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それぞれの謀略と罰①



オリヴィアの部屋を追い出され、失意のまま滞在先の宿へと戻った。こちらの姿を見つけた従者たちが一斉に騒ぎ出す。


夜通し探していたのだろう。皆、身なりがやつれ、かなり疲れている様子だった。そして案の定かなりの苦言を呈された。


全員に謝罪しながら、心ここにあらずのまま部屋に籠る。





『私はもう、純潔ではないのです』



彼女を抱いた男がいる。


それを知った時、胸の中が真っ黒に染まった。

そして芽生えたのは狂おしいほどの嫉妬。


しかも、オリヴィアは男を思い出しながら優しく微笑み、その男を愛して、何度も抱かれたと言ったのだ。



その表情はとても綺麗で、以前にはなかった艶めかしい色香が垣間見えた。


つまり、とてもイイ女になっていたのだ。

私が見惚れて言葉を失いそうになるほどに。



その過程に私以外の男がいて、彼女の体を可愛がり、この色香を引き出したと思うと、まだ顔も知らない男に殺意すら芽生える。


婚約は解消され、四年も会えなかったのだ。

その間に何があっても私が口を出す権利はない。



だがこの激しい嫉妬をどう抑えればいい。


血を重んじる王家は、純潔でなければ妃には迎えられない。法律でそう決まっている。



オリヴィアの言うことが真実なら、彼女を私の妃に迎えるのは不可能だ。王太子を辞退したとはいえ、私はまだ王族籍を抜けていない。


臣籍降下した後なら何とかなるかもしれないが、まだ幼い異母弟が立太子するのは何年も先になる。それまでずっと、未婚のままオリヴィアを縛り付けることになるのだ。


そんな環境をオリヴィアが承諾するとは思えない。

それ以前に、私の妻になることを拒絶されている。


説得の余地がまるでない。




「流石に、もう愛想尽かされたか……」



昨夜、何度も私はオリヴィアに愛の言葉を伝えたが、彼女が応えてくれることはなかった。


それでも私に触れる彼女の手から、確かに愛情を感じたと思ったのに──





「やはり、私が許せないか……?」








◇◇◇



ガロン王国でオリヴィアが過ごした日々は、私も含めた人間の悪意に貶められた人生だった。きっと前世でも今世でも、家族との時間以外に心休まる時はなかっただろう。


帰りたくないと思われても仕方ないかもしれない。



オリヴィアが国から消えた後、私は彼女を貶めた者たちを一人残らず罰した。


国宝である守護の短剣を使い、回帰したことを父に話し、前世での出来事をすべて打ち明けた。


オリヴィアを死なせたことについては母同様に顔を歪ませ、そして私たちを取り巻く悪意に気づけなかった自分を悔いていた。



『伝承は真実だったか……これは後世に書き記した方がいいな。お前が回帰したのならば、前世でお前とオリヴィアが死んだ後、この国に危機が訪れたのだろう』


『王族派筆頭のザラス公爵家が実質潰れたのよ。傘下の貴族たちは王家に失望しただろうし、王族派と貴族派の力関係も崩れたはず。側妃は貴族派の人間だから、幼い第二王子が立太子するまでの数年で、内政が乱れて王家が破綻したとしてもおかしくないわ』


『外交に強いザラス公爵が国を捨てたなら、他国から攻め入れられた可能性もあるな。公爵の能力を欲しがる国はいくらでもいる』



両親の会話に愕然とする。


私が死んだ後に、そんなことが起きたかもしれないのか。改めて自分は国王の器ではないと思い知る。


自分の死後、国がどうなるかなんて全く頭になかった。ただ辛い現実から逃げたくて、オリヴィアの元に行きたいと死を選んだ。


自分の願いが叶ったのかと思ったが、まさか本当に国の滅亡の危機だったのか──?



