佐山の処遇
「ヒト型AIロボットカズト、覚醒。」
見るとカズちゃんが光っている。美しくカラフルにLEDが点灯する。
《冒頭のシーンに戻る》――覚醒したカズトは見事にクレームを処理したのであった。
「最適解として、感情的判断は排除しました」カズトは言った。
でもまだ、オーダーは捌き切れていない。現場は混乱している。
◇
佐山は仕方なく焼き場に行って、松井さんの様子を眺めた。
松井さんはクールなおじさんなので焦っている感じはない。
でも、入っているオーダーの量と質をみればヤバいことは分かる。
焼き鳥特盛セットか4つ、縞ホッケが3つ、ホタテの北海道特濃バターのせが2つ……。
「松井さん、オレが焼き具合を見て仕上げて提供するから、
新規の注文のオーダーを網にのっけてくれ」
「ありがとうございます」
松井さんは良くも悪くも職人気質のおじさんだ。
ロボットが店を仕切っているという特殊な状況にも関わらず、
佐山には何も話しかけない。
黙々と仕事をこなす。
何が起きようと動じることはない。
自分に与えられたタスクを黙々とこなす。
昔は頑固職人で、「手伝いなんかいらねー。邪魔すんな」と言った感じであった。
――今は違う。
オヤジも丸くなったものだと佐山は心の中でつぶやいた。
鶏の脂が垂れるごとに炭から白煙があがり松井さんの額にも汗がにじむ。
鶏串にキツネ色の焼き目が付き始めたら、壺に入ったタレに串をくぐらせ、また網に置きタレの旨味を浸透させる。
入社15年の佐山には手慣れた作業だ。
佐山は大学を卒業したあと小さな証券会社に新卒で入社した。
経済学部なので何となく。
……証券会社から逃げてきたこの仕事でも、結局同じだった。
店長になれば、お山の大将になれると思った。
実際にそれは間違いではなかった。
ときどきやって来るスーパーバイザーの庭山だけかわしておけば、
うるさいことは言われない。
入社して15年以上。
自分に向いている職業と言えるのだろう。
5年とかからずに、店長にもなれた。
居酒屋新世紀系列38店舗の中で、この店は5本の指に入っている。
売上Aクラス店舗だ。
その店で店長をはっているのは……オレがサイタマ県民で家から近いだけではない。
優秀だと思われているからのハズ……だ。
炭焼き炉から燻ぶった煙が上がる。
「ありがとうございます!」あおいとカズトの声が響く。
佐山は我に返った。お客様が引いてきたようだ。
「佐山さん、ありがとうございました」
松井さんが言った。
……おやじはオレが5年前、この店に赴任する前からいた古株だ。
佐山は松井さんとあいさつ以上の口を利かない。
松井のオヤジは、この店舗の前任の店長である羽鳥とよろしくやっていた。
オレとはウマが合わない。
羽鳥をリスペクトするような態度がオレを遠ざけた。
タイゾーがオレに懐かないのも前任店長の影響がある。
おもしろくねーおやじだ。オレの仕事ぶりに不満そうな目を向ける。
腹にはいろいろあるが、『バイトだから黙って従います』といったテイだ。
そうだ、このおかしな顛末をタイゾーに投げかけてみよう。
佐山は松井さんの後ろから数歩歩き、トビウオの骨を抜いているタイゾーのところに向かった。
「おいタイゾー、あのロボットはどうなっちまったんだ。
何が店長だ、ロボットのくせに。
おまえ本部から何か聞いてるか? 」
タイゾーはクレーム対応をしてくれなかった佐山を根に持っている。
ロボットなんかどうだっていい。
もうこの仕事を辞めたい。
それはあんたのせいだ。
そうだ! 言ってやろう。
辞めるつもりなら、何とでも言える。
「佐山さん、……オレはカズトの動きを見て、あのヒトが、
いやあのロボこそが店長だと思いました」
「オレはロボットだろうが何だろうが、
ちゃんとした行動をする店長に従います! 」
佐山は呆然とした。
いつもオレのこと『店長』と呼んでいるのに急に佐山さんだ?
そして何でロボットに従うの? 頭がイカレちまったんだな。
まあいい、タイゾーが何と言おうとこの店の店長を決めるのは会社=本部であり、事業部長の水上さんだ。
タイゾーはもういいや。
安い人件費で使いやすかっただけだし。
庭山スーパーバイザーに言って他店に異動させよう。
あっ、辞められるとオレの評価にキズがつく。
――先に水上さんに根回しをしておこう。
タイゾーとは口を利かなければいいや。
業務上の必要なこと以外はね。
佐山はタイゾーに見切りをつけて、レジ前に居るあおいのところに行った。
帰宅ラッシュの数組連チャンのお会計を済ましたあおいはレジにたたずんでいた。
23時を回りお客さんが引けてきた店内を見渡す。
「あおいちゃーん、今日ロボットをリロードした時変なボタン押さなかった?
アタマおかしくなっちゃて、自分が『店長です』だって。
ロボットのクセに」
「……佐山さん、でもあの動きは店長の動きだよ」
あおいちゃんまで佐山さんと言っている……。
「わたしドリンクの発注してくる」と言ってバックヤードへ行ってしまった。
あおいまで毒されている。
佐山はあきらめて、時間をやり過ごす他なかった。
――自分の立場が揺らいでいることを実感し始めていた。
「このままでは済まさん。ロボットが店長なんて、許されるわけないだろう」
――佐山の腋から悪い汗がしたたり落ちた。
「策を練らねば」




