グレル佐山
12時半ラストオーダーになる。
ゴールデンウィークの営業でまだ10組近く残っている。
黒縁メガネで体格の良い常連の関山さんと、その連れの老人熊川さんが元気なく片付けをしている佐山をかまった。
「あれあれ、店長は店長じゃなくなったんだって!
何かいつもと違って、いそいそと片付けしたりしてるから。
メガネの大学生のあんちゃんに聞いたんよ。
ロボットに店長の座を奪われるなんて怖ろしい時代になったもんだねー。
そのうち、うちの会社でもパソコンがしゃべってオレに指示を出すようになるんかね?
AIから業務を指示されるんかねー?
怖い怖い、ハッハッハッー。」
酔っぱらっているとはいえ、えらく失礼だな。
この関山さんと熊川さんは。
まるで他人ごとで笑っている。
特にあの熊川さんという老人は、嫌味がキツく好きになれない。
そりゃそうだよな。
AIロボットが普及していると世間では言っていても、
これほど露骨にポジションを奪われた人はいないだろう。
佐山は何だか全身の力が抜けてきた。
その後閉店までは抜け殻のようにただ黙って、片付けを繰り返した。
閉店と同時に真っすぐ帰宅した。
うちに帰ると夜中の2時である。
普段なら寝ている佐山の妻の和美が起きている。
「あれ、お帰り。
どう?ゴールデンウィークで忙しかった? 」
「忙しかったとかどうとかじゃなくて、話がある。
何か意味わからないんだけどさ。
配膳ロボットが急に覚醒して、AIロボット店長だのと言い始めて店を仕切りだしてさ~。
オレは最初、相手にしていなかったんだけど。
何かロボットだから生真面目でさ。
スーパーバイザーが臨店してきてから聞いたんだけど、話を濁にごされてね。
会社もグルみたい。
何か周りが結託してオレをはめてるみたいなんさ。」
「ちぃ」といじけた子供のように佐山は話を切った。
最初は眠い目でぼんやりと和美は聞いていた。
しかし話が進むにつれ、目が覚めてきた。
脳が冴えてきた。
……和美の不快指数は徐々に膨れ上がっていった。
「なにそれ? 」
「あんたそれ、何が言いたいの? 」
「配膳ロボットに店長の座を奪われて、
あんたおとなしく手をこまねいて見ていたの? 」
「あなたが店長だろうとなかろうと、そんなあんたの小さなプライドはどちらでも構わないけど」
「わたしたちの生活費がビタ一文でも減ったら、許さないからね。
バイトでも何でもして稼いで頂戴」
――佐山の腕脇から冷たい汗が垂れる。
「陽朗美は受験生なんだからね」二人の娘のことだ。
「陽朗美にとって今が一番大事な時期なのよ」
「あんたのヘタレ仕事なんかにかまってる場合じゃないのよ」
「……給与振り込みがビタ一文でも減ったら許さないからね。バイトして。
あんた昔言ってたよね。オレの仕事は夜中だし拘束時間も長いからバイトはムリだって。……良かったね。」
ちょっと間を空けて、和美は薄気味悪く口角を上げた。
「今はスキマバイトとかあるから、いくらでもスキマ時間でバイトが探せるね! 」
佐山には反撃する気力も湧かなかった。
いや言いたいことは山ほどある。
――しかし、今バトルが始まってしまうと通勤ラッシュの始まる和美の出勤時間まで延々と戦火は止まないだろう。
耐えろ。
耐えるしかない。
40歳を過ぎると朝まで戦火を交えるのは辛い。
体力が持たない。
佐山はあきらめてうなだれて頭を下げながら、
自分の部屋へと消えて行った。
今日はほんとに疲れた。
ケンカもこらえてのこのこと布団に入った。……のに眠れない。
いや、オレの店長の座が……とか確かに悔しいけれど、
オレの論点はソコじゃない。
なんで配膳ロボットが人間様を差し置いて店長をやっていることに対して、みなはもっと疑問を感じないのか?
あおいもタイゾーも何でロボットの言うことを何の疑念もなく信じているのか?
妻の和美も「えっマジで!ロボットに店長の座を追いやられたのとか、
あんたウソついてるでしょ。」とか言わないのか。
佐山は悔しさと、考えれば考えるほど謎が謎を呼び、
疑念が浮かんでは沈んでいき眠れなかった。
佐山は誓った。
『あのロボットの正体を暴いてやる。』
明日の作戦を練ろう。




