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価値観なんて人それぞれ

「比奈乃先輩、今の話はどういう......?」

 

 ——ば、ばれたぁぁぁぁぁぁ!!


 バレてしまった。みんなには知られたくない秘密が櫻川にバレてしまった。しかも人がこれから来るって分かってるのに話し続けて案の定バレるってアホ過ぎだろ!

 俺は『トラブルトライアングル』の原作者。つまりは妄想変態バカと呼ばれてもおかしくはない。そして会長は原画担当。エロスな絵を会長が書いてると知ったら、いくら幼馴染である櫻川もびっくりするだろう。

 俺たちは最悪の状況を避けなければいけない。だがどうすればいいのか全く分からない。


 「ちょっと、鳴瀬くんも答えなさいよ」

 そしてその矛先は俺へと向けられた。


 「いやぁ、別に何でもないぞ?」

 「嘘よ、比奈乃先輩と何か隠してるでしょ」

 「何のことだろうな、聞き間違いじゃないか? いい耳鼻科紹介してやるよ」

 「はっきり内容聞こえてたんだけど、私の口から言うのと自分の口から言うのとではどっちが楽くらいかは分かるわよね?」

 「......」


 ——て、手強えぇぇぇぇぇぇ!!

 

 何なんだこの櫻川の手強さは。くそっ! 言うしかないのか? だが、会長の場合は幼馴染だし、櫻川は見逃すかもしれない。でも、俺は? この前櫻川にあんなに挑発をして偉そうな態度をとってしまった俺はどうなる? 軽蔑されるよな? 結局俺しかダメージ食らわないじゃん。理不尽な世界だ。

 そんな絶望に彩られた未来を予想していると会長が俺に耳打ちしてきた。


 (会長? どうしたんですか?)

 (ここはさ、正直に言ったらどうかな?)

 (でも会長、あの内容ですよ? 思春期の男子が鼻息荒くして読むような内容ですよ? そんなものを櫻川が読んだら......)

 (でも、シャーリィちゃんもある意味創作仲間だからそうゆう仕事だって言えば分かってもらえると思うの)

 (櫻川が創作仲間? それってどういう......?)

 (いいから、いいから! 頑張って裕人君!)


 ——やれやれ。会長はなんというか前向きだな。俺にとっちゃ妄想変態バカの汚名を付けられるかもしれないのに。まぁ会長があそこまで言うなら頑張ってみるか。


 「櫻川」

 「なに? 説明する気になった?」

 「ああ、だがその為にはこれを見てくれ」

 そう言って俺は自分のカバンから封筒を出し、櫻川へと渡した。そして封を開けて中身を確認するように促す。

 俺が手渡したのは来週掲載される『トラブルトライアングル』の原稿だった。今日か明日にでも笹塚さんに出しに行こうかと思ってカバンの中に入れておいたのだ。


 「なによ、これ......」

 漫画を読んでいた櫻川の顔が予想していた通り、真っ赤になる。そしてその原稿を持ちながら俺の方へと詰め寄ってくる。

 

 「なんでこんなもの読ませるのよ、この変態!」

 「落ち着け櫻川! 怖いし近い!」

 「どうでもいいわよそんなこと! それよりこれとさっきの会話のどこに関係性があるのよ!」

 「ありありだわ!」

 なんだ?さっきは話の内容完全に分かってるみたいじゃなかったか。まぁいいや。細かいことは気にせず説明に入ろう。


 「その漫画、読んでどう思った?」

 「そうね、もう読みたくなくなったわ」

 「え」

 「なによ、えって。当たり前でしょう? 女の子はこういう破廉恥なものは読まないもの」

 

 ——まぁそりゃそうだよな。女性読者なんていないに等しいもんな。いや、いないとは言ってないよ?


 「まぁ、でもこの漫画を考えてる人は人の気持ちとかちゃんと分かってそうよね。感情表現が上手いとは思ったわ」

 「ほ、本当か!?」

 「な、なによいきなり大声出して」

 イエス! 内容はエロスも入ってるから読みたくないとは言われたけど、文章能力を褒めてもらえるとは思ってもなかったぜ!


 「あ、あと、絵はどうだった?」

 俺がそう櫻川に聞いてみると、会長が興味津々といった様子で俺たちの方を見つめてくる。


 「絵は......綺麗よね。なんだか比奈乃先輩を見ているように感じなくもないわ......!」

 なんなんだ櫻川。お前はどれだけ会長が好きなんだ。

 というか、それよりも『まるで会長を見ているようだ』というのは俺も思ったことがある。案外櫻川は俺と感性が似ているかもしれないな。


 「でさ、櫻川。その漫画は......」

 そしてここでカミングアウト。


 「実はその漫画、俺と会長で作ってるんだ」

 「えっ、この漫画を、鳴瀬くんと比奈乃先輩が......?」

 そのことを聞いた櫻川は当然驚いていた。


 「でさ、出来ればこのことはあまりみんなには......」

 俺のその言葉を会長が遮り、俺にこう言ってきたのだ。


 「裕人君、シャーリィちゃんにだけ教えるのはなんだか他の二人に申し訳ないよ」

 「で、でもいいんですか? 会長だって何か言われるかもしれないんですよ?」

 「ちょ、ちょっと! 鳴瀬くんと比奈乃先輩があの漫画を作ってるのってホントなの!?」


 櫻川はまだ信じていなかったようだ。いや信じろよ。確かに非現実的かもしれないが、俺が勇気を振り絞ったカミングアウトをしたというのに信じないって。どんだけ信用ないんだ俺。

