美人
津軽美奈江は下の弟を迎えに、小学校へ向かっていた。
彼女は高校生なのだが、両親が共働きなので、親代わりのことをしないといけない。友人と遊びに行くのを断っても、弟達のことは優先しないといけないのだ。
小学校の前には、授業の終わりを待つ児童の親と覚しいひと達が、数人居た。お互い顔見知りなのだろう、世間話に花を咲かせている。「こんにちは」
「ああ、つーくんのお姉さん」
つーくん、は弟のあだなだ。美奈江は微笑んで頷いた。
世間話に加わっていると、見たことのない人物がそこに居るのに気付いた。少しはなれたところで、じっと、児童の親達を見ている。誰だろう……転校してきた子でも居るのかな?
そのひとは、若い女性だった。にこにこして、周囲の会話を聴いている。少々派手な金髪をこれまた派手なピンクのリボンでまとめ、化粧も濃い。充分、美人の部類にはいる顔立ちだった。
ひとの話を聴くのが嬉しくてたまらない、とでもいうように、その女性は実に楽しそうにしていた。それを見ている美奈江もしあわせな気分になってくる。
児童達が校門から走り出てきた。それぞれの家族のもとへ走ってくる。「ねえちゃん」
「おかえり、満」
満は頷いて、美奈江の自転車のかごにランドセルをいれる。
美奈江はふと、あの美人のお母さん(もしかしたらお姉さん)は、誰の家族なんだろう、と思って周囲を見たが、彼女はもう居なくなっていた。
あ……。
彼女と同じ、ピンクのリボンで髪を束ねた女の子が、とぼとぼと歩いていく。ランドセルは淡い紫で、服もおしゃれだ。ちらっと見えた横顔が彼女に似ている気がする。
「ねえ満、あの子は?」
自転車のスタンドを蹴って、美奈江がそっと訊ねると、弟はちょっと哀しそうに顔をしかめた。
「えるちゃん。お母さんがずっと入院してるんだって」




