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迷宮の知者、再び。ー迷宮に取り憑かれた心と共に、二度目は人として生きていくー  作者: 宵永青空


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《返り骨の間》

 下級ダンジョン《返り骨の間》。

 墓標や石棺が延々と並ぶ、範囲型のダンジョンである。


 通路自体は単純だ。

 一直線に伸びる石畳、一定間隔で並ぶ墓標、壁際に寄せられた石棺。

 だが、似たような景色が延々と続くため、初めて訪れる者は簡単に方向感覚を失う。


 進んでいるつもりが、いつの間にか同じ場所へ戻っている。

 そんな錯覚を引き起こす造りだ。


 元々ここは、街の外れに広がっていた簡素な共同墓地だった。

 スラム街で生きる人々が、正式な墓を用意できず、静かに遺体を埋め続けていた場所。

 名も刻まれず、祈りも簡素なまま、ただ土へ還されていく。

 そうして積み重なった死と、長い年月をかけて滞留した魔力が、やがてこの地を変質させた。


 死者の眠る場所そのものが、迷宮として形を持つようになった。

 それが《返り骨の間》だ。


 出現する魔物は、骨剣兵、骨槍兵、骨犬などのスケルトン系統。

 動きは鈍いが、数は安定している。

 個体ごとの強さは低いが、囲まれれば厄介だ。


 素材として加工しやすい骨を落とすため、換金目的で訪れる駆け出し冒険者も多い。

 ただし、油断すればじわじわと消耗させられる。

 派手さはないが、丁寧な立ち回りを要求されるダンジョンでもある。


「まあ、お前ら二人は心配してねぇがな」


 俺はそう言いながら、目の前の光景を見渡していた。

 現在攻略しているのは、ライカとサガルフ、そして俺の三人。


 足元には幾重にも折り重なった骨。

 その中央でダンジョンボス《骨墓守》が鎮座している。

 いや、倒れているという表現が正しい。


 自分の一部だった骨を拾い上げては身体に寄せている。

 だが、骨は繋がらない。

 何度も、何度も、同じ動作を繰り返す。

 そこに意思があるのかどうかも怪しい。


 ライカが投げたナイフが、頭蓋骨を正確に捉えた。

 乾いた音と共に骨が弾け飛ぶ。


 次の瞬間、すべての骨が光の粒子となり、天へ溶けるように消えていった。

 そして、《骨墓守》がいた場所に、宝箱が現れる。


「……もう、終わり?」


 ライカがこてんと首を傾げる。

 俺が頷くと、トコトコと宝箱へ歩み寄る。

 サガルフも金属音を鳴らしながら、その後を追った。


 正直、手応えはない。

 《小鬼の宴》があまりにも難易度が高すぎたのだ。

 俺のイメージ通りの下級ダンジョンだよ、これが。

 ちなみに各々の今のステータスがこちらだ。


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 名前:ライカ

 異名:なし

 技能:【敏捷―B+】【略奪―D】【地形把握―S】【地図作成―B】【投擲―B+】【短剣術―D+】【気配感知―E+】

 状態:健康

 習得適性:【罠感知】【補助魔法(支援)】【???】【???】


 順調に成長している。

 最初から高かった敏捷と投擲は、もうAに届きそうだ。

 短剣の扱いも安定してきている。


 もはや下位冒険者とは言えない水準だ。

 素晴らしい。中級者としてを胸を張れる。

 あとは、斥候としての技術を学ばせるだけだな。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 名前:サガルフ・ビザッツ

 異名:なし

 技能:【不動―S】【剣術―D-】【盾術―B+】【視線誘導―F-】

 状態:健康

 習得適性:【???】【???】


 相変わらずだが、盾役として生まれたような男だ。

 剣術が上がり、視線誘導も覚えた。

 相手とのポジション取りでは、かなり有利に働くだろう。


 こいつも中級冒険者に引けを取らない。

 あとは実戦経験だけだ。


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 名前:アリウス・べべ

 異名:《迷宮の知者》

 技能:【迷宮盲信―EX】【ステータス鑑定―EX】【並行術式―D】【水魔法―A】【風魔法―E+】【支援魔法(補助)―D】【精神耐性―S】

 状態:健康

 習得適性:【土魔法】【光魔法】【支援魔法(物理)】【支援魔法(魔導)】【???】×多数


 俺はというと、水魔法は見ての通りだ。

 それ以外は、ぼちぼちといったところか。


 風魔法が伸びてない?

