隣で笑ってくれるなら
この四年、オリヴィアを探して何ヶ国も外交で回った。
各国の王族に許可を取り、仕事の合間に商業ギルドや情報屋に顔を出し、オリヴィアらしき女性を見たら連絡をもらえるよう手配した。
そうして少しずつ情報網を敷いて、彼女の痕跡をひたすら探す。そんな日々を繰り返した。
オリヴィアに会いたくて、でもいつまでたっても見つからなくて、いつも記憶にあるオリヴィアを思い返していた。
だが記憶にあるオリヴィアは、いつも辛そうで、悲しそうで、何かに耐えている顔ばかりだ。
オリヴィアが置かれていた環境を知った今、助けてやれたのは私だけだったのに、愚かな私は上辺だけを見て彼女と向き合おうとしなかった。
私の方が婚約破棄されても仕方ないことを散々していた。それでもオリヴィアは婚約者の座を守るためにずっと努力していたのかと思うと、胸が張り裂けそうになる。
私をただ一人の男として愛してくれていたのはメアリーではなく、オリヴィアだったのに、私は前世で彼女に何と言った?
『君が欲しいのは次期王妃の座だろう?私が求めるのはそんな権力欲に塗れた女じゃないんだよ。何者でもない、ただ一人の男として私を愛し、支えてくれるメアリーのような女性だ』
自分で自分に腹が立ち、目の前のテーブルに拳を打ちつける。
「すまない……オリヴィア」
部屋に情けない声が響いて消えた。
拒絶されて当然だ。
信じてもらえなくて当然だ。
「だけど……それでも無理なんだ……そんな簡単に忘れられるなら、前世から追いかけてくるわけないだろう……っ」
この四年間、オリヴィアに対する想いが愛情なのか、贖罪の気持ちなのか考えたことがある。直接謝りたいのも、自己満足だとどこかで思っていた。
それでもオリヴィアに会わなければ前に進めないから、探し続けた。再会したその先に、彼女に恨まれて殺される運命が待っていたとしても、それが本望だった。
なのに──フタを開けてみれば、自分の中にとんでもない執着心が渦巻いていた。
再会した途端、贖罪も何もかも放り投げ、オリヴィアを今すぐ自分のものにしなくてはならない──そんな独占欲で頭が支配された。
私はいつのまにか、オリヴィアという女を気づかぬうちに深く愛していたらしい。
自覚してしまえば、前世でオリヴィアの死後に廃人になりかけたことも、迷わずに短剣で心臓を刺したことも、執念深く四年も探し続けていたことも納得がいった。
贖罪ではなかった。
オリヴィアをただ、取り戻したかっただけだ。
「好きだよ、オリヴィア……諦めるなんて無理だ」
ましてや一度抱いてしまえば、尚更手放せない。
知ってしまった彼女の熱を、もう一度求めずにはいられない。
どうすればいい?
どうすれば彼女を手に入れられる?
「オリヴィアは、前世の記憶があるのか?」
真実を聞き出すには、オリヴィアと同じ高さに立たないとダメだ。彼女は王子の私にはきっともう会うつもりがない。だから最後に抱かれて終わりにしたんだ。
勝手に区切りをつけられた。
無理矢理会っても、本音を見せてはくれないだろう。
取り繕った笑顔を張り付けるだけだ。
オリヴィアがすべてを捨てたなら、私もすべてを捨てて彼女の前に立たないと、きっとオリヴィアの本当の気持ちは教えてもらえない。
ならば、私のやることは一つだ。
私は、オリヴィアのいない世界はもう耐えられない。
彼女が生きて、隣で笑ってくれるなら、
他には何も望まない。
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「そう……オリヴィアは無事だったのね」
母は安堵の息を漏らし、滲んだ涙を拭った。
「ザラス公爵にもすぐに知らせた方がいいだろう。とても心配しているからな……」
「そうですね……」
あの後、あの国の女王陛下に謁見し、貿易条約を締結させて国に帰った。そして両親にオリヴィアが見つかったことを報告した。
ザラス公爵家とは、オリヴィアが出奔して以来、疎遠のままだ。オリヴィアの調査をしていた時、夫人は対応してくれたが、公爵は終始顔を見せなかった。
私のことが許せないのだろう。
当然のことだ。
「オリヴィアはどんな様子だった? ちゃんと暮らしていけてるの?」
「はい。商会の輸出入を扱う部署で通訳と翻訳の仕事をしていました。社員寮で一人暮らしもしていて、しっかり自立していて驚きましたよ」
「公爵令嬢が……一人暮らし? 侍女もつけずにか?」
「はい。亡命して半年ほどは修道院にいたらしく、身の回りのことはそこで教わったようです」
「そうか……苦労したのだろうな。それでもしっかり自分の能力を生かして自立しているのだから、大したものだ」
「惜しい者を逃しましたね」
「そうだな」
しんみりとしている両親の前で私は膝をつき、臣下の礼を執った。突然の行動に二人は驚き、目を見開く。
「ルミナス?」
「国王陛下にお願いがございます」
「────なんだ。申してみよ」
私の意図に気づいたのか、父が威厳に満ちた声で先を促す。
「どうか、私を廃嫡して下さい」
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『私の愛する人は、私ではない人を愛しています』
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