佐山の最終手段
翌日の16:30。
居酒屋”新世紀”サイタマ新都心オオミヤ店は朝礼の時間となる。
佐山は、あおい達に目配せをする。
分かっているんだろうなと。
レジから水槽の前にぞろぞろと従業員が並び始めようとする。
それぞれの何となく決まっている定位置の辺りにみな移動しようとする。
ヒト型AIロボット店長のカズトが前に立ち、みなの集まりを見ている。
佐山は、あおいのユニホームである黄色に茶色いストライプの入った簡易着物の袖を引っ張った。
「づらかるぞ」と言ってバックヤードの方向に向かおうとした。
アディーとラフマンには目で合図をした。
――アディーとラフマンは佐山の視線を外した。
朝礼の列に並んで、カズトのいる前方をひたすら見ている。
「ちぃ」
と唸ると、今度はあおいが佐山に引っ張られた袖を振り払った。
――そそくさと列の前に戻る。
佐山はあおいを睨んだ。
あおいは前方のカズトの方をひたすら見てシカトを決め込む。
ちっくしょう、恩知らずどもめ!
――仕方ない。
佐山は独り、朝礼が始まるのを無視してバックヤードに向かった。
「……それでは、時間なので朝礼を始めようと思います。
あれ、佐山さんバックヤードに行ってしまいましたがどうしたのでしょうか?
ちょっと呼んできますね。」
カズトは4輪をフルスロットルにして瞬時にバックヤードへ向かった。
何も障害物のないときのカズトはこんなにもスピードが速かったのかと一同は唖然とした。
「佐山さん、朝礼を始めますよ」
佐山は無視して後ろを向いたまま、タバコに火を点けた。
あおいたちのヤロウ。
昨日は4人で3万円近くしたんだぞ。
裏切りやがって。
恩知らずどもが。
怒りで肩が震えた。
メラメラと血が頭部に上昇して行く。
「佐山さん、朝礼に参加されないと就業規則第10章賞罰の第1節懲戒の第102条の懲戒の種類の中の7項目の2の譴責けんせきを適用して、始末書を提出してもらい将来を戒めることとなりますよ」
カズトはまくし立てた。
佐山は吸い終わったタバコを地面に叩きつけた。
全身がワナワナと震えている。
「佐山さん、業務へ戻る気持ちにならないのなら本日は上がって頂いてもよろしいですよ」
カズトはやさしい声でなだめた。
声色も状況に応じたAIの判断で変えることができるのだ。
言うことを聞かない駄々っ子を戒めているように。
「なにおー。ふざけんな!この野郎。おまえ何様のつもりで、勝手に店長をやっているんだ。おまえに指図をされる覚えはねぇ」
「誰がおまえを店長だと認めた? 本部から辞令はもらったんか? 」
佐山はしゃべるほどに頭に血が上り興奮は収まらなくなってきた。
バックヤードのすぐ横の仕込み場に行き、
10cm四方の鉄の塊に取っ手の付いた、肉たたきを取ってきた。
「この野郎!おまえをぶち壊して、この店に火を点けてやる」
佐山は肉たたきを振りかぶった。
「佐山さん、この会話は業務品質の向上のために録音されていますよ」
「何だと! 」佐山の頭に昇り切った血が一斉に引けた。
振り上げた拳が宙で固まる。
オレには家庭がある。
陽朗美のオヤジとして犯罪者になるわけにはいかない。
明白に残るような犯罪の記録を作ってはいけない。
――そうなのだ。
オレは陽朗美にとって店長で『エラいヒト』でなければならない。
「営業中のお客様との接点だけが記録されているわけではないのですよ」
「ワタシにはこの店の中のすべてで起きたあらゆる会話が、小型飛行集音機により録音されます。そして私のクアッドコアCPUで解析され、DeepChat AIで分析され、脳内海馬メモリーに保存されます」
佐山はもう、カズトのしゃべっていることは聞いていなかった。
バックヤードの重たい鉄扉を力強く開いて店を出た。
本部のあるシンジュクに向かった。