 そんな馬鹿な。見てみなさい。

 E+もあるじゃないか。


 ……正直、水魔法に集中しすぎていた。

 休息日は練習していたが、【ウィンドダンス】を探していたのも事実だ。

 言い訳じゃない。


 結局、見つからなかったが。

 だから、ロインから買い取って覚えた。

 そんなこともある。

 ……ははっ、とんだ出費だったな。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 宝箱から出てきたのは、骨を象った槍。

 この中に、槍を扱える者はいない。


「これは誰も使えねぇから、売るぞ。いいな?」

「うん」

「はい。自分も槍は使えませんし」


 同意を取り、魔法鞄へ放り込む。

 レファルには、魔法鞄を落とす魔物が出るダンジョンがある。

 そのおかげで、比較的安価に手に入る。


「便利ですよね、それ」

「まあな。明日の下級ダンジョンを攻略したら、二人のも買ってやるよ」

「ありがとうございますっ!!」


 ちらりとライカを見ると、こちらを見上げていた。


「明日の敵は、強い?」


 そう問いかけるライカの頭に手を置いた。


「いんや、ここよりも弱い」


 そのまま俺は撫で回す。

 くすぐったそうな声を出すもやられるがままだ。


「まあ、それ以上に厄介なものがあるがな」


 ポンポンと軽く叩いて手を離す。

 その手をライカは握り直してくる。


「ぎゅっ……して帰る」

「はいはい」


 その様子をサガルフは呆れた顔で見る。


「僕もいるんですからね」

「大事だ。やましいことはねぇよ」

「どうだか、ですよ」


 何やら大きな勘違いをしている青年は置いておき。

 俺たちはレファルの町に戻るため、出口へと足を向ける。



 ダンジョン都市レファル。

 印象としては妙な賑わいがある街だ。


 騒がしいけれども、どこか落ち着いている。

 人は多いが、孤独さを忘れない空白がある。

 ダンジョン都市特有の荒々しさはあるが、殺気がない。



 それもそのはずだ。ここは夢の街だからだ。


 下級および中級ダンジョンが立ち並び、新人冒険者から中堅冒険者まで、多くの者が集まる都市である。

 駆け出し冒険者にとっては、ここで初めて「ダンジョン」という存在を知る者も多い。

 比較的穏やかな下級ダンジョンが多く、死亡率は特段低い。その理由として、地形が把握しやすく、魔物の傾向も読みやすい点が挙げられる。


 中堅冒険者の中には、夢を掴む前に現実を知ってしまった者も少なくない。そうした者たちが街に居着き、燻り続けながらも腰を落ち着ける場所としての側面も持つ。


 換金率の高い中級ダンジョンも多く存在し、『猛猛しくも牛殿』『深緑蜂の集い』がその代表例として知られている。

 中級ダンジョンも下級と同様に傾向を読みやすい。一度覚えてしまえば、誰でも冒険者として生計を立てていけるだけの地盤がこの都市には整っている。


「人、多いね」


 ライカが周囲を見渡しながら言った。

 視線は忙しなく動いているが、警戒というより観察に近い。


「まあな。中継地だし、冒険者も商人も多い」


 西には大陸最大規模の都市ラウル

 南には貿易都市アブダグ

 北東に王都に並ぶ商業都市ハドベック


 レファルはこれら三都市を結ぶ中継地として機能しており、人の出入りが激しく、常に活気に満ちている。冒険者に限らず、多様な人々が混在する点も特徴の一つだ。


 通りには防具屋、素材屋、解体屋、酒場。

 どれも必要最低限だが、数は揃っている。

 派手さはないが、不便もしない。


 サガルフはというと、背筋を伸ばし、荷物をしっかり背負っている。

 視線は前方固定。

 人混みが苦手なのは相変わらずらしい。


「……落ち着きますね」

「だろ。ラウルよりは静かだ」


 そう言いながら、俺は目的の宿を見上げた。


 《丸くなる狐亭》


 木造二階建て。

 派手な看板はなく、狐が丸くなって眠っているだけの簡素な意匠。

 だが、入口は綺麗に手入れされ、足元も整っている。

 冒険者宿にありがちな荒さがない。


「ここにするか」


 中に入ると、穏やかな空気が流れていた。

 冒険者宿ではあるが、騒がしさは控えめだ。

 妙な殺気や、張りつめた緊張感も感じない。

 レファルらしい空気感だな。


「いらっしゃい」


 受付の女将は、目つきが柔らかい。

 冒険者を見る目ではあるが、値踏みするような色はない。

 必要以上に踏み込んでこない距離感だ。


「三人でできるだけ長く泊まりたい」

「問題ないさね。部屋は二階の左奥の三部屋を使いな」

「ありがとうございます」


 鍵を受け取り、階段を上る。

 後ろからは二つの足音がぴったりと付いてくる。

 廊下は静かで、軋む音も少ない。


 部屋の中は簡素だが清潔だった。

 寝台も悪くない。

 置かれた木製の長机と椅子は年季を感じるが、きちんと手入れされている。


「……落ち着く」


 ライカはベッドに腰を下ろし、そう呟いた。

 その一言で、選択は間違っていなかったと分かる。

 ライカがそう言うのなら、間違いないだろう。


「だな。良い宿だ」


 魔法鞄からライカの荷物を取り出す。


「今日は休め。明日から動く」


 そう言うと、二人とも素直に頷いた。

 到着早々にダンジョンへ向かった。

 疲労もあるが、それ以上に情報が足りていない。

 冒険者ギルドで資料を見てみるとしよう。


 その夜は、特別なことは何も起こらなかった。

 食事を取り、水浴びをし、眠る。

 それだけで済んだ。


 それにしても、不思議だ。

 この街は明らかに高位冒険者を受け入れる街ではない。

 七大迷宮の一つがあるとしても、だ。


 何故こんな街に『壊樹』グラベリー・トゥルグヌスが居るのか。

 その疑問は心の奥底に残り続けていた。

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