交差点にて
佐伯積は出海ことみと歩いていた。ふたりでホラー映画を見に行った帰りだ。
眼帯に覆われた左目蓋が痒い。外したいが、家の外で外すのははばかられた。なにを見るかわからない。
「ちょっと、映像効果がいまいちだったね」
「やりすぎてたなあ、あれは」
交差点の赤信号で、足を停める。霧上駅前には去年、複合施設ができて、昔よりもにぎわっている。交通量も、通行人の量も、積が小さな頃とは比べものにならないくらい増えている。
ことみが転校してきたのも、霧上がどんどん都会のようになっていくからだ。施設は増え、人口も増え、山や原野が切り拓かれていく。ひとのにぎわいは、それ以外のものを端へ々々と追いやるが、彼らは霧上から出て行きはしない。
――多分出て行けないんだろう。
積はなにも考えず、反射的に左腕を真横へ伸ばした。腕にひとがぶつかり、目の前を車が横切っていく。その車になにかがぶつかって歩道へ弾き返され、倒れる。一拍おいて、誰かが悲鳴をあげた。
積が腕を出して防いだから、車道へ飛び出しそうになっていたひとは車の側面にぶつかって弾き返されただけですんだ。すぐに病院へ運ばれたが、命に別状はないという。
積はことみと一緒に、警察に話を聴かれた。車道へ飛び出しそうになっていたひとは、誰かにせなかをおされたと云っているらしい。それは見ていないと積は答えた。正確には、彼が体勢を崩したのも見てはいない。いやな感じがして腕を出しただけだ。
警察は真相究明を諦めているようだった。あの交差点ではよくあることなのだそうだ。