『どうやら王宮内にネズミが潜んでいるようだ。これを機にすべて駆除した方が良さそうだな』


『ええ、そうね。夫人も母親の代から教師を務めているけれど、どうやら彼女は親の七光りだったようだわ。思い上がった鼻っ柱をへし折ってあげなくてはね』



両親の冷徹な表情を、その時初めて見たかもしれない。


そして私は影を使い、メアリーたちや王宮で働く者たちを徹底的に調査した。そして浮かび上がるそれぞれの謀略。



オリヴィアを最も害したのは、マナー教師のサミュエル侯爵夫人だ。これはもう虐待と呼べる酷いものだった。


幼ないオリヴィアの自己肯定感を徹底的に削ぎ落とし、私たちが仲違いするよう誘導していた。


私がオリヴィアを嫌っていると吹き込み、幼い心を傷つけ続けた。そしてミスをするたびに「妃に相応しくない」と罵り、彼女を何度も鞭打ちしていたらしい。  


しかも跡がつきにくい鞭をわざわざ特注で作り、魔法大国から取り寄せた傷薬で完全に鞭打ちの痕跡を消すほどの徹底ぶりだ。


優しく治療することで、オリヴィアにこれは虐待ではなく教育的指導だと思わせ、公爵をも欺いた。その狡猾なやり口が最初から計画的な虐待だったと言わざるを得ない。


オリヴィアを貶める行為は長期間に及び、最近では私とメアリーとの関係を匂わせてオリヴィアの不安を煽っていた。


嫉妬に狂ってオリヴィアがトラブルを起こし、婚約破棄されるように仕向けたのだ。そして自分の娘を妃にしたかったらしい。


実際にオリヴィアの出奔後、自分の娘を妃候補として王妃である母に進言している。



この調査結果に、両親も私も絶句した。


『何なのこれは……ここまで酷かったなんて……っ、なんで今まで報告が上がらなかったの!』


『サミュエル侯爵夫人は、王宮でオリヴィアについている使用人たちを買収していました。皆それぞれ弱みを握られて、侯爵夫人である彼女に逆らえなかったと証言しています』


『オリヴィアが何も言わなかったから今までバレなかったのね……そして彼女がなかなか潰れないから、嫉妬心を煽って瑕疵がつくよう誘導してたってとこかしら』


『恐らくそうだと思います。……ザラス公爵夫人の話では、オリヴィアは妃教育で追い詰められ、寝る間も惜しんで勉強していたらしいです』



私の調査報告をすべて聞き、父が深いため息を一つ溢した。


『なるほどな……そこまで努力して妃教育をこなしていたというのに、婚約者であるお前は他の女に現をぬかしていたわけだ。そして私たちも教師やお前を信用して彼女の苦しみに気づかなかった。捨てられても仕方ないな』


『……そうね。きっとルミナスの記憶にある前世では、サミュエル侯爵夫人の思惑通りにオリヴィアが失脚したんだわ。でも夫人の予想以上にオリヴィアは親世代には次期王妃として認められていた。だから議会では犯罪を暴いた側の貴方も責任追及を免れなかったのでしょう。当然だわ。貴方の浮気が彼女の犯罪の動機だもの』


両親の冷たい視線に何も言えず、調査書を握りしめた。


『まだ王妃教育をしていなかったのが救いかしらね……もしそこに触れていたら、今世でもオリヴィアを生かしておくことは出来なかったわ……』



母の言葉にゾッとした。

私はそんなことにも頭が回っていなかったのだ。


何も見えていなかった自分が情けない。

オリヴィアを断罪する資格などなかったのに。



その後、証拠と証言をサミュエル侯爵夫人に突きつけ、一カ月の投獄と鞭打ちの刑、王都追放の処罰を与えた。二度と教鞭をとることは許されない。


もちろん刑罰に使う鞭は、跡が残らない特注品ではなく、激痛をもたらす拷問用の鞭だ。



サミュエル侯爵は沙汰を受けた時点で妻と離縁し、長男に爵位を譲って隠居した。



彼らの娘が妃候補になることは決してない。

  


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『私の愛する人は、私ではない人を愛しています』

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