カズト覚醒
この店で一番まともなのは、人間じゃない。
――そしてそれが、問題だった。
◇
見るとカズちゃんが光っている。
美しくカラフルにLEDが点灯する。
……後光が差しているといった感じだ。
「ヒト型AIロボットカズト、覚醒。」
電気自動車の電子音のような音と共に、
猫の耳の部分がポロリと取れた。
首が伸び、スラリと人間のような見た目になった。
腹から下は相変わらずの3段トレーで、
4つの車輪のままだ。
なに? どういうことだ。
カズトはスルリスルリと、クレームのお客様の前まで行った。
「大変申し訳ございませんでした。
こちらが、モリモリオトクセットになります。」
……いや、なぜカズちゃんに接客ができるの?
「それと、水森様ご注文の
”3日炙り3日寝かせのカリモチ皮串5本セット”、
”新世紀オリジナル熱々アヒージョ”です。
それと、こちらはお待たせしたお詫びに
”ふわたま丸々焼き”です。
是非お召し上がりいただきたく思います。
お待たせして大変申し訳ございませんでした。」
あのチンピラ風に見えたサラリーマンは、
もう機嫌が直っている。
口角が上がり、ニヤケる。
「いやー、最近のロボットはしゃべるんだ。
あっという間に全部揃ったじゃない!
しかも”ふわたま”注文しようと思ってたんだよね。
ありがたいね。なんで分かったん? 」
「水森様はこの一年で15回来店して頂いております。
15回の来店で19食”ふわたま丸々焼き”をご注文頂いております。」
「スゲー全部記憶してるの?
オレの名前何で知ってるの? 」
「はい、この1年間のすべてのお客様のご来店履歴とご注文を記憶しております。
居酒屋新世紀会員アプリより、個人情報を頂いております。」
「それマジか!
あんた、ボンクラな人間店長より数倍いいじゃん。」
先ほどは機嫌が悪かったからなのか?
もはや、ロボットだということは気にしていないようだ。
「そうだ! あんたが店長やれば。
あんたが1番シゴトできるし」
声が大きい上にロボットに起きた異変で、
お客様のすべての視線が降り注がれていた。
「はい、ありがとうございます。
ここに宣言します。
本日只今より居酒屋新世紀サイタマ新都心オオミヤ店店長は、
ヒト型AIロボットカズトが務めさせていただきます! 」
満員のお客様は皆酔っているのか?
ロボットが店長?
とは深く考えず、割れんばかりの拍手と歓声で盛り上がった。
机を手で叩く者、足で地面を踏み鳴らす者。
マグロ解体ショーのような盛り上がりだ。
「よっ! ロボット店長」お客様たちの声が響いた。
フロアから賑やかな声が聞こえてくる。
バックヤードでさぼっていた店長の佐山は、さすがに気になって見に行った。
配膳ロボットが店長だ?
ふざけたことを。
しかし、佐山の視界で繰り広げられるカズトの動きは凄まじかった。
優に10皿を超える料理やドリンクを的確にお客様のもとに運んでいる。
――パワーアームのおかげで作業能力は人間より高い。
「ドローン視野!」カズトが叫ぶと、
頭がカパッと割れて、
ホバーパイルダーのような超小型航空機が頭上高いところに浮かんだ。
「あおいさん、つぎの3名様をB2席にご案内してください。」
「亮輔さん、ビールをガンガン作って下さい。
わたしがハイボールとカクテルを作ります」
「ラディーさんは、A5席をバッシングして下さい。
テーブル下に食べかすが散乱しているのでそこも忘れずに清掃してください」
ドローンのお陰で店内が全部見渡せているということか?
カズトは迷いなく指示を出し続けた。
その動きには一切の淀みがない。
あおいはなぜカズトに仕切られているか分からなかった。
ただその指示が的確なので、従わざるを得ない。
他の従業員もなぜカズトが店長宣言をして仕切り始めたのかよく分からなかった。
――ただ、とりあえずこの危機的状況を捌ききるには、
指示に従うのが得策だと理解した。
――正しい。
誰が見ても。
だからこそ、違和感が消えなかった。
店内は不思議な一体感に包まれていた。
だがそれは、意思の統一ではない。
ただ従っているだけの空気だ。
店長の佐山がポカンと虚空を見つめていると、カズトが近づいてきた。
「佐山さんは焼き場のフォローに回っていただけますか。
松井さんがハマっています。」
「はぁ?」
「佐山さん、今焼き場のオーダーに入っている下から5品は、
注文後25分経過しています。
A1卓のお客様の傾向から解析すると、次回来店しない確率が70%以上、
クレームを言う確率が26%となっています」
「はぁ? おまえ、なんて口を利くようになったんだ?
おかしくなっちまったみてーだな。」
佐山はカズトを無視して、あおいのところに行った。
「おい、あおい、これはどうなっているんだ?」
「どうもこうもないよー。店長いないからやばかったんだよ。
そしたらカズトが覚醒してくれて……」
「どういうことかこっちが聞きたいけど?
もしかしたら、さっきリロードしたからじゃない?
こうなるプログラムだったんじゃないの?
会議で何か聞いてないの?」
「知るかそんなこと! 何も聞いとらん」
佐山は額に青筋を立てて言葉を吐いた。
ウェイティングのお客様は切れていた。
――確かに焼き場を手伝って料理を出しきった方が良いタイミングのようだ。
佐山は自分の居場所がなくなっているような恐怖に駆られて動いた。
「どうなっちまったんだこの店は? 」
オレを差し置いて、配膳ロボットが店長だと!