 だが、今度はその櫻川の問いに会長が「うん」と頷く。


 「ま、まさか本当だったなんて......」

 「なんでそんなにがっくりしてるんだ?」

 「だって、絵は多分比奈乃先輩が描いてるんでしょ? 比奈乃先輩昔から絵を描くの好きだったし、あなたが絵を描くほど器用に見えないもの」

 こ、こいつ、さりげなく俺を馬鹿にしたよな?


 「そ、そうだけど、それがどうかしたのか?」

 「ということは鳴瀬くんが物語を考えてるってことでしょ?」

 「うん、そうだけど」

 「なんてこと......私さっきこの漫画を書いてる人を褒めたけど、それが鳴瀬くんだったなんて......」

 「どんだけお前は俺のことが嫌いなんだよ!」

 逆にビックリだわ! そんなに俺のこと嫌いなのかよ!


 「でも、よく俺たちが漫画を作ってるって聞いても軽蔑しなかったよな」

 俺はそう櫻川に言ってみる。


 「なんで軽蔑するって思ってたの?」

 「いや、漫画とかラノベ、アニメとかを仕事にしてる人ってのはそういうのが好きな人ならともかく、生真面目で漫画とかに興味を示さない人たちからしたら馬鹿にされたり軽蔑されたりすることがあるんだよ」

 これは事実だ。漫画やラノベ、アニメを趣味や仕事とする人たちはそういうものが好きではない人たち、つまりは『普通の人たち』と切り離されて見られてしまうのだ。その考えはおかしいよな。なにを持って普通と普通じゃないを区別しているのか。あ、ちょっと腹立ってきた。

 そんな持論を頭の中で展開していた俺だが、櫻川が俺にこう言ってきた。


 「そんなこと思うわけないじゃない。だって仕事なんでしょ? しかもそういう創作関係のことだったら私にも少しは分かるもの」

 その言葉を聞いて、会長が俺にこう言った。


 「ね? シャーリィちゃんなら分かってくれるって言ったでしょ?」

 

 ——そっか。そりゃそうだよな。会長と櫻川は幼馴染なんだからお互いのことなんて分かりきってるもんな。


 「じゃあ、櫻川はオーケーですね会長」

 「うん!」

 「あっ、比奈乃先輩、私にも手伝えることがあったら言ってくださいね! 絵とかあまり分からないですけど」

 

 ——でも、よかった。

 

 俺が周囲に漫画家だと言ってこなかったのはま、ず漫画の内容がアレなことと自分が書いてる漫画を知ってる人たちに読まれるのは気恥ずかしかったりしたからだ。

 そして、さっきの俺が考えていたこと。でも、櫻川のおかげで吹っ切れた気がした。周りはあくまで周りだ。俺が気にすることじゃない。人は一人ひとり違うのだから、肯定的、否定的といった人は必ずいる。

 

 ——なんだか大切なことに気が付けた気がするな。櫻川のおかげか。


 「櫻川」

 「? なによ」

 「今度、一緒に勉強しないか?」

 「え? なんでそんな突然......?」

 櫻川は俺がいきなり勉強に誘ったことに驚いていたが、会長はすぐに俺の意図に気づいたらしく、「じゃあみんなでお勉強しよう! 生徒会のみんなで!」と言ってくれた。


 「ほら、シャーリィちゃんもみんなで勉強するときに裕人君に教えてもらったら?」

 「あ、そうですね! 盗むだけ盗んでみようと思います!」

 まったく。会長には頭が上がらないな。後で会長にも感謝の気持ちを伝えなきゃな。


 

 櫻川にバレた! って思ってビックリしたけど、なんだかビックリして損したって感じだな。俺のことは相変わらず嫌いみたいだが、まぁ、俺から歩み寄ってみるかな。


 そしてその後、生徒会のみんなに説明した。天ヶ瀬はなんだか「新しい一面を知れた」といって喜んでたが。まぁ天ヶ瀬らしいっちゃらしいけどな。

 でもこれで生徒会のみんなにはコソコソしなくていいんだ。

 

 なんだか櫻川にバレたおかげでなんだか居心地がよくなった。これからはもっと仕事も学園生活も生徒会も楽しくなりそうな、そんな予感がする。

  

二日連続で三千文字以上書いたのは初めてな気がします!

途中で自分がアニメなどに思っていることを書かせてもらいました。共感してくれる人がいたらうれしいです!では、次回のハイ欲もよろしくお願いします!!

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