々思っています。ええ嘘です。そんなデートのことなど知っているようで知らない僕がキャラたちに任せて書いたのが今回のデート回です。フィクションだしコメディだし、ソフトとアイスの合計金額を二千円くらいにしてやろうかとも思ったんですけどやめときました。寒いだけだろうし。
こんな読まれるかも分からない後書き書くのも疲れてきましたね。それでは今回はこの辺で。
不定期更新の『ハイ欲』をこれからもよろしくお願いします。




