SVの襲来
時間は夜9時になろうとしている。
満席状態は終わり店の賑わいも少し落ち着き始める時間だ。
ふいにバックヤードの従業員用出入り口のドアが開いた。
庭山統括スーパーバイザーだ。
「お疲れ様です」
「ウッス」
佐山がさぼってタバコを吸っているタイミングで庭山統括スーパーバイザーが臨店してきた。
少しバツが悪い。
今までならそんなこと気にしていなかった。
自分のことを要領の良いスーパー店長だと思っていたから。
しかし今はちょっとタイミングが悪い。
とはいえそんなことより、カズトのことを聞かなければ。
「庭山さん、知ってますか? あのネコ型配膳ロボットのカズちゃんが突然覚醒して、『店長カズト』なんて宣言して仕切り始めたんすよ」
「そうなんですか」
庭山統括スーパーバイザーは無表情で答えた。
配膳ロボットが店長をしているというこの異常事態に、その無表情は何だ?
「庭山さん、あれは本部のプログラムですか?
1年経ってリロードしたらああなるように本部で仕込んでいたんですか?」
「……どうなのかな~」
庭山の返事は煮え切らない。
「どうなのかなって言うのは、どうなんすか?
庭山さんは知ってたのに、オレに何も教えてくれなかったんですか? 」
「いや、私も詳しいことは知らない」
とだけ言うと、庭山はフロアの方に出て行った。
クソあのタヌキおやじメが。
本部のあなたが何も知らないわけないだろう。
こりゃあ、会社ごとグルの線で考えていかなければならんな。
ホールに行った庭山統括スーパーバイザーは、カズトを見付けるとそろそろと近づいて行き、話を始めた。
何を話しているのか分からない。
庭山はポーカーフェイスでカズトと話を始めた。
佐山から見るとそれは、会社がカズトを店長として認めているように見える。。
「ちくしょー」やっぱりあいつら会社ごとグルじゃないか。
訴えてやる。
庭山はiPadを取り出し、何かを見せながらカズトと話をしている。
それは佐山が店長であった時と同じ感じだ。
特別な感情が庭山には宿っていないようでもあった。
5分くらいで話が終わると庭山は店内をぐるりと回ってすぐに店を出て行ってしまった。
――なぜかそのとき、
アディーも慌てて外に出て行った。
ごみ捨てか?何かの袋を小脇に抱えている。
庭山に声を掛けているようだ。
佐山も追いかけようかとも思った。
――が止めておいた。
それだけなのか?
急にロボットが店長になったのに、いつもと変わらない様子で店内を一回りして、「ハイ終わり」ですか。
こりゃ絶対におかしい。
世の中がおかしいのか、オレの脳みそがおかしいのかどっちかだ。
佐山はパントリーでピーク時に散らかったドリンクの片づけをしているあおいのところに行った。
「あおい、おかしくねーか。庭山さん来たけど当たり前のようにカズトと話して、あっという間に帰っちまったぜ」
あおいはいそいそと紙パックの濃縮オレンジや、ペットボトルのウーロン茶を冷蔵庫に片付けながら佐山の話を聞いていた。
ユニフォームの簡易着物の裾をまくり上げながら、
しゃがみ込み佐山の顔を覗き込む。
「そうだね」
それ以上の会話をあおいが膨らませそうな気配はない。
「あおいちゃん、そうだねって。--何か変だと思わない? 」
「変だけど、そういうもんじゃないの。仕方ないじゃない」
あおいの丸く大きな瞳が佐山の目を一瞬だけとらえたが、
スッと視線を外してまた片付けにいそしんだ。
何なんだあおいまで。
その可哀想なものを見るような目つきは。
エレーそっけないし。
もう店長ではないオレに用はないのか。
あおいはパントリーの水場で計量カップやら計量スプーンやら、ピーク時に散らかした備品類をスポンジにたっぷりとポンプの洗剤を浸み込ませて洗いながら考える。
店長でなくなった佐山さんはシフトを増やしてくれるわけでないし、時給を上げてくれるわけでない。
どちらかと言えば押しが強くて何か昭和の男のようなところがある。
ほんとうは苦手なタイプだから、これからは距離をおく方がいいや。
それよか推しのキンキ男子のコンサートまでカウントダウン、あと7日。
ゴールデンウイークは長いな。
体調を崩さないように頑張らなくては。
わたしのシフトと時給を優遇さえしてくれれば店長は誰でも構わないけど。
あのロボット店長は話が通じるのかなー?
何か理屈っぽそうだけど。




