パートナー同士でデートです! 前編
いつも通りの休日、土曜日である。
「うーん......」
俺は悩んでいた。
何を悩んでいるのかというと、漫画の次話についてである。
「何悩んでんの、お兄ちゃん」
「いや、ちょっと漫画についてだな......」
「ふーん。ま、がんば」
俺にわざわざ尋ねてきたというものの、美亜は漫画のことだと聞くとすぐさま俺から興味を失ったらしい。今はもうゲームを始めている。
——まぁ美亜のことは今はいい。それよりも、本当にどうしようか......。
今俺が漫画で悩んでいるもの。それは——、
『デートシーンが書けない、ですか』
「いえすまあむ」
漫画のデートシーンが書けないということだった。
今までデートの一つもしたことがなければ、異性と付き合ったことすらない俺にとっちゃ、漫画でデートシーンを描くというのはかなりの難題だった。
デート無経験者の俺一人では書けないと判断したので、編集の笹塚さんにアドバイスをもらおうと今電話で助けを求めている最中である。
『失礼ですが鳴瀬さん、あなたは異性とデートをした経験はおありですか?』
「あったらでんわなどしておりません」
『そうでしたね』
——うーん、最近の若者はデートの一つや二つ経験してるものなのか? そうだとしたら積極的過ぎるだろ最近の若者。
そんなことを考えていると、笹塚さんが俺に言ってきた。
『ですが私もそのような経験はありませんので、あまりお力にはなれないかと』
「え、じゃあ俺はどうすれば......?」
『実際に経験できれば本当は良いのでしょうが......鳴瀬さんにそれは難しいでしょうか?』
「なっ、なめてもらっちゃあ困りますよ笹塚さん! 俺にもデートに誘う相手の一人や二人くらいいますとも!」
——あれぇ? 何言っちゃってんの? 俺。
『そうですか。ならその方とデートに行って勉強してきてください』
「あっ、ちょっと!? ......切れちゃった」
俺が見栄を張ってしまったから、笹塚さんに電話を切られてしまった。
「どーしよぉ......」
最後の希望が断ち切られた。こりゃお先真っ暗と言っても過言じゃないな。
自分の頭だけではどうすれば良いのか分からず、結局妹に頼ってしまう。
「んー、漫画関係なら比奈乃でも誘えば?」
「バッ、お前、会長は俺以外の作家とかの絵も担当してるんだから忙しいに決まってるだろう?」
美亜が言った会長とデートという案。確かにそんなことが出来れば幸せだろうが、会長はあれでも人気イラストレーター。俺の相手をしている暇などおそらくないだろう。
「じゃあシャーリィは?」
「それは無条件ノーだ。身の危険を感じる」
デートとかで休憩がてらに喫茶店とかに入ったら、コーヒーとかに毒盛られそうだもん。
「なら有希葉」
「天ヶ瀬は休日、家の手伝いしてるそうだ」
天ヶ瀬の家は和菓子屋ということなのでよく仕事を手伝っているらしい。
「じゃあ、わたし......?」
「ちょ、ちょっと何言ってるの? 美亜はお兄ちゃんをからかうのが好きなのか?」
——ま、待て待て。兄妹だぞ? 兄弟でデートととか、ちょっとアレだろう? 無理無理! 絶対無理!
「まぁ、冗談だけど」
冗談かよ。
「でもそうなると会長しかないのかなぁ? 漫画の為って言ったら大丈夫かなぁ?」
「まぁ、可能性的にはあるかもね。ちょっと電話してみ」
美亜にそう促され、俺はダメ元で会長に電話を掛ける。
——一コール、ニコール、三コール。
『はい、もしもし?』
「もしもし、会長ですか? 俺です、鳴瀬です」
『裕人君? どうしたの?』
「えと、会長。その、お、俺と、デート......しませんか!?」
◆
デートの待ち合わせ場所は駅前である。
プランとしては電車で隣町まで行き、ショッピングなどをしてから昼食を食べ、そこからまた少し歩いたりなどして解散、という流れだ。
——や、やばい。漫画の為とはいえ、すげぇ緊張する......!
漫画の為とはいえ、相手は男子たちの理想であり、学園三大美少女の一人、楪比奈乃会長だ。緊張しないわけがない。
俺はこんなに緊張しているが、会長はどうなのだろうか? あれほど綺麗な人ならば、デートの一つや二つはしているのだろうか。
——そうだとしたら、男の俺の方がリードされるんじゃ......? ダメだダメだ! 男の俺がリードしないと! そもそも誘ったのは俺なんだし!
何度も脳内シミュレーションを送っていた俺は、徐々に冷静になっていった。
——よし! 周りもちゃんと見えるし、いける!
そう思っていたが、俺の視界はいきなり見えなくなった。
俺は、視界がいきなり見えなくなった原因を考える。
——いきなり見えなくなるなんてありえないし、それに目の付近に感じるこの柔らかくて温かい感じは......?
そう考えていた俺の耳に、聞きなれた声が聞こえてきた。
「だーれだっ?」
「あ、えと、か、会長、ですか?」
「えっへへー! 大正解~!」
そう言って会長は塞いでいた俺の目から手を放し、俺の前に立つ。
「凄いね裕人君。どうして私って分かったの?」
「えと、そりゃ待ち合わせしていたわけですし......あと声とか?」
言えない。「豊かな二つの膨らみが当たってて気づきました」だなんて言えない。
「まぁ、生徒会で一緒にいるもんね。バレちゃうのは仕方ないかな」
「というか、会長はなんでこんなことをしたんですか? 普通に登場してくれても良かったのに」
俺は会長にそう告げる。すると、会長は目をキラキラと輝かせ、満面の笑みでこう言った。
「憧れだったんだよ! よく漫画とかであるじゃない? デートの初めにカップルがよくやったり、ね? それに裕人君漫画の参考にしたいんでしょう? だったらこうした方がいいかなーって」
「な、なるほど。さすが会長です」
漫画のことを考えての行動だったらしい。それにしてものっけから大胆な!
会長の少し大胆な行動に驚いたが、その驚きも少しづつ冷めていき、冷静さを取り戻していく。
「じゃあ、もうそろそろ電車も来ますから行きましょう」
「うん! そうだね」
電車のチケットを買い、隣町まで行く電車に乗る。
別にデートをするのは普通にここの町でも良かったが、誰か知り合いに見られたら厄介ということで隣町にした。
「ちょ、ちょっと狭いですね......」
「う、うん。そう......だね」
休日ということもあってか、電車の中は満員、とまではいかなくても人はそれなりに多かったため、俺と会長は必然的にぴったりと密着するような形になってしまう。
——うっ! この体制は、マズイ!!
俺と会長は向き合うような体制となり、会長が周りの人に押されないように会長を扉の方へ押しやり、扉に両手をついて会長をガードする。
しかしその体制はまぁ、壁ドンみたいなものでやっているこっちはとても恥ずかしい。
それに加えてお互いの顔がしっかりと見える体制でもあり、上目遣い気味でこちらを見上げてくる会長はとても可愛く見えた。
——あと近いって!! 胸が! 押し付けられて!!
胸を押し付けているという体制になっていることに会長は気付かず、俺は電車での移動時間中、ひたすら理性を押さえつけることに専念した。




