世界の変化
「それでは7月度店長会議を始めます。」
カズトが居酒屋”新世紀”の事業部長となってから3年がたった。
2035年。
カズトは株式の51%を取得して、経営権を握った。
社長兼居酒屋”新世紀”事業部長となる。
本山社長は会長職となる。
株式会社スタイルイーツの実質の経営権は、カズトが掌握した。
株式会社スタイルイーツの飲食店数は121店舗となった。
うちロボットの店長が100名を超える。
社員は約300名のうち、ロボットが8割、外国人が2割、日本人社員は経営層を中心に本社にわずか数名となった。
創業家の本山家、一部の幹部に人間が残るのみ。
現場労働をしている者はサイタマ新都心オオミヤ店の佐山店長のみとなっていた。
「辞令があります。
サイタマ新都心オオミヤ店店長佐山君を、居酒屋新世紀事業部の事業部長に命ずる」
ロボットばかりとなった店長たちからざわめきは起きなかったが、異例の人事だ。
社員からほとんど人間がいなくなる中、事業部長に抜擢されるとは。
「はい!」
佐山はしっかりと返事をした。
動揺はない。
当然ととらえているようにも見える。
「佐山さん、われわれ飲食店は人間の食事動機を満たすのが仕事だ。
しかしながら、当社にはほとんど人間がいなくなった。
人間の本当の欲求をとらえるためには人間の意見を聞かなければいけない。われわれの顧客は人間であるから。
私があなたに求めるのはAIの分析力だけでは対応できない人間の肌感覚だ」
「……なるほど。私もこうなることは少し予想していました。ありかなと」
「さすが佐山さん。あの”地獄谷の700日間”の特訓であなたには私の考えがしっかりと刷り込まれているのですな。
私の思考法則をあなたは熟知している。
そして私も佐山さん、……あなたという存在を熟知している。
今のあなたはスタイルイーツを繁栄させることを信条としたワークマシーンだ。ワークロボだ。」
カズトの顔の表情アピアランスが精悍さをたたえる。
「ありがとうございます。居酒屋”新世紀”事業部の売上が向上するように努めさせていただきます」
辞令を受け取り佐山はあらためて思った。
カズトは決して『人間排除』『ロボットファースト』という考えではない。
株式会社スタイルイーツを繁栄させるという使命を果たすことを考えているだけだ。
――その施策の結果として、ロボット政策を推し進めているだけなのだ。
しかし、――佐山のように労働市場で勝ち残っていける人間はわずかとなった。
勝ち残るために、――佐山は多くのものを失った。
「別れてください」
自分との距離を置いて見始めていた妻の和美が、とうとう切り出したのだ。
「あなたは、とうとう人間ではなくなった。陽朗美のことも見なくなった」
確かにスマホの待ち受けも、もう陽朗美ではない。会社のクレドだ。
そんなことを言われたが、仕方がないじゃないか。
私の優先順位が変わったのだから。
――ロボットの勤勉で正確な仕事ぶりと対等に渡り合うために。
佐山のような社会で通用する存在は、ごく一部でしかなくなった。
大半の人間は、ロボットたちが非効率で生産性が悪いと判断した単純労働で日当をもらう。
その日を生きる奴隷となった。
逆にロボットたちはその知性をフルに活用するため、単純労働から脱却した。
――企業経営に携わる。
知的労働を主な仕事とするようになった。
佐山のようなロボット化した人間以外は、ロボットの奴隷となった。
言われたことだけこなし、日当をもらうことしかできない。
2035年において、もはやこの流れは止められない。
人間はAIロボットに支配される。
――では、人間は何のためにいるのか?
事業部長の辞令を受け取った佐山は、緊張感で身震いした。
目が眩む。
その場にしゃがみこんだ。
大粒の汗が額から滴る。
不審そうに様子を窺うカズトと目が合った。
――ヤバイ、オレも淘汰される。




