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ちょっと待って
陶まるみは病院ロビーに居た。
看護師の女性が、クリップボードを手に立っている。「師長、302の患者さんですが」
「うん」
まるみはぼんやりしていた。子どもが入院しているのだ。怪我をして、不運なことにその怪我が化膿してしまった。
しかも、今日は舅と姑が見舞に来る。まるみは夫の両親が得意ではない。なんとなくおしつけがましさを感じるのだ。帰ってしまおうか、と思っていた。きがえを持ってくるとか、そういういいわけは幾つも用意できる。
「ちょっと待って」
耳許で声がして、まるみは我に返った。
まあ……死ぬ訳でもないし、一時間もすれば帰るでしょう。我慢、我慢。
夫の両親はお見舞という、くたびれたぬいぐるみを持ってきたが、子どもがいやがったのでまるみはそれをこっそり家へ持ち帰った。
翌日、テーブルからなくなっていたので夫に尋ねると、丁度ごみの日だから出してしまったという。
「ちょっと、あれあなたのお父さんとお母さんから、お見舞にってもらったものよ」
「そうなの? でもなんか気持ち悪い感じだし、いらないだろ。俺から父さん達に連絡しとく」
「それならいいけど……」
夕方、ごみ置き場にバイクがつっこんで、死者が出たと聴いた。




